交差点上
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時刻午後三時、急な休みにあてもなく艦内をぶらつくネーナは不意に足を止めた。
何、この匂い?
キッチンの方向からふんわり漂ってくる甘い匂いに惹かれてこっそり中を覗いてみると簡易キッチンの前、不慣れな手つきで調理に勤しむなまえの姿。
「あんた何作ってんの?」
近寄ったネーナがやっと気付いたのは、砂糖と小麦粉と卵を合わせたもの特有の香りだということ。
なまえは一瞬振り返って赤毛の少女を確認すると、視線を戻した先でふつふつと音を立てるクリーム色をひっくり返した。
「パンケーキ焼いてる。食べる?」
できたてのパンケーキがお皿に乗っかるさまを興味深く眺めるネーナに差し出されたボウルには赤と紫のベリーがたっぷり。「生クリームなくてこれくらいしかできないんだけど」と付け加えるなまえ。
「気が利かないのね、これはこれで悪くないけど」
「軟禁の身で贅沢言えないし。熱いから気を付けて」
ナイフとフォークで一口分切り取って、ボウルの中からストロベリーを刺して少しずつ乗せる。
味見がてら口に運ぶと生地の優しい味わいと甘酸っぱさについ顔が綻ぶ。まだちょっぴり熱くて思わず息が漏れた。
「ん〜、そこそこ?及第点?」
「手厳しいなあ」
「あったり前でしょ!言っとくけど、あたしスイーツにはうるさいから」
言い放つ本人はなぜか自慢げ。もう一切れだけ飲み込むと、カトラリーをお皿の端によける。
「あーあ、あたしお腹いっぱい。あと全部あげる」
二口三口かじっただけのパンケーキをよそにストロベリーをつまむ彼女は明らかに一種類のみをより分けている。
「それはいいけど、普段おやつ食べる時途中でやめたくなったらどうしてんの」
「変なこと聞くわね。いらなくなったらあげるって言えば兄兄ズが食べてくれるもん」
「なるほど腹落ちした。よし食べるか、二枚」
なまえはちょうど自分の分をテーブルに置いたところ。いただくよ、一言断ってパンケーキを移動させようと手を動かすも「ちょっと待って」と引き止めるネーナ。
「それなに?」
指しているのは不格好ななまえのパンケーキ。自分好みに焼き上げたせいで表面が焦げっぽいそれには不自然な厚みがある。
「パンケーキだけど、ベーコンとチーズ入れて焼いた」
「……一口ちょうだい」
「え、でも」
「早く!」
なるべく中身が味わえる部分を切り出して急かされながら差し出すと、わがまま娘はフォークに噛み付くかのように食べた。置いてけぼりのなまえはかわいらしい頬が上下するのをぼんやり眺めることしかできない。
「で、想像してた味だったの?」
飲み込んだ頃を見計らって訊けば、ネーナは唇を舐めずって、のんびり頬杖をつく。
「そうね。こういうのが好きなの?なんか……ジャンクな味っていうか」
「うん。甘いパンケーキに甘いもの合わせてもおいしいけど、途中で飽きるし」
「ふーん」
人に押し付けちゃえばいいじゃん、喉まで出かかった言葉を飲みこんだ。こいつ真面目そうだし、そういうタイプじゃないのね、きっと。ネーナが心中で独りごつ間も、二枚重ねの上からナイフを差し込んでは黙々と食べていくなまえ。
「じゃ、あたしもう行くから。後よろしくー」
席を立つ彼女にひらひらと手を振ってみせるなまえは元々一人で食べて後片付けをする予定だったので、全部押し付けられたところで気にも留めない。姿が見えなくなる前にネーナは、思い出したように振り返って。
「ていうか、次は最初っからあたしも呼んどいてよね」
拗ねた子供のような言い草に思考の隙を突かれたなまえが顔を上げて名前を呼んでも、とっくに彼女の姿はなかった。
「美味しかったなら言ってくれても良いのに」
いやいや自惚れか、自分の中でそう結論付ける。ボウルの中身は大半がクランベリーになっていた。
何、この匂い?
キッチンの方向からふんわり漂ってくる甘い匂いに惹かれてこっそり中を覗いてみると簡易キッチンの前、不慣れな手つきで調理に勤しむなまえの姿。
「あんた何作ってんの?」
近寄ったネーナがやっと気付いたのは、砂糖と小麦粉と卵を合わせたもの特有の香りだということ。
なまえは一瞬振り返って赤毛の少女を確認すると、視線を戻した先でふつふつと音を立てるクリーム色をひっくり返した。
「パンケーキ焼いてる。食べる?」
できたてのパンケーキがお皿に乗っかるさまを興味深く眺めるネーナに差し出されたボウルには赤と紫のベリーがたっぷり。「生クリームなくてこれくらいしかできないんだけど」と付け加えるなまえ。
「気が利かないのね、これはこれで悪くないけど」
「軟禁の身で贅沢言えないし。熱いから気を付けて」
ナイフとフォークで一口分切り取って、ボウルの中からストロベリーを刺して少しずつ乗せる。
味見がてら口に運ぶと生地の優しい味わいと甘酸っぱさについ顔が綻ぶ。まだちょっぴり熱くて思わず息が漏れた。
「ん〜、そこそこ?及第点?」
「手厳しいなあ」
「あったり前でしょ!言っとくけど、あたしスイーツにはうるさいから」
言い放つ本人はなぜか自慢げ。もう一切れだけ飲み込むと、カトラリーをお皿の端によける。
「あーあ、あたしお腹いっぱい。あと全部あげる」
二口三口かじっただけのパンケーキをよそにストロベリーをつまむ彼女は明らかに一種類のみをより分けている。
「それはいいけど、普段おやつ食べる時途中でやめたくなったらどうしてんの」
「変なこと聞くわね。いらなくなったらあげるって言えば兄兄ズが食べてくれるもん」
「なるほど腹落ちした。よし食べるか、二枚」
なまえはちょうど自分の分をテーブルに置いたところ。いただくよ、一言断ってパンケーキを移動させようと手を動かすも「ちょっと待って」と引き止めるネーナ。
「それなに?」
指しているのは不格好ななまえのパンケーキ。自分好みに焼き上げたせいで表面が焦げっぽいそれには不自然な厚みがある。
「パンケーキだけど、ベーコンとチーズ入れて焼いた」
「……一口ちょうだい」
「え、でも」
「早く!」
なるべく中身が味わえる部分を切り出して急かされながら差し出すと、わがまま娘はフォークに噛み付くかのように食べた。置いてけぼりのなまえはかわいらしい頬が上下するのをぼんやり眺めることしかできない。
「で、想像してた味だったの?」
飲み込んだ頃を見計らって訊けば、ネーナは唇を舐めずって、のんびり頬杖をつく。
「そうね。こういうのが好きなの?なんか……ジャンクな味っていうか」
「うん。甘いパンケーキに甘いもの合わせてもおいしいけど、途中で飽きるし」
「ふーん」
人に押し付けちゃえばいいじゃん、喉まで出かかった言葉を飲みこんだ。こいつ真面目そうだし、そういうタイプじゃないのね、きっと。ネーナが心中で独りごつ間も、二枚重ねの上からナイフを差し込んでは黙々と食べていくなまえ。
「じゃ、あたしもう行くから。後よろしくー」
席を立つ彼女にひらひらと手を振ってみせるなまえは元々一人で食べて後片付けをする予定だったので、全部押し付けられたところで気にも留めない。姿が見えなくなる前にネーナは、思い出したように振り返って。
「ていうか、次は最初っからあたしも呼んどいてよね」
拗ねた子供のような言い草に思考の隙を突かれたなまえが顔を上げて名前を呼んでも、とっくに彼女の姿はなかった。
「美味しかったなら言ってくれても良いのに」
いやいや自惚れか、自分の中でそう結論付ける。ボウルの中身は大半がクランベリーになっていた。
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