零の復活
須眞火。それは私の斬魄刀の卍解。クロスオーバーが可能となる上に音声入力もできる私の相棒である。
「おしりちゃん。みんなの斬魄刀呼びたいんだけど」
『了解しました。ジャンルの希望はありますか?』
「とうらぶで」
『はい。かしこまりました』
「ありがとう」
『いえいえ』
さすが須眞火。通信速度が柄慧とは段違いに速い。呼び出した六口の刀は一分ほどで私の手元に現れた。
太刀二口、打刀二口、脇差一口、短刀一口。大太刀や槍や薙刀も捨て難いが、扱うのはあくまで女主達なので過度な火力は控えた。もっとも、最強主たる私彼女が握ればマッチ棒でもエクスカリバーになり得るが。
善は急げ。今日中に全てとは言わないから刀を配ってしまいたい。今は深夜だから闇夜に紛れることもできるが、昼間に六口も持ち歩くわけにはいかない。斬魄刀泥棒だのとまたいらぬ濡れ衣を着せられてしまうからだ。
私は駆けた。超直感だけを頼りに。夢主の向かう先にイベントは起きる。その習わしだけを信じて、屋根の上を飛ぶように駆けた。
そして、彼女は現れた。
「あ、あお……」
月夜にたなびくこの世のものとは思えぬ蒼い髪に、思わず言葉を失った。月を掴むように伸ばされた左腕。そして右腕が大きく振りかぶられ、空気を裂くように腕が踊る。私はあの舞を知っている。気を抜けば嗚咽が漏れてしまいそうな口を必死に結び、汗すら踊るその舞を見続けた。
音楽が聞こえるようだ。歓声が聞こえるようだ。ボールの音が、スポットライトが、右手のラケットが。ありもしない幻聴幻覚が私を包む。そう、あれは、
「プリンスオブテニス……! アンコールだよ蒼ちゃん!!」
第一夢主発見。狂ったようにテニミュを踊っていたのは彼女、蒼ちゃんだった。私が知っている蒼ちゃんはこんなマユリ様カラーな髪ではなかったが振り向いた顔は間違いなく蒼ちゃんだったから彼女は蒼ちゃんだ。
「つつおみ様!? なぜこのような場所に!?」
六口の刀を鳴らしながら駆け寄った私は、しかしすぐに足を縫い止められてしまった。髪以外は私の知る蒼ちゃんだと思ったが、中身も髪と同じく変わってしまっているらしい。その現実がすぐには受け止められなかった。
青い髪を揺らす蒼ちゃんは、私の真名を呼んでくれた。しかし、敬称は“様”。私の知る蒼ちゃんはそんな呼び方をしない。ならば私も、この世界の私にならなくてはならないだろう。
「……蒼さん。今の私はただの賀田です。どうか、そのように」
「分かりました……」
残酷な世界だ。この世界は私にとって余りにも非情。優しさの欠片もない造りをしている。
涙を堪えて、私は抱えた刀の中から一口を差し出した。金の鞘に赤い柄巻きの打刀。もしも私が魔王なら、この場で一戦交えなくてはならなくなる刀だ。
「蒼さんの刀です。受け取ってください」
「へし切長谷部……。ありがたく、頂戴させていただきます」
「いえ、この斬魄刀はもともと蒼さんの刀です。私はただ預かっていただけですから。預かっていただけですから」
だから断じて下げ渡すとかそういうものではないし、本来の主は蒼ちゃん(という設定)なので恨まれる筋合いもない。そこのところ、長谷部はきちんと分かってくれているだろうか。自信がない。
残る刀は五口となった。蒼ちゃんは名残惜しそうにしていたが、私たちが一緒にいるところを見られるのはあまり良くない。月夜と青い髪と舞を足すと九割九分の確率で隊長格が召喚される。つまり旗だ。旗が立つ。
逃げるようにその場を後にした私の気など露ほども知らず。久方ぶりの愛刀の帰還に舞い上がった蒼ちゃんは、しばらくへし切長谷部片手にテニスの舞を踊っていたという。
「おしりちゃん。みんなの斬魄刀呼びたいんだけど」
『了解しました。ジャンルの希望はありますか?』
「とうらぶで」
『はい。かしこまりました』
「ありがとう」
『いえいえ』
さすが須眞火。通信速度が柄慧とは段違いに速い。呼び出した六口の刀は一分ほどで私の手元に現れた。
太刀二口、打刀二口、脇差一口、短刀一口。大太刀や槍や薙刀も捨て難いが、扱うのはあくまで女主達なので過度な火力は控えた。もっとも、最強主たる私彼女が握ればマッチ棒でもエクスカリバーになり得るが。
善は急げ。今日中に全てとは言わないから刀を配ってしまいたい。今は深夜だから闇夜に紛れることもできるが、昼間に六口も持ち歩くわけにはいかない。斬魄刀泥棒だのとまたいらぬ濡れ衣を着せられてしまうからだ。
私は駆けた。超直感だけを頼りに。夢主の向かう先にイベントは起きる。その習わしだけを信じて、屋根の上を飛ぶように駆けた。
そして、彼女は現れた。
「あ、あお……」
月夜にたなびくこの世のものとは思えぬ蒼い髪に、思わず言葉を失った。月を掴むように伸ばされた左腕。そして右腕が大きく振りかぶられ、空気を裂くように腕が踊る。私はあの舞を知っている。気を抜けば嗚咽が漏れてしまいそうな口を必死に結び、汗すら踊るその舞を見続けた。
音楽が聞こえるようだ。歓声が聞こえるようだ。ボールの音が、スポットライトが、右手のラケットが。ありもしない幻聴幻覚が私を包む。そう、あれは、
「プリンスオブテニス……! アンコールだよ蒼ちゃん!!」
第一夢主発見。狂ったようにテニミュを踊っていたのは彼女、蒼ちゃんだった。私が知っている蒼ちゃんはこんなマユリ様カラーな髪ではなかったが振り向いた顔は間違いなく蒼ちゃんだったから彼女は蒼ちゃんだ。
「つつおみ様!? なぜこのような場所に!?」
六口の刀を鳴らしながら駆け寄った私は、しかしすぐに足を縫い止められてしまった。髪以外は私の知る蒼ちゃんだと思ったが、中身も髪と同じく変わってしまっているらしい。その現実がすぐには受け止められなかった。
青い髪を揺らす蒼ちゃんは、私の真名を呼んでくれた。しかし、敬称は“様”。私の知る蒼ちゃんはそんな呼び方をしない。ならば私も、この世界の私にならなくてはならないだろう。
「……蒼さん。今の私はただの賀田です。どうか、そのように」
「分かりました……」
残酷な世界だ。この世界は私にとって余りにも非情。優しさの欠片もない造りをしている。
涙を堪えて、私は抱えた刀の中から一口を差し出した。金の鞘に赤い柄巻きの打刀。もしも私が魔王なら、この場で一戦交えなくてはならなくなる刀だ。
「蒼さんの刀です。受け取ってください」
「へし切長谷部……。ありがたく、頂戴させていただきます」
「いえ、この斬魄刀はもともと蒼さんの刀です。私はただ預かっていただけですから。預かっていただけですから」
だから断じて下げ渡すとかそういうものではないし、本来の主は蒼ちゃん(という設定)なので恨まれる筋合いもない。そこのところ、長谷部はきちんと分かってくれているだろうか。自信がない。
残る刀は五口となった。蒼ちゃんは名残惜しそうにしていたが、私たちが一緒にいるところを見られるのはあまり良くない。月夜と青い髪と舞を足すと九割九分の確率で隊長格が召喚される。つまり旗だ。旗が立つ。
逃げるようにその場を後にした私の気など露ほども知らず。久方ぶりの愛刀の帰還に舞い上がった蒼ちゃんは、しばらくへし切長谷部片手にテニスの舞を踊っていたという。
