交差点上
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「で、紆余曲折を経て今もヴェーダのなかにいるのね」
「概ねそんなところだ」
ほほう、顎に手を当て聞いた話を噛み砕く。今回ばかりは私も駆り出される程の大事件で、その壮絶な内容は到底すぐ飲み込めるものではなかった。ぼんやりとしか理解できないがクラウドと常時同期しているようなものか?
「うわあ、自己同一性とかすごく掘り下げたい、言われて良い気はしないかもだけど私もそっち行けないかな!?」
「そう簡単にヴェーダへ人を放り込まれてはたまったものじゃない。悪いが諦めてもらうしかないな」
画面に表示されているティエリアは普段よりますます感情が読み取りづらい。にべもなく返されて崩れ落ちるこちらの情けない様子も、目立った反応はなくともカメラを通して見えていたりするのだろう。
「……そこまで落ち込むような事なのか?」
ほらね。
「うん。永遠の命とか、目的にはならないけど手段としては欲しいかな。銀河の観察日記とか始めたら、時間がいくらあっても足りないでしょ?」
「全く……そんな理由のために、君は……」
音声が届くまでの微かなラグから、電脳体でも仮想溜息は出せるという発見をした。
「そんな理由じゃない」
大きく首を振ってカメラを見据える。
「そんな理由じゃないよ、ティエリア。幼い頃から夢だったさ」
はりぼてくさいイメージ映像がぴくりと動いたような気がした。きっとここにはない視線に正面から見つめられている。
「好奇心だけは一人前だな。猫をも殺すとはよく言ったものだ」
「おっ、辛辣だねぇ」
「永遠の命か。尚更君を招き入れる訳にはいかなくなった」
軽口は無視されるわあっけなく断られるわ、今度はがっくり肩を落とす羽目になった私に構わずティエリアは続ける。
「なまえ、僕の肉体は設計図に沿って作られた入れ物でしかない。よって、精神面ならともかく体としての成長は起こり得ないんだ」
なんとなく想像していた通りだ。頷いて先を促す。
「だから、という訳ではないんだが」
珍しく言い淀む彼へ名を呼びかけながら何度か液晶に触れると、「ああ、悪い。聞こえている」と返ってきた。
「僕個人としては、君達が日々少しずつ人として成長していく様子を、もう少し見てみたいと……思う。」
予想外の言葉に時が止まる。
「すまない。巧く表現できないが、できなかったことをできるように改善していく姿や、君が生きている今この一瞬にしかない光景を、眩しいと感じている僕がいる」
ところどころ詰まりながらもそう言った彼はせわしなくフレームの中を行ったり来たりし始めた。あらぬ意味に取られないよう表現を練っていることだけは私にも理解できた。
「今は今しかないから美しいみたいな話?」
「かなり端折った物言いだが、内容は君が言っている通りだ」
うんうんなるほど、言いつつ大げさに頷いてはみたけれど、私だって長年の目標をはいそうですかと投げられるほど諦めが良い人間ではない。聞いた話を加味したところで、結局みんなの人生見守って看取っていけるティエリア、実のところある種の勝ち逃げなんじゃないか?リジェネがいるなら今後完全に一人になっちゃうわけでもなさそうだし。
そんな単純な問題ではないか。
「つまり、実情と私情で許可できない」
ほとんど開き直りだ。
「そこまで言うなら、ティエリアも見たものを教えておくれよ。恒星の一生とか」
「断る。ヴェーダに観測データが残っていたとして、世間話感覚で共有など言語道断だ」
「ああん無情!この悪魔!美形!冷血漢!」
成人なりに精一杯の駄々をこねる私を見て呆れた彼に「君は変わりそうもないな」と盛大にとどめを刺された。
「いいよ、仮に電脳体計画を保留するとして、その分私が頑張ってたらちゃんと見つけてくれるんでしょうね?」
半分冗談のつもりで笑いかけると、彼は画面越しに私へ向き直って目線を合わせた。
「ああ。君の道程は例えヴェーダの力なくとも、僕が必ず記憶しよう」
普段より真剣なティエリアに気圧されかける。ここまで言われては仕方がない、まして普段わがままを口にしない彼の望みとあらば叶えてやりたいと思うのが人の情というものだ。私のデジタル化プランは無期限凍結、今決めた。
「素直に嬉しいよ。ありがとう、ティエリア」
「概ねそんなところだ」
ほほう、顎に手を当て聞いた話を噛み砕く。今回ばかりは私も駆り出される程の大事件で、その壮絶な内容は到底すぐ飲み込めるものではなかった。ぼんやりとしか理解できないがクラウドと常時同期しているようなものか?
「うわあ、自己同一性とかすごく掘り下げたい、言われて良い気はしないかもだけど私もそっち行けないかな!?」
「そう簡単にヴェーダへ人を放り込まれてはたまったものじゃない。悪いが諦めてもらうしかないな」
画面に表示されているティエリアは普段よりますます感情が読み取りづらい。にべもなく返されて崩れ落ちるこちらの情けない様子も、目立った反応はなくともカメラを通して見えていたりするのだろう。
「……そこまで落ち込むような事なのか?」
ほらね。
「うん。永遠の命とか、目的にはならないけど手段としては欲しいかな。銀河の観察日記とか始めたら、時間がいくらあっても足りないでしょ?」
「全く……そんな理由のために、君は……」
音声が届くまでの微かなラグから、電脳体でも仮想溜息は出せるという発見をした。
「そんな理由じゃない」
大きく首を振ってカメラを見据える。
「そんな理由じゃないよ、ティエリア。幼い頃から夢だったさ」
はりぼてくさいイメージ映像がぴくりと動いたような気がした。きっとここにはない視線に正面から見つめられている。
「好奇心だけは一人前だな。猫をも殺すとはよく言ったものだ」
「おっ、辛辣だねぇ」
「永遠の命か。尚更君を招き入れる訳にはいかなくなった」
軽口は無視されるわあっけなく断られるわ、今度はがっくり肩を落とす羽目になった私に構わずティエリアは続ける。
「なまえ、僕の肉体は設計図に沿って作られた入れ物でしかない。よって、精神面ならともかく体としての成長は起こり得ないんだ」
なんとなく想像していた通りだ。頷いて先を促す。
「だから、という訳ではないんだが」
珍しく言い淀む彼へ名を呼びかけながら何度か液晶に触れると、「ああ、悪い。聞こえている」と返ってきた。
「僕個人としては、君達が日々少しずつ人として成長していく様子を、もう少し見てみたいと……思う。」
予想外の言葉に時が止まる。
「すまない。巧く表現できないが、できなかったことをできるように改善していく姿や、君が生きている今この一瞬にしかない光景を、眩しいと感じている僕がいる」
ところどころ詰まりながらもそう言った彼はせわしなくフレームの中を行ったり来たりし始めた。あらぬ意味に取られないよう表現を練っていることだけは私にも理解できた。
「今は今しかないから美しいみたいな話?」
「かなり端折った物言いだが、内容は君が言っている通りだ」
うんうんなるほど、言いつつ大げさに頷いてはみたけれど、私だって長年の目標をはいそうですかと投げられるほど諦めが良い人間ではない。聞いた話を加味したところで、結局みんなの人生見守って看取っていけるティエリア、実のところある種の勝ち逃げなんじゃないか?リジェネがいるなら今後完全に一人になっちゃうわけでもなさそうだし。
そんな単純な問題ではないか。
「つまり、実情と私情で許可できない」
ほとんど開き直りだ。
「そこまで言うなら、ティエリアも見たものを教えておくれよ。恒星の一生とか」
「断る。ヴェーダに観測データが残っていたとして、世間話感覚で共有など言語道断だ」
「ああん無情!この悪魔!美形!冷血漢!」
成人なりに精一杯の駄々をこねる私を見て呆れた彼に「君は変わりそうもないな」と盛大にとどめを刺された。
「いいよ、仮に電脳体計画を保留するとして、その分私が頑張ってたらちゃんと見つけてくれるんでしょうね?」
半分冗談のつもりで笑いかけると、彼は画面越しに私へ向き直って目線を合わせた。
「ああ。君の道程は例えヴェーダの力なくとも、僕が必ず記憶しよう」
普段より真剣なティエリアに気圧されかける。ここまで言われては仕方がない、まして普段わがままを口にしない彼の望みとあらば叶えてやりたいと思うのが人の情というものだ。私のデジタル化プランは無期限凍結、今決めた。
「素直に嬉しいよ。ありがとう、ティエリア」
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