第4章
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それからドンチャカと昼飯を食い荒らせば、俺ら全員の笑い声が部屋中に響く。
星海も楽しそうに混じる。
けれど突然、何かを思い出したかのようにいきなり席から立ち上がった。
俺らも瞬発的にそちらを見る。
俺はビールを飲みながら。
ルパンはソーセージを詰めながら。
不二子はワインを飲みながら。
五エ門は梅干しを食べながら。
「どぉ~したのー、怖い顔しちゃって」
「びっくりしたじゃなぁい」
ルパンと不二子が驚いた顔で彼女に問う。
星海は自嘲気味な笑みで頬を引つらせた。
どうした、と俺が聞けば数回口を空振りさせた後、ようやく声を発した。
「今更なんだけど・・・」
「「うん」」
「私の旅行用のトランク、どこ行っちゃったのかなぁ、なんて」
それに皆一同、あぁ!と納得したように拳をポンと叩いた。
そういえば彼女は"旅行"という目的でギリシャに来ていたな、と俺は心の中で思い起こす。
そして俺が昨日助けた時には既に手には何も持っておらず、それどころか酷く薄着だった。
きっと昨日の奴らが彼女の服を脱がし、あの薄着を着せたんだろう。
しかし、何のために?と聞かれたら俺はお手上げだ。
一応考えを口ずさんで見るべく、俺は話を切り出した。
「ま、普通に考えて昨日の奴らに取られたんだろ」
「うぅう・・・やっぱりそうだよね」
「もしかして、お金とか大事な物もその中に?」
不二子がそう聞けば彼女は惜しそうに頷いた。
あと学校の宿題が・・・、と彼女が呟けば一同プッと笑ったのは敢えてスルーしよう。
ま、お金や宿題ぐらいならいいんじゃねーのか。
そう俺が呟けば彼女は勢いよく首を横に振り、駄目なの。と言葉を落とした。
「駄目とは、どういう意味でござろうか」
「家に代々継がれてきたペンダントがそのトランクの中に・・・」
「なぁにぃ?ペンダント??」
ルパンがいち早く反応し彼女の元へとパタパタと移動する。
それってこういう奴かい?
ルパンが紙をペロンと見せれば彼女はそれを素早く奪いさり、ジッと見た。
「こ、これ!これすごく大切なの!!」
「真珠のペンダント、ねぇ」
俺も横からチラリと見せて貰えば、見たこともねぇ綺麗な青色の真珠がそこにはあった。
まるで海の雫のような綺麗なブルーは確かに星海に似合いそうだと不意に思う。
だぁったら直ぐにでも取り返しに行かなきゃなぁ!
とルパンは張り切るが、当の本人が首をかしげる。
「あれっ?でも、どうしてルパンさんがこの写真もってるの?」
「え?あ、アハハ~・・・どうしてだろー。おじさんにも分っかんなーい!」
苦しいぞ、ルパン。
俺がそう心の中で呟けば不二子に星海と一緒に買い物に行ってくるように言いつけたところだった。
不二子も最初は疑問に思った顔だったがルパンが軽く耳打ちをすれば、快く頷いていた。
それからしばらくして女2人は出掛けて行き、むさ苦しい男3人だけが残る。
俺はソファに座り、向かいのソファにルパンが座る。
五エ門はフローリングに正座。
大して高くもないテーブルにルパンが用意した資料の写真やらなんやらがゴチャリと並べられる。
さて・・・、とルパンが口を開いたところで俺は口を挟んだ。
「今回の盗む奴ってのは、アイツの家の家宝か」
「ピンポーン、次元ちゃんだいせーかーい」
「・・・それは聞き捨てならぬ」
五エ門は斬鉄剣をカチャンと鳴らした。
星海殿の家宝を盗むなど言語道断。
キッパリとルパンにそう言えば、奴もまあ聞けって、と言って五エ門を宥めた。
「確かにあの子の家宝を奪うって事になっちまったが、次元が彼女と出会って連れてきたのはラッキーだったぜぃ」
「どういう事だ」
俺がそう聞けば、奴は手元の資料の紙から、2枚の紙を取り出した。
1枚は彼女の左胸に描かれていた物と同じタトゥの写真。
2枚目は先程の青い真珠のペンダントの写真。
俺と五エ門はそれを覗き込みながら、ルパンの話を聞いた。
「実はな、この二つが揃わねえと宝は手に入らねえんだ」
「タトゥとペンダントがか?」
「で、その肝心の宝とやらはどういう物でござるか」
五エ門のその質問にルパンは真面目腐った顔でこう言った。
知らねえ。
俺たちは目が点となり、直ぐ様ルパンを問い詰めに掛かる。
畜生お前、調子に乗りやがってこの!
それをルパンがワッタワッタと慌てりゃ大声で叫びやがった。
「ストップ!知らねえってのは語弊があった、本当は"分からねえ"んだ」
「何で宝が分からねえんだよ!」
「落ち着けよ次元。これを見ろ」
ルパンに宥められて、ドスンと深くソファに座り直して、ルパンが提示してきた紙を俺と五エ門で見る。
古くさく黄ばんだ本の1部の写真。
長ったらしい文章がズラリと。
ルパンはここの部分から読んでみ、とトンと指をさした。
えっと、なになに?
"俺は長年の旅の末ようやく人生に納得のいくような、それは素晴らしい宝を見つけることが出来た。
しかし、この宝はきっと他の誰も盗む事は出来ぬまい。
そして到底これを宝だとは誰も気づかないであろう。
考えた人物は天才か、それとも神か。
この美しく綺麗な王冠が似合う人間を見てみたいものだ。"
「大絶賛じゃねーか」
「王冠、と書いてあったが今回の宝がそれでござるか」
「多分、な。今回の宝のことについてはその名も知れねえ旅人の伝記にしか記されてねえんだ」
「つまりソイツにしか謎は解かれてねえって事か」
「しょゆことー!」
「すまぬが今回は降ろさせてもらう」
五エ門がそう言えばバサリと立ち上がる。
俺も降りようかなと考えたところでルパンの五エ門を引き留める声が部屋に響きわたった。
俺はその光景をジッと眺め見ながら、アイツの家のことを考えていた。
どんな家柄なのだろうか。
血筋は?何処から始まった?
家紋のタトゥは一族全員に入れるものか?
あの少女にまつわる話にじ少しずつ興味が湧いてくるのが自分でも分かった。
この1件、面白そうじゃねーか。
ポクポクと考えていると、出て行こうとする五エ門にルパンが最後の切り札を叩き出したところだった。
「星海ちゃんと一緒に居られなくなるけど、良いのかなぁ~」
「ッ!?」
少し顔を赤くさせた五エ門がキッとルパンを睨む。
ルパンも卑怯な手を使うよなあ。五エ門の気持ちを利用してまで。
俺はその様子をしばらく見ることにした。
これも面白そうだから。
「そんなこと・・・拙者には関係ござらん!」
「いいのかなぁ~そんなこと言ってぇ」
「・・・」
「次元に盗られちゃうぜ」
「お、俺かよッ!!」
いきなり呼ばれた名前に反応して飛び上がれば、五エ門が斬鉄剣を引き抜いて真っ直ぐルパンに向ける。
それと同時にテーブルに置いてあった資料が宙を舞い、ヒラヒラと場を煽った。
ルパンは笑いながら手を挙げ、五エ門は顔を赤くさせながらフルフルと奴を睨んでいた。
「・・・いいだろう。しかし」
「おう」
「盗った宝は星海殿に返すと約束しろ」
「りょーかい」
それ、盗った意味無いんじゃないのかとは口を挟まず。
五エ門はフンと鼻息を荒くしながらドサリと座り込み、ルパンは全く気にしていないようにソファへ座り直した。
ったく俺を巻き込むなよな。と呟けばルパンは
ニヤリと笑った。
「んで彼女が最初薄着だった訳だが、理由が分かる人~!」
「アイツ等に何かされたんじゃあねえのか?手首を拘束された痕もあった」
「正解だ。きっと身体に彫られたタトゥを探していたんだろ」
「タトゥがそんなに大切でござるか」
「鍵になってるハズだ・・・。財宝がある場所の」
「おいおい、お前らしくねえじゃねえか。情報が曖昧なんてよ」
俺がそう言えばルパンは近くの窓のカーテンをシャッと開けた。
そこから降り注ぐ太陽の光が、窓際に寄り掛かったルパンの顔を逆光で暗くさせる。
情報が少な過ぎるんだ。
ポツリと奴が呟けば俺は、やはりらしくねえと毒付いた。
「そこにある大半の資料がデタラメさ」
「なにっ!?」
俺がテーブルの上から2・3枚の資料をひっ捕らえて読めば、
確かに辻図間が合わなかったり検討違いな事だったり。
全くデタラメな資料ばかりだった。
俺はバサリとソレを放り捨て、ソファからズリと身体を深く預けた。
「資料館やネットで掘り下げてもそれだけしか見つからねえ。しかも信じれるのは見せた3つの写真ぐらいだ」
「・・・誰かが意図的に情報を書き換えた?」
「その可能性はある。何処からかハッキングされた形跡がいくつかあったからなぁ」
「ルパン」
ずっと黙りこくっていた五エ門が不意に口を挟んだ。
ルパンもゆっくりと奴を見下ろす。
どうしたんだ?五エ門の奴。
最近、様子がおかしい。良い意味か悪い意味か時と場合によって別れるが。
「なぜ星海殿を仲間に迎え入れた」
「五エ門はどう思ってる?」
「・・・己の私利私欲の為、少女を利用しようと考えているのではあるまいな」
チャキ・・・と斬鉄剣を微かに抜けば、五エ門の瞳が鈍く光った。
大層ご立腹の様子だこりゃ。
それに対してルパンは堂々たる笑顔で笑った。
「そ~んな物騒なもんしまえよ、五エ門ちゃん。そんなこと考えちゃいねえさ」
「じゃあ何の為に彼女を・・・!!」
「お爺様、に届けるためさ。それともこんなに敵がウヨウヨいる中、お嬢さん一人で帰れってのか」
「ッく」
ああ。朝から俺らのアジトの周りをウロチョロしている黒いスーツ姿の野郎共。
ソイツ等は星海を追っていた野郎共だ。
だが危険にしても彼女は武器関連全般、戦闘が出来るんじゃねえのか?
俺も後ろにある窓をチラリと見れば朝よりも人数がいた。
相変わらず潜伏が下手な男共だぜ。
そして次に聞こえたルパンの声は俺の頭を一瞬混乱させた。
「彼女自身、実戦は無理なんだ」
「なっ、どうしてだ。屋上ではあんなに機敏に動いていたじゃねえか!」
それに潜伏も下手くそなアイツ等ぐらい余裕で倒せるハズじゃ・・・!
そう続ければルパンは静かに首を横に振る。
五エ門も信じられないといった様子でルパンを眺めた。
それを見たルパンは難しそうに口を開いた。
「確かに腕は格段に良いぜ。勿体ないくらいにな」
「勿体ない?」
「ああ。・・・戦闘が出来たのなら、どうして敵に追われボロボロになり、次元にすがりついたんだ」
「そういえば、そうだな」
「倒せたハズだ。本来の実力なら」
「ええい!はっきり申せルパン!!」
「彼女には戦闘は不可能だ。実弾を怖がっている」
「・・・誰だって最初はそうじゃねえのか」
「最初は、な。だが彼女は違うだろ?訓練された動き、判断。並みの経験値じゃあ身に付かねえよ」
「チッ、いつそれに気付いた」
「俺が屋上でワルサーちゃんを撃ったろ。その時だ。まさかとは思っていたが」
まさか、そんな。
だがアイツは急だったとはいえ、ワルサーの弾を受けて確かに腰を抜かしていた。
同時に震えてもいたような気がする。
どうする。仲間に入れた以上、戦闘は回避出来ねえ。
俺たちに出来ることは・・・アレしかねえ。
「だったら尚更、なぜ仲間にした!」
「分からねえのか五エ門!!・・・彼女は宝の鍵だ。そんな彼女をここでバイバイしちゃあ命が危ねえってんだ!」
「拙者たちと居ても同じでござろう!?」
「同じじゃ無いぜ。なあ次元」
「そうだな、相棒」
どうやらルパンの胸にあるものが一つ、俺の胸とも合致したようだ。
ルパンがニッと笑えば俺もニヤリと笑う。
そして二人で声を合わせてこう言った。
「「俺たちは守る事が出来る」」
五エ門は目をパチクリさせ、それから微笑んだ。
あい分かった。と呟いて。
それと同時に“不器用な男共だ”と呟いた。
それはテメエもだろ、五エ門。
俺らは笑いあった。むさくるしく。
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