腐っても時渡り
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「夜科!!」
雨宮さんが叫ぶ。
瞬間にアルフレドがアゲハの首を掴み締め上げる。
硬いものが折れる音がした 一振りの刀だった物がガランと音を立てて落ちる。
「や゛っでみろ゛おおおおおおおおッ!!」
アゲハが叫んだ途端、アルフレドの腕が灰になって消えた。
アルフレドが咆哮をあげる。
「やつの腕が…!?」
服を裂き、現れた体には刃が刺さり色を失って割れた核があった。
「アララララ、ご愁傷様だァ…!」
足元から灰になって崩れていく、そんなアルフレドが最後の悪あがきの一撃を地面に放つ。
その一撃はビルを壊し、アルフレドと一緒にアゲハも落下していきそうになる。
「テメェ一人で地獄に落ちろ!!」
アゲハが蹴りをくらわせ、アルフレドの腕から逃れた。
となりにいたヒリューが飛び出してアゲハを助けに、私は倒れそうな雨宮さんを抱えて近くの柱まで連れて行った。
うぅ、ほこりっぽいな…
「無我夢中だった」
そう、今の私たちの状況を表すにはその一言で十分だった。
「ヘッヘ…まさかアイツの胸にも虫のバケモンと同じ弱点があるとはな、何なんだアイツら…ッたくヘットヘトだぜ…」
アゲハが茶化すように言う、こんな場面だからこそ落ち着くのかもしれない。
「…雨宮たちを連れてきてくれてあんがとよ」
「――…助けられた借りを返しただけだ」
まーったくもうこのツンデレさんめっ! って、キモすぎるな。
ヒリューが思案顔でアゲハを見てる間に、アゲハは雨宮さんに近づいて質問をぶつけた。
雨宮さんは一度まばたきをしてから答える。
「禁人種…"タブー" 誰が名付けたか知らないけどそう呼んでた…凶暴な奴らよ…」
タブーについての説明をひとしきりして、自分たちはこのゲームの参加者だと言った。
…あ、そういえば、カード、テレホンカードはどこにあるかな。
服を探ってみるとズボンのポケットにちゃんと入っていた、よし、帰れるな。
「よっしゃ! そろそろ聞かせてもらおーか!! そのゲームってやつをよ!」
「…後にしましょう…ここは安全じゃない…」
「んーだよッ!! ケッ、教えるまでココ動かねーからな!」
「…へえ……」
雨宮さんはアゲハにペタペタ触るとまたへぇ、と言って立ち上がった。
こ、こわい…気のせいだと思いたいけどいま黒いオーラが見えた…!!
気のせいだ、きっと気のせいだよ!
「スタートの前の…電話の女の指示、覚えてる…?」
あのぐるぐるで気持ち悪いやつか、と一人納得する。
「あの時ある風景が頭に浮かびあがったはず…同じ場所を探して…!」
近くにあるはずだから、と言われ、私も探しに行く。
うーん…このビルはどういう構造になってるのか。
わからないから適当に歩き回ってみる、窓の外は…誰もいないな、よし、大丈夫。
アゲハが行った方向についていってみる。
このまま漫画どおりだったらきっとあっちに…
「はは、すっ…げぇ、本当に…あっ…た…」
「ヒャッホーッ!! GOAL―――!!」
ああもうはしゃぐなかわいいな!
ねーねーっていうな! かわいくて死ぬ!!
…っと。
おお、いつもの私の調子が戻ってきた。
そうだよ、私は元気でいてこそ私だ、腐っていてこそ私だ!
突然こんなとこに飛ばされてパニクったけど、落ち着いて考えりゃいい世界じゃないか。
命に危険があるのはアレだがおそらくもといた世界よりはいいに違いない、だってココにはキャラがいる!
なんてことを考えているうちに公衆電話が光りはじめ、雨宮さんがテレホンカードを挿し入れた。
「怖がらないで私についてきて」
そう言って雨宮さんは消えた。
次にアゲハが受話器を持ってカードを入れる。
おじちゃんうるさいよ、そんな性格してると死んじゃうよ。ってシャレにならんな…
「ホラ、あんたも行けよ」
「えっ! あ、いや、私は後からで…」
「ほんならワイが先行くで」
「待てよ。レディーファーストってのがあるだろうが、早く行けよ」
「う…」
なんだか追い出されてるような感じがしてならない…
まぁ別に怖いことはない、と思う、から行こう、よし!
「…元の世界に戻れますように」
さっきはああいったけど私のいた現実の世界にまだ未練がある。
せめてそれを落ち着けてからここに根を張りたいものだけど…
テレホンカードを入れる、あ、でも電話をとる前にどこぞ都会にいたから望み薄…
周りの景色が消えていく。
「! をおぉっ!?」
あいたっ! しりもちついた…ってぇ。
そうだ、ここは?
周りを確認すると、当然のように雨宮さんとアゲハがいた。
どうやら"戻って"きたみたい…
「あは…ども」
場面は変わって薄暗い公園、外灯がぽつぽつと点き始める時間のようだ。
雨宮さんをベンチに寝かせて救助待ち、そろそろバイクが突っ込んでくるはずだけど…
おじさんがあの世界について説明を求めると、しばらく間を置いてから、アゲハがあの世界は未来だと話した。
「ハ!! 何ぼなんでもそないな話信じられるかいな!」
「うッせェ! 静かにしてろ!!」
「今日はとんでもない目に逢うたけどな…!」
…あ、聞こえる聞こえる、普段なら遠くの音だと無視していたエンジン音。
近所の住民が驚いて跳ね上がるような音がし、ていうか実際に人が飛んだ…
「うおおおお!! 暴走バイク!?」
「無事じゃすまねぇぞ今の…!」
確かにありゃ壁も人もバイクも無事じゃなさそうだ…
その場にいた全員がそう思っているなか、砂煙から人の影が現れた。
しっかり地に足がついているし、こっちに歩いてくるし。
「雨宮桜子を 迎えに来た…」
ひぅ、これがマツリ先生か…!!
間近で見るとなんか感動するな…!
あ、吐いた。
バイクスーツ姿のまま雨宮さんに近寄り、とても優しげな声で話しかけた。
数回会話を交わしたあと、マツリ先生は雨宮さんをかかえて立ち去ろうとする。
アゲハが止めるがぜんぜん気にしない様子だ。
「よく生き残ったなお前達…! お前達はいわばネメシスQに選ばれた『サイレンの放浪者』…!
体を休めておくんだな…次のネメシスQの着信に備えて…」
またあの世界に飛ばされる、と聞いてまた背中がゾクっとする。
むう、風邪でもひいたか。
「ネメシスQの呼びかけで…オレ達は何度でもあの世界へ飛ばされる…ってことか!?」
「そうだ…テレカの度数をゼロにするまで…」
…たしか今の度数が48ぐらいだったっけ。
「一つ忠告しておこう…サイレンでの出来事を軽がるしく第三者に話すのは止めておけ…!!
公共機関やメディア、家族にも自分が"サイレンドリフト"であることをバラしてはいけない
ネメシスQは許さない…秘密を漏らす者にはヤツの制裁が下るぞ…!!」
アゲハは頑固なところがある、いまもそれを出しているが。
なんていうか、女には勝てないね、うん。
アゲハが謎の力で飛ばされて、バイクがひとりでに宙を浮いてマツリ先生のもとまで飛んでいった。
超能力だ、とおじさんは言う。うーむ、似て非なるものだけど、わかりやすいなぁ。
まるで嵐のように過ぎ去ろうとするマツリ先生が思い出したように言葉を残していった。
「今夜お前達は極度の高熱と鼻からの出血に悩まされると思うが…
寝てればすぐ治るから気にするな、それはサイレン世界の大気を吸収した事によるただの感染症状だ」
さらりとけっこう重大なこと言わないでください、と。
「力の目覚めだ」
や、そんな親指グッと立てられても!
……行ってもうた…
「オイ、感染ってなんやねん!? 待てやー!!」
「あーあ、結局なにもわからず、か」
「…アカン…一日色々ありすぎて頭が回らんようなってきたわ…」
その後おっちゃんは蝉谷浩二と名乗ってフラフラ歩きながら帰っていった。
すぐにアゲハも踵を返してどこかへ向かう。
えー…と…私はどこに行ったらいいんでしょうか?
家に帰ろうにも県外だし、てかこの世界に家があるのかさえわからないし。
あったとしても途中高確率で感染して行き倒れか、どこかに泊まろうかといってもお金も無い…
さっき雨宮さんを寝かしていたベンチに腰掛けてぼうっと空を眺めた。
特筆するほどおもしろいことはない、真っ暗な空だ。
「なんだ、アンタまだいたのか?」
「え? あ、あー…なんか気が抜けちゃって」
「ふ…確かにな、でも早く帰れよ、女一人じゃ物騒だからな」
「おっけ。朝河くんも気をつけて」
そのまま帰るかと思いきや、ヒリューはぴたりと足を止めてこっちを向いた。
「なぁ、そういえばアンタさっきオレの名前言わなかったか? あの化け物に飛び掛る前に、もしかしてオレの知り合いか?」
「…え!? いえ、あ? えーと…いや。言ってないですよ。聞き違いじゃないですかね」
「そうか…? それならいいんだが、まあいい。じゃあな」
「ええ、じゃあ…生きてたらまた会いましょう」
…ま、私の場合シャレにならない気がするが。
念のためポケットを探ってみると、かろうじて32円入っていた。
しょっぺ、お菓子は買えるけど…
「あっ! そうだ、文明の利器!」
いやいやすっかり忘れていたね、携帯電話、これで家に電話かければいいじゃんね。
電話帳から家の電話番号を出して通話ボタンを押す、プップップ…と中途半端な音が数秒続いた。
『お掛けになった電話は、現在使われていないか…』
さあっと血の気がひいた。
もしかしたらなにか手違いかもしれない、ともう一度掛けなおしてみるも同じ女性のアナウンスが流れるだけだった。
「あ…あはは、そうか、そうか、まあ、大丈夫だよ、うん…ホームレスとか見習えば、ね」
そうだね、予想はしてたけど実際こう叩きつけられると…でかいな。
どうせ誰もいない家だけど、それでもあったら希望じゃなくても服とかお風呂とかあったのに。
もうすっかりあたりも暗いし、今日はこの公園で野宿か?
でも夜って物騒だから刺されたりしたら、なんて考えなくてもいいか、トイレにでも隠れて寝てりゃあ!
オバケさえ怖くなければ大丈夫さ! きっと大丈夫! 私は大丈夫!! 大丈夫だと思わないと!
よーし、そうと決まればせめてこの汚れた顔くらいは洗って寝てしまおう!
「…? あれ…?」
トイレ、どこだ?
トイレ見つけたら顔洗って寝ようと思ってたのに…
どーこー、もしかしてない? そんなはずはない、こういう公園には必ずトイレがつきものだよ。
だらりと液体が流れる。
「!!」
うわ、赤い、鼻血? うわうわうわ、ちょっそれ、かんべん…
ティッシュあったっけ、どっかポケットに…あった、よかった。
あ、やばい、グラグラする。
いやほんとマジ、で、ここで野垂れ死ぬ? もうどこでもいい、ゆっくりできるとこに…
く、草むら…虫とかどうでもいいや、とにかく寝ないと…
「…はっ、はっ、し、死ぬ…」
あ、まだ余裕あるな。
なんて思ってるうちに視界の端が黒くなっていった。
