腐っても時渡り 原作沿い編
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「ん……」
どこだ、ここ…なにしてたっけ…?
ハッ! そうだジュナス!!
マズい! 気絶してた!? 触手は、電磁錠は…!?
「おはようさん。もう起きて平気か?」
「影虎さん…すみませんッ! その、ジュナスは…!?」
「そこに居るだろ?」
「え?」
起き上がった手元に黒いもの、枕だと思っていたが、もしやと視線を上げてみれば目が合った。
「ハ?」
「――ずいぶんと大人しいじゃねェか、さっきまでの威勢はどうした?」
「黙れ。…戦う気が失せた、それだけだ」
「油断させようっていう手には乗らない、妙なマネをすればどうなるかわかっているな?」
「さっきよりシビれる電撃をくれてやらァ」
「俺の気が変わらないうちに黙れ…クソ…」
というのが、移動中あった会話らしい、それがなんでこんな膝枕みたいなことに……?
「というか、ここどこですか?」
「その昔に中止んなって放置された病院の建設現場だ、いまじゃあ若いのがたまに肝試しに来るくらいで周りに人家も無ェ、悪いヤツを拘束しとくにゃァうってつけの場所だ」
「……拘束はされてないみたいですけど」
「縛るようなら貴様を殺すと言ってある。死にたいならかまわないが」
死にたくないです。
「…ま、そういうこった。アンタの身に何かあればこっちもソイツを殺る…条件はおんなじってな」
……ああ、いや、嘘だ。
私の身になにかあればマツリ先生の頼みが遂げらなかったとか言ってハラを切りかねない、この人ならそうする。
まあそれで死ねるのかという感じはするが、そのくらいの勢いだから条件が同じってのはジュナスに対するブラフだ。
ジュナスはジュナスで、ターゲットじゃないやつを殺して死ぬかもしれないってのは避けたいところだろうが。
「よーするに、お互いの人質ですね。ケガでろくに動けないし、じっとしときますよ」
「悪いな」
「いえ、もとはといえばあんなとこで気絶した私のせいですし…」
姉を探しに行けないのは痛いが、なにかしらの手立てがないかぎり、この人を連れたまま姉に会うのは避けなければならない。
姉がその多重視という能力者だと決まったわけではないが、ジュナスならそんなの関係なくやるだろう。
…でも、何をどうする?
私が動けない以上リスクは増やせない、つまり何日も誰かがここを空けることはできない。
メンバーから考えて私のかわりにランさんに探しに行ってもらうとしても、他の施設にW.I.S.Eの関係者がいないとも限らないし。
……いや、ジュナスを無力化するだけなら――
「女…貴様トランス使いだろう」
「な、んですか…急に」
「妙な動きをしたら殺す。先に忠告しておいてやる」
「…へーい」
釘刺された。
死にたくないのもそうだけど、怪我をして影虎さんに迷惑かけるのもいやだ。
とはいえ、ここでなにをしてればいいのかサッパリなんだけど。
ん? そういえば、なんか寝てた時からかけてあるな…?
足元にかけてあるものをよく見てみる、なんだか見覚えのあるジャケット。
「えっと、これ…」
「ああ、しばらく貸しとくぜ。そろそろ日が暮れる、体冷やしちゃいけねェからよ」
んんんん影虎さんのジャケット…!!! 紳士かよおおおおおお……ッッ!!
「ア、ザッす……ッ…!」
「ボロボロのしか無くてワリィな」
「いえ! そんな! こんなにありがたいことないですホント…!」
あああああああああああああああ紳士かよ!!!!!
落ち着け心臓! 荒れるな呼吸! わあ大きなジャケットだなぁ…クッソ萌える!!!
いや、落ち着けまじで、家に帰ってからにしよ、ね?
それより大事なこと目の前にあるから、ちゃんとしよ、ね!?
すー、はー…よし、落ち着いてきた。
でもまあ…どうするかな。
しばらく指先をいじって、はた、と気付く。
「…トイレは、どうしたらいいんですか…?」
「……」
「……」
ち、沈黙長ぇ~~……!
「あー…トイレなら…一応ある、水は来て無ぇが」
「ここで糞尿垂れ流したところで気になどしない」
「や…やだ…気にする…私がする……」
ていうか気にして! 男に囲まれて用を足す私の気持ちになって! 腐っても穢れなき乙女なんだよ…!!
だからって単独行動はさせてもらえないだろうし………………背に腹は代えられない、かあ……!?
そりゃいままでベトベトに泣いたりゲーゲー吐いてるとこを見られたりしたこともあったけどさ…?
これはちがくない!? なに、毛色が!? くそ! あ、トイレだけにってか!? ざけんな!
はっ、待ってそれお互いにそうじゃない!? えぇ~~……!?
「……!? ジュナスさんってウ(自主規制)するの…?」
「オイ」
そういえばいままで考えたことなかったな、そうか、トイレ行ったりするの当たり前だからスルーしてたけど。
そうか、考えてみればみんな排泄はするわけで、私から見たらアイドルみたいなものだったけど、そうか、人間だ。
…………思考をあらぬ方に飛ばしてみたけど問題は解決してないッ!!
「なんでこんなことに……」
あんなところで気絶してなければ…!! ちくしょう! 私のバカ!
でも…そうか……そうだよな……みんな人間だ、人間なんだ。
だから…そうだ。
「みんな同じだ…恥ずかしがってもしょうがないよね…ウ(以下略)くらい…」
「お前もう黙れよ…」
ジュナスに盛大にため息をつかれた、まあもとはといえば私のせいでもあるので気にしないことにする。
そうしたところで、ピッと空気が張り詰めた。
ジュナスの警戒に対して影虎さんが意識を集中させたからだ、人影がふたつ、近づいてくる。
「な…なんだテメー、やるのか…コラ」
「やめろハルヒコ」
「あ。おかえりなさい」
ハルヒコさんとランさんだった、手にはビニール袋を下げている、食べ物だろうか。
「満月ちゃん! もうヘーキ? ソイツに変なことされなかった?」
「影虎さんがいてそんなことさせるハズが無いだろ…」
むしろ変なことさせてたのは私だ…膝枕みたいなこととか。
それで、えーと…? そうそう、姉の捜索をどうするか、だったな。
いや、それはこの先の懸念が解消されないうちは動けないんだ、んで…そう、その間なにをしてるかだ。
ジュナスの説得? 冷静なところはあるけど、二言目には「殺す」って言ってるような人を私で説得できる気がしないんだけど。
PSIの訓練? これは…うーん、ジュナスに聞いてからじゃないと殺されそう。
ぐぅぅぅぅ……
「……や、あの、その…」
空気読めよ…!! 食いしん坊かよ!
「ちょうどいいタイミングだったみたいだな。いろいろ買ってきたから好きなの選んでいいぞ」
「んじゃオレやきそばパン~♪」
「馬鹿。星崎が先だよ」
「あ、じゃ、じゃあツナマヨ……ジュナスさんは?」
空気が固まったうえ、ジュナスにめっちゃにらまれた。
「言っておくが俺は偽善者が嫌いだ ヘドが出る」
「コイツ…ッ満月ちゃんが優しいからってつけ上がりやがって…!!」
「放っとけそんな奴。影虎さんもどうぞ」
「おっ。いちごサンドも買って来てるたぁお前、なかなかデキるな」
正直、隣から殺気を感じながら食事をするのはちょっと…食べるし、おいしいけど。
…ハッ、そういえば代金、いや、これは移動費と一緒で計算すべき? コレはコレとして個別で?
「…おう、オメーらこれは俺のオゴリだからな、好きなだけ食えよ」
「たりめーだ こんなヤマ踏まされて自腹切ってたまるか」
「自腹もなにもそもそも金無いだろお前」
もしかして心読まれてる…!?
そう思って影虎さんをちらりと見ると、影虎さんは指についた生クリームを舐めながらニッと笑った。
「ご、ごちそうさまです…!!」
あぁッ…!! もう! かっこいい…好き…!!!!
「満月ちゃん大丈夫…? 感動屋さんの発作?」
「お気になさらず…!」
「(見慣れたらだんだんおもしろく思えてきた…)」
心だけはそれはもう元気になったので、次は体だな、と切り替えることにした。
ライズをなるべく傷口に集中させて回復を図る、ううーん…なかなか難しいぞ…
とっぷりと日が暮れて、夏とはいえかなり冷えてきた。
私は影虎さんから借りたジャケットがあるからまだいいけど、ランハル…ごほん、ハルヒコさんとランさんは寒そうだ。
むしろ、全然平気そうな影虎さんやジュナスのほうが特殊なのか。
「なァ…こーいうトコってさぁ……よく出たりするっていうよな…?」
「ビビってるのかハルヒコ」
「んなっ!? ちげーし! 別にそういう…ビビってねーよ!」
明らかにビビってるしかわいいので罪深い。
…いや、私も別に、ビビってないし…! オバケとか…別に…信じてないし!
超能力が現実にあるんだからオバケがいてもおかしくないとかそんな、そんな別にそんな。
「……そーいやァ、なんでココの建設が中止になったのか聞かされて無ェな…」
「オイオイオイなんでいま言うんだソレなんで意味深なこと言うんだよ…!?」
「……」
「なんで黙るんだよラン、別にビビってねーけどなんか言えよ…!」
明らかにビビってるハルヒコさんかわいい とか言ってられない。
だってまさかこのタイミングでトイレに行きたいから……!
も、もう暗いのに…水も来てないのに…誰かしら側に居る状況なのに…!
けれどまだ夜は長い、夜中に我慢の限界が来るかもしれないので、行きます、おとなしく。
「……で。どうして全員で行くことになるんですか」
先頭にランさんとハルヒコさん、真ん中に私とジュナスで、最後尾が影虎さんという配置で歩いている。
トイレに行くだけでダンジョン探索するみたいになってるぞ…
「全員で行ったほうが安全だろう」
「オレはついでに済ませておきたいだけ…」
「チッ…どいつもこいつも鬱陶しい…」
…うん。
影虎さんがなにも言わないのが気になるけど。
「えーと……さっきの話でちょっと怖くなってたりします?」
「「「全然」」」
き、綺麗にハモりましたね…? それ本当ですか?
ちなみに私はめちゃくちゃ怖くなってます、中止した理由がわからんってのが怖すぎる。
木々のざわめきや獣や虫の鳴き声にいちいちビクビクしながら、懐中電灯の明かりだけを頼りにトイレまでたどり着く。
こういうのもアレだけど、はた目から見たら肝試しの若者でしかないじゃんね!? そういう軽い気持ちじゃないんですよ!
入るときにおじゃましますって言おうかちょっと迷ったけど言ったら誰か居るみたいでイヤだからやめた。
「テメェがさっさと情報吐いてくれりゃこんなブキミな場所から出られるんだけどなァ」
「お望みならココを曰く付きの物件にしてやるよ」
「…それって逆に、望まれてないからやらないってことですか?」
「黙れ殺すぞ」
暗いから表情見辛いけど、それ抜きにしてもやっぱり怖い…
「うおっ…! ビビった…満月ちゃんこのへんの床腐ってるから気ィ付けて」
「はー…い…?」
なんか手に触って…おばけ…!? ってなんだ虫か…
って虫ぎゃあああああああああああああ!! 暗くてなんなのかよくわかんないけどとにかく虫あああああああ!!!
「ギうぉああァァアア!!」
「ッ!? 貴様…!」
虫から遠ざかろうとするあまりジュナスにぶつかってしまい、さすがにブチギレされるかと思ったがそうならなかった。
少なくともいまは。
バキ、とかガラ、とか固いモノが壊れる音がしたかと思えば、足元にあったはずの床がなくなったのだ。
いや、床が腐ってるのは知ってたよ、でもここ一階だしさ、壊れたとしても落ちるとは思わないじゃん?
だからなんだろうね、誰の手も掴めないまま落ちてしまったのは。
ちょっと訂正、ジュナスさんも一緒に落ちてるので必死に掴まってます。
ていうか高いねええええええええ!?
いくつもの触手を盾のように出してクッションの代わりにし、少しでも衝撃を和らげようと試みる。
ていうか下がどんな状態かわかんないからもしかしたら尖ったなにかに刺さって死ぬかもね!?
数秒の間でいろんなことが頭をよぎったけれど、案外あっさり地面についたので、無事とは言い難いけど…とりあえず死んではいない。
シャイナにダイブさせられたヒリューもこんな感じだったのかな…とぼんやり思い出したりして。
「殺す…」
「すみません! ごめんなさい!」
体を掴んだままだったので慌てて放す、いや待て放したら逃げられる!?
「大丈夫か!?」
影虎さんの声がした、影虎さんがいるなら、大丈夫かな…?
「大丈夫…です、痛いけど折れてたりはない感じです…ジュナスさんは?」
「善人気取りは余計なことばかりする…くたばっておけばいいものを」
「ヘーキだとよ。それにしても…なんだココは…? 病院の地下にこんなモンがあったのか…」
真っ暗でなにも見えないけど、病院の地下施設にしてはちょっと深すぎる気がする。
あとから来たランさんとハルヒコさんが懐中電灯であたりを照らすと、なにか、研究施設の跡のようだった。
変な臭いがする、早く出たいけどここがなんなのかわかんないままなのは気持ち悪いな。
「人が居たような痕跡があるから…貯水槽ってわけでもなさそうだ」
「ヒミツの地下施設ってか? だとしたらとんでもねー組織とかが関わってんじゃねーの?」
「……建設中止は、はじめからここを廃墟にするための表向きの理由…とか?」
「キナ臭くなってきたな…それに、だいぶ古いがこりゃ血のニオイだ」
血、そう聞いて背筋がぞわつく、嫌な予感しかしない。
見た感じ、ここは研究施設の一部みたいだ、休憩所かなにかだろう、もしくは会議室か…散らばってる資料はすっかりボロボロである程度の年代が過ぎてるようだ。
「扉だ」
ぽつ、とジュナスさんが呟く、たしかに大きめの扉がある、パスコードを打ち込むようなパネルもあるな。
しかしまさかジュナスさんからそんな探索を協力するような発言が出るとは思わなかった。
「向こう側になにかありますかね」
「地獄が見たいなら好きにしろ」
「…ああ。ちっとばかし濃いな…カタギに見せるもんじゃなさそうだ」
そう言われると躊躇するような…逆に気になるような…
「とはいえ、ココをどうにかするにしても様子を見てこなくちゃならないか…」
「……」
ジュナスさんが前に出て軽く手を動かしたかと思うと、扉がざっくりと切れて崩れ落ちた。
「…PSIの粒子だ。この手の施設は虫唾が走る」
「あ、ちょ、ジュナスさん待って…!」
勝手にすたすたと行くジュナスさんについて入る、中は、さっきよりも臭いが強くなって思わず顔をしかめた。
「仕方ねえ……ちょっくら行ってくるわ。一応お前ら二人はここで待ってろ」
影虎さんの持つ懐中電灯の光が、廊下の奥へまっすぐ続いて見えなくなる、いったいどれだけ長いのかさっぱりわからない。
でも、はっきり見える足元におそらく人間だったんだろう一部がいくつか転がっていて、当時の光景は…想像するのはやめておこう。
圧倒的に感じる死の気配が、私の中にある廃棄場の記憶を思い出させた。
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