腐っても時渡り 原作沿い編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「閉園?」
中に入って責任者らしき人からそんな言葉を聞いた。
あたりはざわざわしていて、ボランティアの人たちがそれぞれの作業を行っている。
すれ違う人にもお辞儀をするが、だいたいが怪しい人を見る目で一瞥してそれだけだ。
……ヤ○ザと元強盗と異世界人です。
記録のある部屋に向かう、なんとなく覚えてはいるけど……家具やらなにやらすっかりなくなってるからよくわからないな。
ああでも、この配置は見覚えが。
「こっちがアルバムやらで…こっちが書類系でしたね」
「来たことがあるのか?」
「あ、そういえば言ってませんでしたっけ…私がリコと会ったのはここなんですよ。閉じ込められてたんですよねぇ、それがかわいそうでかわいそうで」
リコのことも話してなかったような気がしたが、二人ともすでに会ったことがあるようだった。
「まさか……」
訂正、ヤ○ザと元強盗と誘拐犯でした。
い、いや! 自分で言っといてなんだけど誘拐したつもりはないよ!? って、その思考がすでにもうなんていうか。
「園長さんにも会ってハナシはつけましたから」
適当なファイルを開いて、パラパラめくってみる。
「ここの職員が消えた事件にアンタ関わってたりしないよな…?」
「そんなことしてるヒマがあればリコと遊んでますね。時間がもったいない、リコの子供時代はまさに刻々と進んでるんですよ…姉を見つけてさっさと帰りたいです」
「そうだな」
「残念なヤツだ…」
しばらく探してみたが、リコとも無関係な書類もごっそりとなくなっている。
…まさか、ジュナスが…? いや、だとしてもここに来る理由がわからない、だって創造主であるリコはいないんだぞ?
証拠の隠滅だけにジュナスをよこすとは思えないし…まだ、なにかあるのか?
「姐さんの話じゃ天戯弥勒も子供の頃ここに居たらしい。てこたぁ、消してるのはそいつの仲間だな」
「犬居の弟になりすましていた男か…」
「さ、徹底的にひっくり返すぞ、ラクガキひとつ見逃すなよ」
……仮に、証拠を消しに来ただけだとしたら、もうここは用済みのはずだ。
ぶっちゃけ私がここにいても役に立てる気がしないし、書類よりも手っ取り早いのがある。
「影虎さん、私まだ残ってる子供にいろいろ聞いてみます」
「そうか。一応警戒しろよ、証拠を消してるヤツがまだいるかもしれねェ」
「ヤバそうだったら連絡入れます」
下の階に降りて、殺風景な子供部屋にいる子供に話しかける。
誰か私の顔…つまり姉の顔を覚えてるかもしれないし、覚えてなくても記憶に聞けばいい。
断片でもわかれば、そこから広げられる。
…さっぱりだ、まいった。
あ、そうだ子供たちを迎えに来てる別の施設の職員もいるじゃん、そっちのが早いかも。
てなわけで第一職員発見。
「すみませ…」
「あッ…! あなた、こんなところに居たのね…!?」
うわお、一発目から……世間って狭いよね。
「ちがいます、ごめんなさい。私、双子の姉を探してるんです…施設を転々としてると聞いたもので」
「双子…?」
「頭に葉っぱ乗ってますよ、取りますね」
と言いつつ、脳にトランスで侵入する、子供はすぐに頭を撫でられるからいいけど、大人じゃそうもいかない。
トランス線を伸ばさないのは相手がサイキッカーだった場合の対策だ、糸繰り人形使えばいいけどあれは神経使うから数こなすにはちょっとね。
「……――」
情報自体は大したことはなかった、姉が逃げ出した施設のひとつ、ってだけだ。
けれどこの人の働いてる施設がわかっただけいいか、とちょっと前向きに考えて、顔を上げる。
…ところで、あの視線ナニ。
いや…視線というより、殺気にも近いナニカだ、どこからかわからない、一瞬だけ感じたアレは影虎さんたちの気配とは明らかに違った。
そうだ、未来でビシビシと感じてたヤツに近い。
「発見された」と、確認しなくてもわかる、この心臓と背中がゾワつく感じ。
足が地面に縫い付けられたように動けずにいると、ポケットの中で携帯が震えた。
それをきっかけになんとか足を動かし、とにかくその場を離れた。
携帯のディスプレイには影虎さんと表示されている。
「もしもし」
『星崎、いまドコに居る?』
「いま……」
周囲を見回す、施設の裏手……あそこにあるのは倉庫か、その先は森が広がってる。
「裏にある倉庫の近く…ですけど」
『すぐに戻ってこい、ハルヒコが怪しい男を見たらしい』
「ちょぉっと…それは、無理です…たぶん、いま、そいつに追われてます」
怪しまれないように一定の速度を保って歩いているが、気配も一定の距離を保ってついてくる、これは追われてると判断していいはずだ。
脳裏によぎるのは、補完したばかりの原作の記憶。
「か、関係ない人が巻き込まれるかもしれないので……私、離れます、森に入って…逃げれるとこまで」
『わかった。すぐに追いつくからそれまで捕まるんじゃねェぞ』
電話を切る、歩く速度を少し早める、自分の足音とは別に他の足音もはっきりと聞こえた。
もはや気配を隠そうなんていう気も無いようだ、そのせいで、さらに疑問は上がる。
気がつけば走り出していた。
なぜ、私は追われている? なぜ、距離を詰めない? なぜ、攻撃されない?
わからない、だめだ、相手が誰なのかもわからないのに、後ろを振り向けない。
振り向いたら一気に距離を詰められる気がして、そんなの時間の問題なのに少しでも先延ばしにしたくて。
心臓の音がうるさい、呼吸も、私はどこまで行けばいい?
もうどのくらい施設から離れただろうか、全然離れてないような気もするし、かなり遠くまで来てしまったような気もする。
「は、ァ…!」
足が震えてきた……そう思った時、ふくらはぎのあたりを何かが掠った。
瞬間痛みを覚えて、私はその場に倒れる。
「ここまで来て止まらないということは、こちらに寝返るつもりはないということだな…?」
「ぐ、っゥ…!」
「盾突くつもりなら殺せと言われているが…答えを変える気はないか?」
あっという間に距離を詰められ、足で転がされて仰向けになる。
「ジ……ッ! な、んで…!? ここになんの用が……」
ジュナス、と言いかけて止まる、こちらが知っていることを悟られてはならない。
「お前を探しに来たんだ、多重視<ウォッチャー>……W.I.S.E の邪魔になるかどうか判断するためにな」
「多重…視…?」
なんだそれは、なんだその中二っぽい名称、私そんなの付けられるような覚えないぞ。
「弥勒はW.I.S.E に協力するなら命だけは保障してやるとさ」
その言葉は耳に入っていたが、私はある一つの可能性を頭に浮かべていた。
今回の帰還でまた未来が変わったとするなら、姉の状況もなにか変化があったはずだ。
ここにいるはずの創造主を失ったW.I.S.E とこの土地のどこかにいる姉……穴を埋めるとすれば、ここだ。
多重視…ウォッチャー、多量のなにかを見る能力、過去を語る姉の言葉。
ありとあらゆる時間軸、パラレルワールドを見ることができる能力は、それにあたるのではないだろうか。
「はッ…ちょっと邪魔されたからって、ムキになって喧嘩しかけに来たってわけ? ッギゥ…!」
「お前は大人しく答えだけ聞かせればいいんだ…ノコノコ向かってくるクズどもと一緒に死にたいなら別だがな」
「……!」
ぐり、と腹を踏みつけるジュナスは背後に視線を送り、無表情に言った。
なぜかはわからないが多重視とやらが私だと勘違いしている、それが姉だとするなら、ここは姉のふりをするしかない。
「なら 「穏便」はやめだ」
いつまでも黙っている私に、無表情よりも冷たく非情な眼でジュナスは手を振り上げた。
だが、振り上げた手の先にあるものは私に当たることなく、ただ風が吹き抜けた。
「っとォ…反応が速ェこった…」
気がつけば傍らに影虎さんが立っていて、その影虎さんの攻撃を避けたのだろうジュナスと正面から向かい合っていた。
「影虎さ…」
「大丈夫か? そこで待ってろ、すぐ片付ける」
「チッ、クズが…」
また強い風が吹いたかと思えば、激しくなにかがぶつかり合う音がして、周囲の木や草が次々に折れたり散ったりした。
一応目で追えてはいるが、その速さに頭が追いつかないでいる。
助かったらしいことに安堵していると、今度はふたつ足音が聞こえた。
「満月ちゃん! 大丈夫か!? 遅くなっちまってゴメン!!」
「怪我は……よし、命には関わらないだろう。ハルヒコ、ここはまかせたぞ」
「ああ…!」
ランさんが私の体を支えた途端、景色が一変する。
「…よし。救急箱かなにか持ってくる、ここにいてくれ」
「は、はい」
ここは…施設の裏手か、トリック・ルームで転送されたらしい。
遠くのほうで大きな木が引き倒されるような音がした、影虎さんたちはあっちにいるみたいだ。
「――馬鹿野郎。…って、伝えるように影虎さんから言われた」
「す…すいません」
「無関係な他人を巻き込みたくないってのはいい心がけだ、とも言っていた、なんにせよ無事でよかった」
幸い足の傷はそんなに深くなく、痛みはあるものの動けないほどではない。
森の奥、どこからか焦げたような臭いがした、こうしちゃいられない、私も向かわなければ。
「どこに行くつもりだ! 行ったところで足手まといになるだけだぞ!!」
「あいつの目的は私です、正確には違うけど私だと思ってる、標的がいなくなったら逃げるか追いかけるかでしょう。私はあいつを逃がすつもりなんかない」
もしも逃がして本当の標的である姉を見つけられでもしたら、どうなるかわからない。
死ぬつもりはないけど、囮になれればジュナスを倒すなり捕まえるなりできる確率が上がる!
「考えもあることにはある、できるかわからないけど、もう一度さっきの場所に転送してください!!」
「だからってその足じゃ…!!」
「じゃーおぶってよ!! ランさんが私の足! 危なくなったら捨てて、OK!?」
「お前バカか!?」
「バカですけど!?」
いまだって、歴史の修正がいつ起こるかわからないんだ、私が介入してる分は私が…!
「ダメなら自力で行きます」
踏み込むたびに痛みが走る足を無理矢理動かして、森の中へと入る。
「オイ…待て!」
肩を掴まれて、振り払おうとした手は空振りした。
「…もう一度だけだ、俺達の手に負えない状況だと判断したら戻る……いいな?」
「!…ありがとうございますッ!」
もう一度だけ、とトリック・ルームでさっきと同じ場所に戻ったら、景色がさきほどまでと変わっていた。
こんなに見通しが良かったかな…おそろしい。
「ハルヒコ! ヤツはどこに行った!?」
「ラン!? なんで戻って来たんだよ…! アイツならオッサンがどっかに蹴り飛ばしちまったよ!!」
「生け捕りですか?」
「そうだけど…なんでおんぶ?」
「いろいろ事情があってな…」
影虎さんが走っていったらしい方向へ急ぐ、足速いよなあ影虎さん。
「ハルヒコさん、あいつを見つけたら私が体を縛り上げます、そこに電気を滞留させることはできますか?」
「できるかもしれねェがやってみないとわからねえ! そもそも、あんなバケモンみたいなライズ使いをどうやって縛り付けんだよ!?」
「こっちは四人もいるんだ、一人縛り上げるのに策なんざいらねえよォ」
「それ負ける悪役のセリフじゃねェか…!!」
「実質三人だぞ」
ザザ、と音は聞こえるが、姿が見えない。
でも遠くはない、怖くもない、やってやるよお!
「ラン! 離れろッ!!」
影虎さんの声がして、ランさんが大きく後退する。
ランさんの足元すれすれのところで地面が抉れている、もう少し遅ければ致命傷……!
「さっきヤツに当てた電磁'nはもう切れてる! やるんなら早くやんねぇとマズイぞ!!」
「ッ、星崎!」
「すぐ終わらせます! ベオル!」
片手に大爪を発動させランさんの体を包むようにして守る、あれから密度を上げた重質量の爪だ、刃物やつぶて程度で壊れはしない。
もう片手には触手を出し、視線は影虎さんを追う。
影虎さんがこちらを見て…―
「――どこを見てる」
後ろからジュナスの声がした。
「あんたを見つけられる人だよ!!」
木々や草に忍ばせていた触手を一気に引く、それは中心にいたジュナスに巻きつき、その動きを止めた。
「ショットガン・ボルトォッ!!」
私の手から切り離した触手に、ハルヒコさんの電流が大量に流し込まれる。
触手のほうは中身が空洞だ、そこに流れさえすれば、ランさんのトリック・ルームと同じように電気を溜めこめるはず。
背後を確認せず素早くその場を離れ、しばらく様子を見る。
「最初から自分を囮にするつもりだったのか?」
「…いえ、影虎さんが見てる方向に触手を仕掛ければいいと思ってたんですけど…ホント危なかったですねえ」
「それ早く言えよなァ…! こっちは心臓飛び散るかと思ったんだから」
「グロいよ」
「……静か、ですね…」
「そうだな…成功したのか?」
影虎さんが近寄ってもピクリとも動かない……気絶、してるのか?
ランさんに降ろしてもらって、私も近付いてみる。
「――ッ! アブねェッ!」
「ガァアアッ!!」
影虎さんに引き倒されて尻もちをつく、近くにあった木がジュナスに蹴られて傾いていた。
し、しぬ…! あれくらってたら死んでた…!!
悪あがきのように暴れてからは、あきらめたように大人しくなった。
一応足も縛って、ボロボロのジュナスをこれまたボロボロの影虎さんが抱える。
「…ッたく、ひとまず礼を言っておくが…星崎はあとで説教だ、このタコ」
「イカのほうがいいです、足が多いから」
「そういう話かよ……」
騒ぎが大きくならないうちに車に戻り、助手席にランさん、後部座席の真ん中にジュナス、両側を私とハルヒコさんで挟む形で乗り込んだ。
「……あぁ…ダメですね……電気が反応しちゃって刺さんないです」
「クソォ…動きを止めるまではイイんだけどな…」
「意地でも吐かせるしかねェか……ま、しばらくはドライブを楽しもうや。ナァ?」
「クソが……」
トランスで脳に侵入しようとしたが、私とハルヒコさんで作った電磁錠がPSIに反応してしまい打ち消されてしまう。
情報を得るために生け捕りにしたのに、これではなあ……
「……名前は?」
「誰が言うか」
「当ててあげましょうか。ジュナスさん」
「星崎、コイツのこと知ってんのか…!?」
ゲームのルールから除外されたのは根の住人だけ、この人たちはまだそうじゃない。
ルール違反を避けつつ、わかることだけは共有するとなると。
「“多重視”ほどではないけど…見えてるものもあるんですよ」
気配はない…ならば。
「ジュナスさん、私はあなたの探してる多重視って人じゃないけど、昔のことはちょっとだけわかるんですよ」
「なんだと…?」
「あなたが怒りっぽくなったのは実験のせいじゃないですか?」
「ッ、貴様ッ組織の回し者か!!」
「クッ、暴れんな!」
「違いますよ、どっちかといえばあのクソみたいな組織の敵。でもあなたたちの味方でもない」
息を荒げるジュナスがこちらを睨む、視線だけで貫かれそうだ、でも私も負けじと睨み返す。
「こんなやり方じゃないとダメなの? ちょっとでも愛ってもんはないの?」
「黙れッ!!!」
額に痛みが走る、ジュナスに頭突きされたらしい。
視界がくらんだが、こんなもの!
「貴様に俺達のなにがわかる!? 偉そうな口をきくなクズが!!」
「うるっ…せえ!!」
ジュナスの襟を掴んで頭突きで返す、影虎さんにライズを習ったんだ、私だってちょっとくらいは耐える。
「ちょっとしかわかんないんだよ!! 話してわかる人だっているのに、理解を拒否してるのはそっちだッ!」
話を聞いてもらえないから暴れるなんて、そんなのは子供だ、駄々っ子だ。
世界規模のダダに巻き込まれて、姉はあの姿にされて、「私」は死んだ、だがそんなことはいまはどうだっていいんだ。
私だって話を聞いてもらえなければ少しくらい暴れるだろう、気持ちはわかる、だから。
「話してわかる人がその手を伸ばしてくれても、自分の手の汚さに取れないなんて、そんなの…悲しすぎるじゃん……!!」
だから、まだ汚れきらないうちに、まだ手を取れるうちに、伸ばせるだけ伸ばしていくしかない。
この人がまだリコの手を取れるうちに、リコと穏便に会えるように。
邂逅が、絶対に避けられないものなら。
「どんな人だろうと…愛してくれる人が……いるのに……」
あ、マズい、意識が……――
「満月ちゃん!?」
ずるりと、満月はジュナスに体を預けそのまま倒れた。
意識が切れると同時にPSIが解除され、ジュナスの体は自由になる。
緊張が走る車内で、ただ一人、緊張を走らせている張本人だけが静かに座っていた。
「この女……まさか俺に同情してるのか…?」
独り言のような問いかけ、そこに、影虎も独り言のように返した。
「キくよなぁ……薄汚れた俺らに、今みたいのは……」
車は静かに、次の目的地へ向け走り続けた。
