オートフィクション

27 出産

2019/11/08 20:43
子どもが生まれて六日目の午後、雲のない真っ青な気持ちのいい夏空を病院の廊下の吹き抜けから見上げた。

私はきっとこの空を忘れない。今この瞬間が、記憶に残る穏やかで満ち足りたものであることに気づく。

子どもが眠るワゴンを押し個室へ入ると、目隠し用のカーテンを引く音で驚いたのか、小さな指がぴくりと動いた。ふ、うぇー、と弱々しい声があがる。ワゴンに振動が響かないよう極力ゆっくりと、でもいそいそとベッドへ向かい、心拍確認用のセンサーの電源を切り、柔らかい首の後ろと腰の下へ手を入れ子ども抱き上げる。ベッドに座り、緩めた襟元に子どもの顔を近づけると、まだ浮腫んで小さい目がゆっくりと開いた。

私の乳房を咥え、目を閉じながら口を忙しなく動かす子ども。くっ、くっと、小さな唇と舌が動く振動が優しく乳首に伝わってくる。
ふと、子どもの口から乳首が離れた。その瞬間、プラスチック製のニップカバー越しに自分の乳首の先端が見えた。細かく小さな凹凸のあるラズベリーのような表面に、ぷくりと白い粒が生まれる。

あっ……と思う間もなく、子どもの開いた唇が乳首に近づく。私は無意識に右腕と左手を動かし、子どもの口に乳首を差し込んだ。くっ、くっとすぐに規則的な振動が肌に伝わってくる。子どもの唇と私の乳首が互いに引かれ合っているようだった。

なんともいえない満ち足りた気持ちになって、私は腕の中の我が子をじっと見つめた。

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