宝石に希望をかける
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「先輩。共闘の石回収手伝ってください」
「…………はあ、別に……構いませんが……」
放課後、オンボロ寮、いつものゲストルーム。
男が視線を向けても監督生は俯いたまま、前髪が表情を覆い隠していてもその声色からそれなりに深刻な事態であるのは窺える。
間を空けて、視線を逸らしたイデアが先を促せば監督生はようやく事の次第を語り出した。
なんでもない理由で復帰したそのソシャゲはログボの度にランダムでキャラが迎えてくること。
破産しない程度にギャンブル依存の自覚がある監督生は推しキャラのピックアップがない間ガチャを控える代わりに、ログインした際にその時のPU対象が現れた場合のみ10連ガチャだけ引くこと。
その日のPU対象はいわゆる副担であり当然出るまで回すつもりだったものの、復帰したばかりの手持ちガチャ石では翌月に控えている推しガチャを天井まで回せないと判断し温存していたこと。
深夜こっそり立ち上げたそのゲームのログイン画面に副担が出て舞い上がった勢いでガチャをぶん回したものの、過半数の石を投げてから気が付いたのは同時開催の別PUを回していたこと────。
「つまり自業自得では?」
監督生は言葉も出さずにソファの背もたれに体を預け脱力し天井を見つめ、たっぷり時間を置いてからちいさく「はい」と零した。
ミッション報酬を取り尽くしイベントを走り切ってからじゃぶじゃぶ石を溶かしたものの、システム上同イベントの別PUなら天井のカウンターは共有されている。監督生の最後の頼みの綱であり、あとほんの少しで届きそうな天井ゲージの上で縁取られたSSR確定の文字が踊っている。
「この状況ならまだ間に合うんじゃない?あと何連なの?」
「8回です」
「りょ。サブ垢動員するんで部屋建てといて」
「うううう〜〜ありがとうございます」
監督生がへろへろと跪いて拝むようにスマートフォンを操作し始めたのを眺めるイデアは、そういえばこんなザコ敵がどっかにいたよね、と脳の奥から古い記憶を結びつけて口元を緩める。残念ながら、監督生を倒したところで大した経験値は得られないだろう。くだらない思考をゴミ箱に移して液晶を軽く叩けば、目的の部屋番号があらわれた。
高レアリティユニットの前にエネミーが立ち塞がる。敵キャラは指先一つで容易く爆散して、わかりやすい数値情報に変換されていく。
お金、EXP、素材、お金、EXP、素材。
報酬の通知が溢れる前に口を開いたのは監督生だった。
「いけない、そうでした。頼み事したんだから対価がないとですよね」
「ア、そこまで難しいゲームでもないんで、アズール氏みたいな……対価とか用意とか気にしなくていいよ」
「そういう訳にもいきませんよ」
「いやなんというか……そう、拙者、今日メッチャ機嫌いいんで」
「それこそアズール先輩みたいな言い方してますよね?」
監督生がへらり笑うと同時に向かいの長椅子からフヒ、と零れたのはやはり分かっててやっている証でもあり。タブレットを交互に動かしながらイデアが呟く。
「でも、そうだな……どうしてもって言うなら、またここに呼んでくれれば、いいけど」
監督生はイデアの方を見てぱちぱちと目を瞬かせた。
「そんなのでいいんですか?私としては願ったり叶ったりなんですけど……本当に?」
一瞬、視線が重なると同時にイデアの全身から変な汗が吹き出る。
「えっ……アッ、いや僕が言いたいのはこっちも天井すり抜けたりしたらなまえ氏のあっさいデータを借りてでも石集めなきゃいけなくなるかもしれませんよねって話であってアクセスも電波状況も微妙なオンボロ寮に毎日毎日招待という名の任意同行を求められてもそれはそれで困るんですけど!」
「はい」
「だから、そういうことなんで」
言うだけ言って背を丸める。
「たまにならいいんですか」
男は黄色い瞳を彷徨わせ、端末の背を小指でつつき、今日一番長い沈黙を積んでから、「うん」と頷いた。ありったけの共闘報酬を受け取った監督生が共闘部屋を爆破する のと、全く同じタイミングであった。
「…………はあ、別に……構いませんが……」
放課後、オンボロ寮、いつものゲストルーム。
男が視線を向けても監督生は俯いたまま、前髪が表情を覆い隠していてもその声色からそれなりに深刻な事態であるのは窺える。
間を空けて、視線を逸らしたイデアが先を促せば監督生はようやく事の次第を語り出した。
なんでもない理由で復帰したそのソシャゲはログボの度にランダムでキャラが迎えてくること。
破産しない程度にギャンブル依存の自覚がある監督生は推しキャラのピックアップがない間ガチャを控える代わりに、ログインした際にその時のPU対象が現れた場合のみ10連ガチャだけ引くこと。
その日のPU対象はいわゆる副担であり当然出るまで回すつもりだったものの、復帰したばかりの手持ちガチャ石では翌月に控えている推しガチャを天井まで回せないと判断し温存していたこと。
深夜こっそり立ち上げたそのゲームのログイン画面に副担が出て舞い上がった勢いでガチャをぶん回したものの、過半数の石を投げてから気が付いたのは同時開催の別PUを回していたこと────。
「つまり自業自得では?」
監督生は言葉も出さずにソファの背もたれに体を預け脱力し天井を見つめ、たっぷり時間を置いてからちいさく「はい」と零した。
ミッション報酬を取り尽くしイベントを走り切ってからじゃぶじゃぶ石を溶かしたものの、システム上同イベントの別PUなら天井のカウンターは共有されている。監督生の最後の頼みの綱であり、あとほんの少しで届きそうな天井ゲージの上で縁取られたSSR確定の文字が踊っている。
「この状況ならまだ間に合うんじゃない?あと何連なの?」
「8回です」
「りょ。サブ垢動員するんで部屋建てといて」
「うううう〜〜ありがとうございます」
監督生がへろへろと跪いて拝むようにスマートフォンを操作し始めたのを眺めるイデアは、そういえばこんなザコ敵がどっかにいたよね、と脳の奥から古い記憶を結びつけて口元を緩める。残念ながら、監督生を倒したところで大した経験値は得られないだろう。くだらない思考をゴミ箱に移して液晶を軽く叩けば、目的の部屋番号があらわれた。
高レアリティユニットの前にエネミーが立ち塞がる。敵キャラは指先一つで容易く爆散して、わかりやすい数値情報に変換されていく。
お金、EXP、素材、お金、EXP、素材。
報酬の通知が溢れる前に口を開いたのは監督生だった。
「いけない、そうでした。頼み事したんだから対価がないとですよね」
「ア、そこまで難しいゲームでもないんで、アズール氏みたいな……対価とか用意とか気にしなくていいよ」
「そういう訳にもいきませんよ」
「いやなんというか……そう、拙者、今日メッチャ機嫌いいんで」
「それこそアズール先輩みたいな言い方してますよね?」
監督生がへらり笑うと同時に向かいの長椅子からフヒ、と零れたのはやはり分かっててやっている証でもあり。タブレットを交互に動かしながらイデアが呟く。
「でも、そうだな……どうしてもって言うなら、またここに呼んでくれれば、いいけど」
監督生はイデアの方を見てぱちぱちと目を瞬かせた。
「そんなのでいいんですか?私としては願ったり叶ったりなんですけど……本当に?」
一瞬、視線が重なると同時にイデアの全身から変な汗が吹き出る。
「えっ……アッ、いや僕が言いたいのはこっちも天井すり抜けたりしたらなまえ氏のあっさいデータを借りてでも石集めなきゃいけなくなるかもしれませんよねって話であってアクセスも電波状況も微妙なオンボロ寮に毎日毎日招待という名の任意同行を求められてもそれはそれで困るんですけど!」
「はい」
「だから、そういうことなんで」
言うだけ言って背を丸める。
「たまにならいいんですか」
男は黄色い瞳を彷徨わせ、端末の背を小指でつつき、今日一番長い沈黙を積んでから、「うん」と頷いた。ありったけの共闘報酬を受け取った監督生が共闘部屋を
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