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零の復活

 斬魄刀の主が属する隊舎近く。人気の薄い蔵の奥から言い争うような声が聞こえたことで、やはり彼女の身に危機迫っていたのだと知った。
 イベントスチルまでもう時間がない。こうなったらエクスカリバーの出番だ。

「綴れ、“柄慧”」

 物陰に隠れて始解した相棒を構える。柄慧は入力した夢小説展開を現実のものとすることができるが、ここからは私の入力速度にかかっている。どうか間に合ってくれ。

「……身に覚えのない罵倒。本来なら斬りかかられたところで無手で制圧できる相手だ。だが、今は零番隊であることを隠し通さなければならない。霊圧制御装置の存在もある。彼らの矜持を踏みにじれば事態は悪化するだろう。相手の数も多い。どうすれば。拳が振りかぶられ、私はとっさに目を瞑った。しかし、その拳が私へ届く前に、誰かの凛とした声が響いた」

「お前ら、ここで何やってんだよ」

 入力した文字と重なるように、男の声が響いた。間に合った。私はそう思った。しかしどこか違和感があり、そして胸に妙な焦りがあり、恐る恐る物陰から顔を出した。

 するとそこには阿散井恋次副隊長。

 なんということだろうか。よりによって、彼が召喚されるなんて。焦る余り私が登場人物の指定をしなかったおかげで、古の夢小説において最も悪女に心酔させられやすく、最も夢主に手を上げやすい彼が召喚されてしまうなんて。
 蔵からは阿散井副隊長に追い出されたモブ共がぞろぞろ出てきていた。だが、肝心の友人と阿散井副隊長が出てこない。
 こうなれば仕方ない。私は舌打ち混じりに蔵へと飛び込んだ。

「すみません! ここに六番隊の六日さんがいらっしゃるとうかがったのですが!」
「ああ? 今取り込み中だから後に……てめえ! どの面下げて俺の前に現れやがった!!」
「あれ!?」

 なぜか矛先が私に変わってしまった。突然のことに驚いたが、そういえば私自身も嫌われ主だった。嫌われ主が二人そろうという地獄のような状況を生み出してしまったが、私が焦る必要はなにもないのだ。そう、なぜなら私には柄慧があるから。

「自分が姫華に何をしたか、忘れたわけじゃねえだろうなあ?」

 “と詰め寄る阿散井副隊長だったがその時どこからともなく現れた地獄蝶の報告を聞いた彼は私を一睨みして去って行った。”入力完了即更新。
 窮地からの脱出も夢小説の醍醐味。キャラが登場しなくたってこれは紛うことなき夢小説展開。文字の通り、阿散井副隊長の霊圧が完全に遠退いたのを確認し、私は柄慧の始解を解いた。

「六日ちゃん大丈夫だった?」
「なんともないですよ。わざわざ来てもらっちゃってすみません。それより、小夜ちゃんの霊圧感じるんですけど」

 昨日の蒼ちゃんがややアレだったので不安だったが、六番隊に配属された友人、六日ちゃんはそこまで飛んでいなかった。そのことにほっと胸を撫で下ろしつつ、懐に入れていた斬魄刀を取り出す。

「はい。六日ちゃんの小夜左文字。さっきから震えっぱなしでちょっと怖かった」
「あーね。まあ、今晩辺り軽く挨拶行けば落ち着くと思います」
「そっか」

 今日の夜は通り魔が出そうだ。私は零番隊隊長として気を引き締めることにした。
 六日ちゃんは恭しく斬魄刀を受け取ると、胸に抱いて「おかえり」と小さく呟いた。斬魄刀を渡せたのはこれで二人目。直接会えなかったお股を含めてまだ四人分も残っている。先が長い。
 本来の主の元へ戻り、小夜左文字の震えはようやく収まった。他の刀たちも早く主のもとへ帰してやらなければ。そう意気込む私の前に、六日ちゃんはそれまでの緩んだ空気をどこかへ消し去り、片膝をついて頭を垂れる。

「つつおみ様。いよいよ、零番隊が再び集うのですね」

 切り替えの早さに頭がついていけない。やはり、私はただのつつおみではなく最強嫌われ男装主の零番隊隊長つつおみということか。今一度、己の立場を噛み締めて彼女に答える。

「はい。十番隊でいらぬ騒ぎを起こしてしまいましたから。恐らくまた何かが起こるでしょう。それまでに、皆に斬魄刀を返したいのです」
「分かりました。他の者にもそれとなく伝えておきましょう」

 斬魄刀の返還。それこそが零番隊再結成の合図だった。隊士全員に刀を返したとき、恐らく護廷十三隊全員を集めてそこから一人ずつ呼んでいくという恒例のお披露目会をすることになる。定番ではあるが爽快。爽快だからこその定番。
 まだ見ぬ夢の果ては、すぐそこに迫っている。
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