一次創作
ヤクシマ
2021/09/01 03:01※強くなれない既婚子有り女
「カンナちゃんはよく頑張ってるよ」
車の助手席に座ったオヤジはそう言いつつ私のスカートから出た太ももをさっきからチラチラと見ている。私と一発やりたいのか。今の自分の性欲を考え、オヤジの赤ら顔を間近に見ながら喘ぐ自分を想像し、保育園のお迎えの時間までを逆算して、ため息をついた。だめだ。性欲はあまりないし、オヤジは気持ち悪いし、時間は足りない。
「いやぁ……」
「分かった。そしたら今度なんか俺が奢ってやるから」
「うーん」
俺が奢れば問題まるっと解決!と言わんばかりの図々しさというかズレというか厚かましさというか、まぁとにかく一言でいうとウザい。しかもオヤジとこの狭い島で白昼堂々ランチなわけがなく、暗に夜の密会を誘われていることにより不快になる。
誘いをなんとかかわし、家に帰ると時計を確認して、20分だけ……と横になる。でも寝付けず、結局携帯に手を伸ばしてSNSをチェックする。時間になり、保育園へ向かい、子どもを連れ近所の店で買い物をして、家を出た40分後に家に戻りまた同じように時計を確認する。はぁ。とため息をつくと、真似をしてからかってくる子どもにハイハイと言いつつ台所へ向かう。
ごはんを子どもと食べ、風呂場で湯船に浸かっていると、涙が出てきた。
「ママ涙出てるよ」
「うん」
「悲しいの?」
「うん、ちょっとね。でも大丈夫」
手元のおもちゃで遊びながら、ちらちらと私の顔を見てくる子どもに申し訳なくなる。私だって、自分の親が目の前で無言で涙を流していたら戸惑うだろう。大人の自分がこれなのだから、子どもからしてみればどうしていいのか分からないに違いない。母は強いと言うけれど、こういうとき私は、自分の中にまだこの子と同じくらいの子どもの自分がいるように思えてくる。強くなるはずだった。強くなりたいと思っていたし、今も思っている。だけど、現実の私は子どもの前で衝動的に泣く女だった。自分のこの姿が、強くありたいと思う気持ちをくじかせる。
子どもを10時前に寝かしつけたころ、酔っ払った義理の母親が呑み会に出ている夫にポテトサラダを持ってきた。義母の登場に、冗談でしょ?と思っている間に、義母は子どもの眠る部屋へ向かうと「りょーちゃぁん、おばあちゃんだよぉ」と子どもの顔を覗き込みながら猫なで声で話しかけ、目を覚ました子どもに「おばあちゃんちにお泊まりに来る?」などとほざき、テンションの上がった子どもとともに、こちらの話を聞きもせず数件離れた夫の実家へと歩いていった。
義母にとって、私は空気に等しい。机の上に置かれた夫の好きなポテトサラダを睨む。どうせ、一時間すれば息子の相手に疲れて迎えに来てとかなんとか電話がくる。それまでにもしも夫が帰ってくれば、あいつに迎えに行かせてそのままボロクソ言ってやる。
あまり悲観的にならないよう、子ども眠りにつくまでの予定を考える。でも、涙が頬を伝って床に落ちた。
なんでこんなことになるんだろう。顔を手でおおってその場にうずくまる。着信を知らせる携帯のバイブ音が机上を震わせ始める。もしかしたら、夫からの帰りが遅くなるという連絡かもしれない。もしそうだったら、子どもと義母のことを言って、何がなんでも早く帰ってきてもらおう。
涙をぬぐって携帯を手に取ると、ホームボタンを押す直前の暗い画面に一瞬自分の顔が映った。
「カンナちゃんはよく頑張ってるよ」
車の助手席に座ったオヤジはそう言いつつ私のスカートから出た太ももをさっきからチラチラと見ている。私と一発やりたいのか。今の自分の性欲を考え、オヤジの赤ら顔を間近に見ながら喘ぐ自分を想像し、保育園のお迎えの時間までを逆算して、ため息をついた。だめだ。性欲はあまりないし、オヤジは気持ち悪いし、時間は足りない。
「いやぁ……」
「分かった。そしたら今度なんか俺が奢ってやるから」
「うーん」
俺が奢れば問題まるっと解決!と言わんばかりの図々しさというかズレというか厚かましさというか、まぁとにかく一言でいうとウザい。しかもオヤジとこの狭い島で白昼堂々ランチなわけがなく、暗に夜の密会を誘われていることにより不快になる。
誘いをなんとかかわし、家に帰ると時計を確認して、20分だけ……と横になる。でも寝付けず、結局携帯に手を伸ばしてSNSをチェックする。時間になり、保育園へ向かい、子どもを連れ近所の店で買い物をして、家を出た40分後に家に戻りまた同じように時計を確認する。はぁ。とため息をつくと、真似をしてからかってくる子どもにハイハイと言いつつ台所へ向かう。
ごはんを子どもと食べ、風呂場で湯船に浸かっていると、涙が出てきた。
「ママ涙出てるよ」
「うん」
「悲しいの?」
「うん、ちょっとね。でも大丈夫」
手元のおもちゃで遊びながら、ちらちらと私の顔を見てくる子どもに申し訳なくなる。私だって、自分の親が目の前で無言で涙を流していたら戸惑うだろう。大人の自分がこれなのだから、子どもからしてみればどうしていいのか分からないに違いない。母は強いと言うけれど、こういうとき私は、自分の中にまだこの子と同じくらいの子どもの自分がいるように思えてくる。強くなるはずだった。強くなりたいと思っていたし、今も思っている。だけど、現実の私は子どもの前で衝動的に泣く女だった。自分のこの姿が、強くありたいと思う気持ちをくじかせる。
子どもを10時前に寝かしつけたころ、酔っ払った義理の母親が呑み会に出ている夫にポテトサラダを持ってきた。義母の登場に、冗談でしょ?と思っている間に、義母は子どもの眠る部屋へ向かうと「りょーちゃぁん、おばあちゃんだよぉ」と子どもの顔を覗き込みながら猫なで声で話しかけ、目を覚ました子どもに「おばあちゃんちにお泊まりに来る?」などとほざき、テンションの上がった子どもとともに、こちらの話を聞きもせず数件離れた夫の実家へと歩いていった。
義母にとって、私は空気に等しい。机の上に置かれた夫の好きなポテトサラダを睨む。どうせ、一時間すれば息子の相手に疲れて迎えに来てとかなんとか電話がくる。それまでにもしも夫が帰ってくれば、あいつに迎えに行かせてそのままボロクソ言ってやる。
あまり悲観的にならないよう、子ども眠りにつくまでの予定を考える。でも、涙が頬を伝って床に落ちた。
なんでこんなことになるんだろう。顔を手でおおってその場にうずくまる。着信を知らせる携帯のバイブ音が机上を震わせ始める。もしかしたら、夫からの帰りが遅くなるという連絡かもしれない。もしそうだったら、子どもと義母のことを言って、何がなんでも早く帰ってきてもらおう。
涙をぬぐって携帯を手に取ると、ホームボタンを押す直前の暗い画面に一瞬自分の顔が映った。