「じゃあプリントを配るぞ〜」

朝、担任の先生がプリントを1番前の席の人たちに配り出した。

1人1枚プリントを取ると後ろの席に回していくのだが…

ふと隣の列を見ると、西くんの前に座っているクラスメイトは自分の分のプリントを取り
西くんを飛ばして１つ後ろのクラスメイトにプリントを渡した。

わざとプリントを回さないなんて、まるで小学生だ…情けない。

でも西くんは興味なさげに頬杖をついていて、表情は少しも変わらなかった。

「これ、落としたよ？」

私は回ってきたプリントを1枚取ると残りを後ろに回し、取ったプリントを西くんの机にそっと置いた。

「はァ…？」

西くんは横目でこちらを見た。

「…落とした、でしょ？」

私は軽く微笑んでそう伝えたが、目で受け取れと訴える。

「…チッ」

西くんは舌打ちをして一度こちらを睨むと、素直にプリントを受け取り、ファイルにプリントをしまった。

私はそれを見届けるとおもむろに手を挙げる。

「先生、この列プリント一枚足りなかったみたいです」

「おぉ、そうか…すまんな。取りに来てくれ。」

私は立ち上がると先生のもとへ向かい、自分の分のプリントをもらいに行った。

「……」

自分の席に戻るとき、ふと西くんと目があった。

少し微笑んで見せると、眉間に皺を寄せて視線を逸らされる。

彼は余計なお世話だと思っているかもしれないけれど…私は彼をちゃんとクラスメイトの一員として扱いたかっただけだ。そう自分に言い聞かせる。

私は席に戻るとプリントをファイルにしまった。

「…偽善者」

すると突然、後ろの方からぼそりと呟く声が聞こえた。

サッと声のした方を見たが誰もこちらを見ておらず、誰が言ったのか分からなかった。

（……気のせい？）

私はただの思い過ごしだと思うことにした。