少しの勇気
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後ろからゆっくりと彼に近づく。
私なんかよりも大切にしていそうな斬鉄剣を手入れしている彼に。
ここは私たちの古びたアジト。ルパンたちはお仕事で出張中。
そう。今はふたりっきり。
私の事を愛してくれないで、刀ばかり愛する彼と、ふたりっきり。
今思えば女性への苦手意識が高い彼と、よく付き合える事になったなと思う。
それは全て不二子ちゃんからのアドバイスのおかげか、それとも裏で手引きしたおかげか。
少なくともルパンたちには普段から気を使わせてしまっているのは薄々感づいていた。
私だって伊達にルパンたちの仲間じゃないもの。それぐらい分かる。
今日だって、この時間。それに近いものを感じた。
なかなか進展しない私たちに気を使って。
まだ・・・お互いの身体すら意識して触れたことがない。
ギッと私が床を踏む音がぼろぼろな部屋に響いた。
きっとその音が無くても彼は私が近づいてくることに気がついてる。
刀の手入れで丸まっている背中を、私はやっとの思いで抱きしめた。
普段微かに香る彼の香りが、濃く私の鼻を霞めた。私にとって安心できる、とても、いい香り。
初めて深く感じる彼の体温に、私の鼓動が早く刻んだ。
彼は少し息を呑むと、まるで自分を落ち着かせるように深く呼吸をする。
「・・・どうした##NAME1##」
普段より少し上ずった彼の声が、私の耳の鼓膜を小さく揺らす。
ねえ、どうしてあなたは私を選んだの。
ねえ、どうしてあなたは私に何もしてくれないの。
本当に、私たちは恋人・・・?
そんな疑問を彼にぶつけたかった。言葉が聞きたかった。
だけどそんなことを聞けば、彼が必ず言葉を濁すのを私は知っている。
私は必死に胸の想いを押さえつけた。
「ううん。何でもないの」
ただ、こうして居たいだけ。
そう言葉を付け足せば、彼は斬鉄剣をキラリと掲げた。
刀の反射で私たちが写ると、私はなんだか恥ずかしくなって顔を下に向けた。
彼が斬鉄剣を鞘に収めれば、クルリと私の方を向き、彼が私を、抱きしめた。
男の人の筋肉質な厚い胸に抱きすくめられて、息も止まるかと思った。
「ッ!?」
「すまぬ。お主に寂しい想いをさせていたようで」
彼の声が耳元で聞こえる。
カッと顔が赤くなるのを感じて私は彼の肩に顔を埋めた。
ルパン達から聞いたの?
私がそう聞けば、彼が首を横に振るのを感じた。
私はジワリと嬉しくなり、同時に彼を少しでも責めた自分を悔いた。
私も彼と同様に首を横に振れば、彼はホッと息をつく。
彼はサラリと私の髪を撫で、それから私の顔を見る。
彼の顔はほんのり赤くて、バツが悪そうに片眼をつむっていた。
「御免」
彼がそう呟くのと同時に彼の髪が私の顔に掛かる。
そして唇に微かなリップ音が響いた。
突然の出来事に頭が真っ白になる。
私はなにも反応をすることが出来ずにただ彼のキスを受け入れる。
彼は腕で顔を隠し、素早くそっぽを向いていしまう。
「ご、五エ門・・・」
「すまぬっ!」
彼は私の方を向き直り、唾を飛ばしながらがむしゃらにそう謝った。
顔はより赤く染まり、こっちまで照れてしまうような。
私はそんな彼にクスリと笑い、嬉しさを心に染み渡る。
私が求めていた言葉でなく、ただ純粋な行動で示してくれたことを。
彼の顔を自分の手で包容し、彼の熱を自分も共有する。
顔を恥ずかしさかトロンと惚けさせる彼に向けて私は自分の欲を口ずさんだ。
「ねぇ、もっと・・・していい?」
彼の温かさをもう一度。
もっと。たくさん。
私は斬鉄剣より愛されてる。
だって彼は斬鉄剣にキスなんてしないし、顔も赤く染めないもの。
大好きだよ、五エ門。
そして私たちは再び唇を重ねる。
Fin. 2014/3/1