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その瞳に一度空模様を写せば眉を下げがっくりと肩を落とす。街並みは陽を遮られて、つまらない灰色。
「ついてねえなあ……」
両手いっぱいの食料必需品諸々を抱えながら店先で立ち尽くす主人をしばし見上げて、チーグルがついに意を決しぴょんとアピールしてみせる。
「ボクが……ボクがご主人様の荷物を、みなさんの泊まるお宿まで届けるですの!!」
「いくらなんでも無理だっつの!飛んで持って行ってもびしょびしょになるぞ……」
「みゅうぅぅ……」
ミュウの声すら雨音にかき消され、弱まる気配もない。かといってこの量の手荷物を抱えたまま走るには店を出るのが遅すぎてしまった。一旦店内へ戻ってやり過ごすしかないだろうと判断し、引き返そうとしたところで街路の奥から自分の名を耳にする。
「?」
大きく片手を振るなまえ。どうやら聞き間違えではないらしく、目が合ったルークに早歩きで近づいてきた。軽い足取りにかき混ぜられる雨が小気味よい音を立て、目の前で止まる。なまえの目線が大量の購入品に落ちると、どちらからともなく苦笑いをこぼした。
かして。
彼女の声はささやかでほとんど何か聞き取れなかったが、差し出された手からかろうじて意味を汲み取れる。
「悪いし、持つよ。結構重いぞ」
「そこまで非力じゃないよ〜いいから早く!」
「わっ、急に手出すなよ!危ねーなあ」
ルークはなまえのちょっかいをなんとか制し、引き下がりそうもない彼女にしぶしぶ紙袋を差し出せばたしかに受け取って、傘を半分に傾けた。なるべく軽い方を渡した彼なりの抵抗を知ってか知らずか、ただ微笑むばかり。
「ガイは魔物を追い払うのを手伝ってくるって言って外へ。ナタリアは午後から別れる予定だったんでそのまま。で、最後に俺とミュウが残った」
「その上で悪天か。なるほど……散々だったわけだ」
およそ7人分全ての買い物を押し付けられたルークの苦労はナタリアが持ち帰ってくれた分を差し引いても相当で、うっすらとではあるが疲れが窺える。ミュウはミュウで、狭くてすぐ離れてしまう雨避けに追いつくのが精一杯だ。今日ばかりは彼が手伝えるような(主に、道を塞ぐ巨岩など)機会もなく。
「正直、早く帰りたかったんでなまえが来てくれて助かったよ。だから……ありがとな。」
「ありがとうですの!」
「いえいえ。どういたしまして」
ご機嫌ななまえにつられてルークの頬が緩む。前に知らない誰かが「濡れるのはともかく雨は嫌いじゃない」と言っていたのをなんとなく思い出した。
「それにしても、よく傘なんて持ってたよな。普段から持ち歩いてたっけ?」
「ううん、宿のご主人にお借りしたの。古いやつだしもうあまり使わないから、いいよって言ってくれた。」
「そっか。後でお礼言っとかないと」
従者が雇い主の貴族に日傘を差す光景は多いものの彼自身にその記憶はなく、ぱらぱらとよく鳴る雨だれには珍しさすら覚える。
ふと彼女の姿が目に入った。滑らないよう目の前ばかり見ていて気付いていなかったが、傘のほとんどでルークを隠して、なまえの半分ほどはすっかり雨に濡れている。なんだか急に申し訳なくなってきたルークが肩を寄せると、驚いたように慌てて体を離す。
「な……何も逃げることないだろ」
「ごめん、ちょっとびっくりして」
彼女が困ったように笑うと湿った髪が重く揺れ、瞳孔の明かりを消しては灯す。
「体、冷えないのか」
「こっちは気にしなくていいよ。平気平気」
「む。……なまえ」
どうしたの、なまえが答えるより早く傘をするりと奪い取って、ちょうど3人の真ん中に翳した。なまえは呆けた頭でああ油断したなと思わされる。同時に、自分ってそんなにちから弱かったかな、胸の内で不思議と首を傾げてしまう。ルークのちからが彼女よりほんの少し強かっただけの事なのに。彼の真っ白い袖からぽつりぽつり濡れて、曇り色になっていく。
「おっ、これ思ったより軽いじゃん」
なまえがは、と我に返る。
「返してよ、偉い人は濡れちゃダメでしょ!」
「そういうこまけぇのはいいんだよ。つーか、びしょ濡れんなって風邪引いたりすんなよ」
そこまで言われてしまえば、傘を取り返すのは諦めて口を噤む他になかった。そんな彼女を見てけらけら笑うさまはいたずらっ子のよう。聞こえるようにそっと顔を近付けてありがとうと伝えれば、別に、とそっぽを向いてしまった。
3人分の波紋が帰路をでたらめに跳ねて、また消える。このまま行けば程なく今日の宿に着くだろう。
「ついてねえなあ……」
両手いっぱいの食料必需品諸々を抱えながら店先で立ち尽くす主人をしばし見上げて、チーグルがついに意を決しぴょんとアピールしてみせる。
「ボクが……ボクがご主人様の荷物を、みなさんの泊まるお宿まで届けるですの!!」
「いくらなんでも無理だっつの!飛んで持って行ってもびしょびしょになるぞ……」
「みゅうぅぅ……」
ミュウの声すら雨音にかき消され、弱まる気配もない。かといってこの量の手荷物を抱えたまま走るには店を出るのが遅すぎてしまった。一旦店内へ戻ってやり過ごすしかないだろうと判断し、引き返そうとしたところで街路の奥から自分の名を耳にする。
「?」
大きく片手を振るなまえ。どうやら聞き間違えではないらしく、目が合ったルークに早歩きで近づいてきた。軽い足取りにかき混ぜられる雨が小気味よい音を立て、目の前で止まる。なまえの目線が大量の購入品に落ちると、どちらからともなく苦笑いをこぼした。
かして。
彼女の声はささやかでほとんど何か聞き取れなかったが、差し出された手からかろうじて意味を汲み取れる。
「悪いし、持つよ。結構重いぞ」
「そこまで非力じゃないよ〜いいから早く!」
「わっ、急に手出すなよ!危ねーなあ」
ルークはなまえのちょっかいをなんとか制し、引き下がりそうもない彼女にしぶしぶ紙袋を差し出せばたしかに受け取って、傘を半分に傾けた。なるべく軽い方を渡した彼なりの抵抗を知ってか知らずか、ただ微笑むばかり。
「ガイは魔物を追い払うのを手伝ってくるって言って外へ。ナタリアは午後から別れる予定だったんでそのまま。で、最後に俺とミュウが残った」
「その上で悪天か。なるほど……散々だったわけだ」
およそ7人分全ての買い物を押し付けられたルークの苦労はナタリアが持ち帰ってくれた分を差し引いても相当で、うっすらとではあるが疲れが窺える。ミュウはミュウで、狭くてすぐ離れてしまう雨避けに追いつくのが精一杯だ。今日ばかりは彼が手伝えるような(主に、道を塞ぐ巨岩など)機会もなく。
「正直、早く帰りたかったんでなまえが来てくれて助かったよ。だから……ありがとな。」
「ありがとうですの!」
「いえいえ。どういたしまして」
ご機嫌ななまえにつられてルークの頬が緩む。前に知らない誰かが「濡れるのはともかく雨は嫌いじゃない」と言っていたのをなんとなく思い出した。
「それにしても、よく傘なんて持ってたよな。普段から持ち歩いてたっけ?」
「ううん、宿のご主人にお借りしたの。古いやつだしもうあまり使わないから、いいよって言ってくれた。」
「そっか。後でお礼言っとかないと」
従者が雇い主の貴族に日傘を差す光景は多いものの彼自身にその記憶はなく、ぱらぱらとよく鳴る雨だれには珍しさすら覚える。
ふと彼女の姿が目に入った。滑らないよう目の前ばかり見ていて気付いていなかったが、傘のほとんどでルークを隠して、なまえの半分ほどはすっかり雨に濡れている。なんだか急に申し訳なくなってきたルークが肩を寄せると、驚いたように慌てて体を離す。
「な……何も逃げることないだろ」
「ごめん、ちょっとびっくりして」
彼女が困ったように笑うと湿った髪が重く揺れ、瞳孔の明かりを消しては灯す。
「体、冷えないのか」
「こっちは気にしなくていいよ。平気平気」
「む。……なまえ」
どうしたの、なまえが答えるより早く傘をするりと奪い取って、ちょうど3人の真ん中に翳した。なまえは呆けた頭でああ油断したなと思わされる。同時に、自分ってそんなにちから弱かったかな、胸の内で不思議と首を傾げてしまう。ルークのちからが彼女よりほんの少し強かっただけの事なのに。彼の真っ白い袖からぽつりぽつり濡れて、曇り色になっていく。
「おっ、これ思ったより軽いじゃん」
なまえがは、と我に返る。
「返してよ、偉い人は濡れちゃダメでしょ!」
「そういうこまけぇのはいいんだよ。つーか、びしょ濡れんなって風邪引いたりすんなよ」
そこまで言われてしまえば、傘を取り返すのは諦めて口を噤む他になかった。そんな彼女を見てけらけら笑うさまはいたずらっ子のよう。聞こえるようにそっと顔を近付けてありがとうと伝えれば、別に、とそっぽを向いてしまった。
3人分の波紋が帰路をでたらめに跳ねて、また消える。このまま行けば程なく今日の宿に着くだろう。
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