零の復活 2018
めちゃくちゃ寝た。驚くほど寝て頭がすっきりしているが窓の外が暗い。
その事実に血の気が引いた。
「寝過ぎた……! な、何時だ!? 仕事……!!」
社会人の寝坊は学生の寝坊とは訳が違う。学生なら自身の成績・信用への直撃で済むが、社会人の寝坊はさらに会社への不利益を伴う。しかも時刻はすでに夜。現実であればスマホに会社からの着信履歴と留守電が並んでいるところだ。思わず柄慧を確認したが、相棒は夢小説専用機なので沈黙を保っていた。
ひとまず布団を蹴飛ばし、どうするべきかと冬眠明けの熊の如く部屋をうろつく。パニックを起こしている癖に頭の中は高速回転し、これからすべき行動と数多の言い訳が脳内を飛び交っている。そしてそこへ、卯ノ花隊長が現れた。
「おはようございます。気分はいかがですか?」
「最悪です! あ、いや頭痛は治りました!」
「ふふ。顔色ももう良いようですね。京楽隊長へも連絡はしてありますから、安心してください。有給休暇扱いにしてくれたそうですよ」
「へ」
卯ノ花隊長の言葉がゆっくりと頭に回って、たまらずその場にへたり込んだ。良かった。本当に良かった。入稿日に寝坊するという特大のヘマをやらかしたことはあったが、さすがに夜まで寝過ごして無断欠勤というのはしたことがない。引いた血の気がやっと戻ってきた。
「すみません。いろいろとありがとうございました……」
「礼には及びません。私が個人的にしたことですから」
やはり彼女は慈母だ。その穏やかな微笑みに思わず涙ぐんでしまった。“個人的にしたこと”の指す意味を履き違えていた私は素直に感動した。
しかし、和やかな雰囲気もここまで。突然表情を変えた卯ノ花隊長を見て、私もそれらしく顔を引き締める。重々しく紡がれた言葉は、事態の進行を示唆していた。
「賀田さん……いいえ、つつおみ隊長。本日、十番隊の姫宮姫華さんが何者かに刺され、倒れていたところを吉良副隊長が見つけられたそうです。幸い、傷はあまり深くありませんでしたので、回道によってすでに完治していますが」
良からぬ噂が飛び交っています。
眉根を寄せた卯ノ花隊長は、そこで一度言葉を切った。想像はつく。大方、今日一日姿の見えなかった私を犯人とする噂が流れているのだろう。動揺することは何もない。履修済みだ。
「姫宮さんは何と?」
「賀田さんに呼び出されたとおっしゃっていたそうです。相手は顔を隠していたので確証はないが、声は賀田さんに似ていた、とも」
「なるほど」
さすがに相手もはっきり言い切るようなことはしないか。普通に考えると姫宮さんの自作自演だが、ごく稀にマジモンの天然だったこともあるので現時点ではなんとも言えない。
幸い、私は今日一日四番隊にいた。証人は卯ノ花隊長。さすがに四六時中診ていてくれたわけではないだろうが、発言力が違う。一介の死神ではそうそう異を唱えることはできない。
となればだ。強力なカードを持っている今の内に動いてしまおう。そうしよう。
その事実に血の気が引いた。
「寝過ぎた……! な、何時だ!? 仕事……!!」
社会人の寝坊は学生の寝坊とは訳が違う。学生なら自身の成績・信用への直撃で済むが、社会人の寝坊はさらに会社への不利益を伴う。しかも時刻はすでに夜。現実であればスマホに会社からの着信履歴と留守電が並んでいるところだ。思わず柄慧を確認したが、相棒は夢小説専用機なので沈黙を保っていた。
ひとまず布団を蹴飛ばし、どうするべきかと冬眠明けの熊の如く部屋をうろつく。パニックを起こしている癖に頭の中は高速回転し、これからすべき行動と数多の言い訳が脳内を飛び交っている。そしてそこへ、卯ノ花隊長が現れた。
「おはようございます。気分はいかがですか?」
「最悪です! あ、いや頭痛は治りました!」
「ふふ。顔色ももう良いようですね。京楽隊長へも連絡はしてありますから、安心してください。有給休暇扱いにしてくれたそうですよ」
「へ」
卯ノ花隊長の言葉がゆっくりと頭に回って、たまらずその場にへたり込んだ。良かった。本当に良かった。入稿日に寝坊するという特大のヘマをやらかしたことはあったが、さすがに夜まで寝過ごして無断欠勤というのはしたことがない。引いた血の気がやっと戻ってきた。
「すみません。いろいろとありがとうございました……」
「礼には及びません。私が個人的にしたことですから」
やはり彼女は慈母だ。その穏やかな微笑みに思わず涙ぐんでしまった。“個人的にしたこと”の指す意味を履き違えていた私は素直に感動した。
しかし、和やかな雰囲気もここまで。突然表情を変えた卯ノ花隊長を見て、私もそれらしく顔を引き締める。重々しく紡がれた言葉は、事態の進行を示唆していた。
「賀田さん……いいえ、つつおみ隊長。本日、十番隊の姫宮姫華さんが何者かに刺され、倒れていたところを吉良副隊長が見つけられたそうです。幸い、傷はあまり深くありませんでしたので、回道によってすでに完治していますが」
良からぬ噂が飛び交っています。
眉根を寄せた卯ノ花隊長は、そこで一度言葉を切った。想像はつく。大方、今日一日姿の見えなかった私を犯人とする噂が流れているのだろう。動揺することは何もない。履修済みだ。
「姫宮さんは何と?」
「賀田さんに呼び出されたとおっしゃっていたそうです。相手は顔を隠していたので確証はないが、声は賀田さんに似ていた、とも」
「なるほど」
さすがに相手もはっきり言い切るようなことはしないか。普通に考えると姫宮さんの自作自演だが、ごく稀にマジモンの天然だったこともあるので現時点ではなんとも言えない。
幸い、私は今日一日四番隊にいた。証人は卯ノ花隊長。さすがに四六時中診ていてくれたわけではないだろうが、発言力が違う。一介の死神ではそうそう異を唱えることはできない。
となればだ。強力なカードを持っている今の内に動いてしまおう。そうしよう。
