「お前…目黒、さ…」

突然西くんに苗字で呼ばれて驚き、私はハッと彼の顔を見る。

「昨日、学校行きたくないッて言ってただろ」

「え…うん」

昨日あんなことがあったので、正直今も学校には行きたくない。

（上履きも買えてないし…）

学校に行ってからのことを考えると、気持ちが沈んでつい俯いてしまう。

「サボッちゃおうぜ」

「え…ッ？」

ふと西くんの顔を見上げると、彼は片側の口角を少し上げていた。

「ダメだよ…親に怒られちゃうし」

（西くんだって親に怒られちゃうだろうに…）

サボりたい気持ちは山ほどあったが…叱られることを考えると、それは簡単には出来ない事だった。

「またいつガンツに呼ばれるかも、いつ死ぬかもわかンねェのに…親とか気にしてる場合かよ」

彼は軽く鼻で笑うとそう言った。

「たし、かに…」

その言葉はとても説得力があって、サボってしまおうかと気持ちが揺らぐ。

「で、どーすンの？」

「サボッちゃおう…かな」

考えれば考えるほど、やっぱり学校に行きたくなくて…いけないとは分かっているが、つい言葉にしてしまった。

「じゃ、決定だな…」

そう言うと彼は私の手を握ったまま、進行方向を変えて歩き出した。

「え…ねぇ…ッ、どこ行くの？」

「俺ん家」

「えぇ…ちょ…ッ！」

（付き合ってる男女が家に、って…それってつまり…つまり…）

私は彼の家に行くと思うとつい変な方向に考えてしまい、顔が赤くなる。

「…なにしてンだよ…入らねェの？」

彼の家の前に着いてアパートの階段を上がると、西くんは扉を開けて待っていた。

「あ…えっと…入る…」

私は緊張で胸のドキドキが収まらないまま、彼の家へと入っていった。