しばらく西くんについていくと、西くんの家らしきアパートへと着いた。

彼はタンッタンッと足音を立てて階段を上がっていく。

「…」

異性の家と思うと一瞬躊躇したが、小さく息を吐くとゆっくりと階段を上がり始めた。

「……」

「……」

前を歩く西くんをふと見上げると、髪がサラサラと揺れている。

なぜか突然、昨日の採点画面の［西くん　すきすぎ］　の文字が脳裏をよぎった。　

（あぁもうッ！違うってば！）

私は軽く頭を振って、頭に浮かんだ文字を否定した。

それでもつい彼を意識してしまい、緊張しはじめる。

すると急に、ふわっと石鹸ような良い香りが鼻をくすめた。

(…西くんの、匂い？)

そう思うと更に意識してしまい、胸がドキドキと音を立て出す。

「何だよ」

いつの間にかじっと見てしまっていたようで、彼に睨まれてしまった。

「え…いや」

私は焦ってサッと目を逸らした。なんだか顔が熱い。

（違うって…きっと階段登って汗かいちゃっただけ…それで暑いだけだから）

私は火照った顔を、一階分しか登っていないけれど、階段のせいだと必死に自分に言い聞かせた。