腐っても時渡り
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ジリリリリン ジリリリリリン
激しい言い合いをさえぎる呼び鈴、その場にいる全員が電話を目を向ける。
ビルに入ってから、結構な時間が経った、そう感じてるだけかもしれないが、確実に時間は過ぎていた。
私はああいう言い合いはあまり得意じゃないからただぼーっとそれを眺めていた。
さすがにわかっていても人が吹っ飛んだときはビビったな、朝河初登場。
「…雨宮さん」
すっかり冷え切った手でも、触れている雨宮さんの額は熱い。
そして、公衆電話が鳴り響いた。
ゲームスタートだ、夜科くんが受話器を取る。
『――サイレンを目指すものに……絶望と力を…!!』
…っ
まるで頭をスプーンでえぐられるような感覚が直接響く。
私…乗り物とか弱いから、こういうの…おえええぇ…
「ぎ、ぎぼぢわるい…」
気分は悪くても届くものはちゃんと届いた、確かにあれは公衆電話だ。
うん、寸分の狂いも…あるかもしれないが、漫画と同じ。
『門を探せ――…!!』
ひゅーっとふわふわ状態から落ち着いていく。
う…でもまだぐらぐらする…吐いちゃだめだよ、私。
大音量のサイレンが鳴る、鳴って鳴って、唐突に小さくなっていった。
完全に鳴り止んだのはその数秒後、なんだか展開が速すぎてついていけないぜ…!
「気づいたか? あれ、アンケートの時と同じ女の声やで」
「うう…もうイヤだ…!!」
パニックになるのもわかる、私もいま大パニックだ、ぐるぐるぐるぐるしてる。
泣いても喚いてもここは別世界だと、理解しているひともいた。
ここを受け入れることを頭の隅に置いたら、次はどうするか、私は…
私、PSIを使ってみたい、ライズとかバーストとかピョーンてしてババーンてしてテレパシィーンしたい。
ならば、ここは生き延びなければ。
「なぁ、雨宮は?」
「まだ熱が高い…しばらく目は覚ましそうにないよ」
「…そうか。! あいつらは!?」
夜科アゲハが建物の中をきょろきょろ見渡す、けれどあの人たちは見当たらない。
「あいつら外をうろつくつもりか!? 冗談だろ!?」
窓の外を見て急いで階段を降りていったので、私もそれにつづく。
「待ってくれ!…外…外をウロつくのはやめたほうがいい…!!」
漫画の通り、アゲハが馬鹿にされる、でも私だっているんだよ。
「私も見た。もう死んだあとだったけど、そいつが灰になって消えていくのも」
また一拍おいて、失笑が起こる。
「あんたら揃って夢でも見てたんちゃうか? あるわけないやろそんな事」
「あったんだっつってんだろ!!」
「なら、証拠を見せてみろよ、ないんだろ?
アンタの言うことが正しかったら、そいつらみんな消えちまったんだろ?」
「……!」
大丈夫、ここは証拠が突きつけられなくて苦労するシーンなんだ。
でもなんだか諦めきれなくて、私はまた言葉を付け加える。
「サイレンの鳴った方向に行くのは、止めた方がいいよ」
「ほう…じゃあ、他に手がかりがあるというのかな?」
「それはわからない。けど、サイレン、警報の言葉の意味を理解していればわかるはずでしょ」
「なにが言いてぇんだてめぇ」
警報の意味は、危険を人に知らせること。
「わざわざ危険を伝えているのに、それに近づくなんて愚の骨頂だよ、どんな状況であれ動かないのが得策だと思う」
「知ったような口ぶりだなァ、じゃあ証明してみせろよ。こんな廃墟ばかりの場所にどんな危険があるって?」
「だから、化け物が…!!」
「お前は黙っとけや、そうやわかったで、あんたらワイらに五億円取られたくないんやろ」
「ち、ちがっ!」
「だとしたらこれも単なる時間稼ぎか、サイレンの方向に行かせたくないのもそのせいか、そこに門とやらがあるんだな?」
「なんでもいいよ…! 帰れるんなら早く行こうよ!!」
全員が冷めた目でこっちを見て先へ歩いていこうとする、それぞれ悪態をつきながら。
違うのに…わかってくれないなぁ!
だって、そっち行ったら死んじゃうんだよ、そこまで言えないのがもどかしくてたまらない。
「ンンだとコラァァッッ!!?」
アゲハの声が鼓膜に響く、ヒリューになにか言われたんだろう。
とてもイラついた様子でズンズンと歩いてくる。
「オイッ! あいつらなんてほっとけ! 今は雨宮が起きるのを待とうぜ!!」
「でっ、でも…!!」
「いいから! どうせ言っても聞きゃしねぇんだ!!」
そういわれて、離れていく六人の背中を見ながら建物の中へ戻った。
雨宮さんも、毎回こんなことを言われてたのかな…
「あンのトサカ野郎ーッ!! やっぱ殴っときゃよかった…!!!」
おーおー、荒れとる荒れとる。
実を言うと大きい音はちょっと怖い、雷とかは平気なんだけど物が割れる音とか、ぶつかる音とか。
さっきの缶を蹴る音だって怖かったんだぞ、夜科アゲハ。
「……」
ぱち、と雨宮さんが目を開く。
「…雨宮さん?」
「ん…う……ぐ、けほっげほっ…!!」
「雨宮…! まだ動かねェ方がいい…!!」
苦しそうだ、このままじゃまた倒れてしまう。
私にも力があれば。
「ほ…他の人たちは……?」
「行っちまった…電話がかかって来て…、みんな……"門"ってやつを探しに行っちまった…!!」
あのひとたちを助けられたのかな。
「…公衆電話…! 公衆電話のメモボタンを押して…!! 早く…!」
アゲハがボタンを押すと、画面に地図が表示された。
いまの地形がアイコンとともに記されている。
「地図…そこに…ゲートの位置が描いてある…!」
これからアゲハとサイレン塔まで行くんなら、武器がいるかな。
なにか武器になりそうなもの、雨宮さんの刀以外にいるだろう、探してみよう。
「…教えてあー……げ…ないッ…!!」
耳の端に雨宮さんの叫びが聞こえる、あんな反応を毎回されれば、私だっておかしくなる。
なんとなく顔が見られなくて、さっきから背を向けたままだ。
あまり人の感情に触れるのも得意じゃないからだと思う。
と、この木材が手頃かな、長さとか太さ的にも。
「おいアンタ」
「は、はい!」
「さっきの地図を書き写すから、すぐ行けるように準備しててくれ、荷物とかあるんなら…」
「いえ…、大丈夫です」
「……わかった、さっさとこんなゲームクリアしようぜ…!!」
……くそう、すっげぇ真っ直ぐな目しやがって。
なんか知らんが妙な覚悟を決めてしまったじゃないか。
「書き写した! 行くぞ雨宮ッ!!」
「…地図の白い部分を歩けば安全……見つからずに…門へ 行けるはず…!」
「いや、サイレン塔へ行くぜ!」
ぞく、と鳥肌が立つ。
これはなんだろう、高揚感? この先への恐怖?
とにかく心臓がうるさい、ぞわぞわと背筋が逆毛立つ。
「間に合うわけない…!」
「るっせェ――ッ!! 間に合う!!!」
「ひっくり返してやろうぜ雨宮…! オレと、アンタも3人で…このゲームをよ…!!
企んだ奴を必ず見つけ出してブッ飛ばしてやろうぜ!!」
ソレを聞くと、なぜか私も口角があがった。
きっとこれは、彼から気持ちが伝染したんだろう。
こんなに走るのも久しぶりだ、今日だけでずいぶんと運動してる…
「はぁっ……はぁっ! そ、そういえば…ッ、名前…!!」
「っ、あ?」
「名前、言ってなかった、よね…っ! 私っ、星崎…満月、ッ!」
「そういえば、そうだったな…ハァ、オレは夜科アゲハ、こいつは雨宮…!」
「雨宮さんは知ってる、よ、よろしく、アゲハさん」
その後アゲハでいい、と言われて堂々と呼び捨てできるようになった。
いまこの瞬間まで名前も聞いてなかったとは、自分でも驚いてる。
ほんとはもうちょいあとでもよかったが、いつまでもアンタ呼びだったのが気になったので。
「ハァッ…ちょうどいい、満月。ここに雨宮と隠れててくれ、オレはあいつらを探してくる」
「ふっ、はっ、あい…わかった」
それだけ言うとアゲハはすぐさま外へと走っていった。
ふはぁー…ちかれたぁ…
まだ息整わないし、こりゃあずいぶんと体力が落ちてるわ、基礎運動って大事ね。
ぺたっとそのへんの岩場に座り込む、ふひっ、このまま禁人種に見つかりませんように…
「雨宮さん、」
「げほっ、…?」
「さっき、声かけてくれてありがとう。ハァ、あのままだったら、今ごろあいつらに食べられてたかも…」
「別に…お礼言われるようなこと、けほけほっ……してないわ」
「いや、でも、多分間違いなく、雨宮さんは命の恩人だから、ありがとうって」
「……ありがとう」
それきり会話はなくなったけど、雰囲気はちょっとだけよくなった気がする。
こっちだって気を遣ったわけじゃない、ただ心から思ったことを言っただけだ、間違いなく雨宮さんは命の恩人なのだ。
突然のことで途方にくれた私に手を差し伸べてくれた。
だから、今度は私が雨宮さんを守らねば、手の中の角材を握る。
よし、息整ってきたぞ…
「ッ…だれか、来る…」
「人、だといいね」
ザッ、と足音が聞こえる、逆光でよく見えないが、かなりでかい。
一歩一歩近づいてくる音に怖さは感じない。
「…アンタが雨宮か? それに…星崎」
「誰……」
「しんどそうだな」
タツオに振り回される哀れな男よ、あの小悪魔ちゃんを手懐けるのはちょいとむずかしいぜ。
「ホラ、オレの背中乗れ…いいか雨宮、行くぞ星崎」
ちょっと歩いて、満月と呼び捨てでいいと言った、なんだか照れくさそうな顔をしてたが気にしない。
ヒリューのあとを着いていってしばらく、二股に分かれた渓谷。
「…マッタク地図どおりだぜコノヤロウ…!!」
「あなた…朝河くんでしょう…?」
「? そうだ、オレは朝河…、オレ、名前教えたか? なんでオレの事を知っている?」
「フフ…知ってるに決まってる…! なんでもクソもない…!」
「よ、よしゃ、あともうちょいってことですね、頑張りましょう朝河くん」
ポンと腕をたたく、雨宮さんもにっこりと笑ってる、まぁ、半分はいまの怖い笑いなんだけど。
それにしてもボロッボロだなー…けっこう怪我もしてるだろう、なんせアルフレッドに投げられたし。
呼びづらい、アルフレドで! どこぞ肉屋みたいなエプロンを着たアルフレドさん…彼が死んでしまうのは惜しいが仕方ない。
惜しいといえば杉田も、できれば助けたかったのに、な。
…クヨクヨしたってしかたない! 生き延びてもとの世界に帰るんだ! オー!
「あれだ…あのビルに間違いない…!!」
「!!」
崖の上に、アルフレドがいるのが見えた。
的確な動作でボウガンを用意し、静かに放つ。
「!?」
「クソ、アイツだ…!! 隠れるぞ…!」
走り出すと、目の前にボウガンの矢が刺さる。
頬がピリピリとする、触ってみると手に赤いものがついた。
げ、えぇええぇ…マジ、っすか…!
「何してんだ! 早く来い!!」
「あ、はい!」
「…はぁ、はぁ」
「お前はそのままそこで隠れてろ、あいつはオレだけでなんとかする」
「……はい」
ひそひそ声で告げられ、大人しく頷く、また頬に触れてみる。
あちゃ、けっこう深いな…血が、だらだら。
うん、わかった、致命傷を負えば死ぬ、血も流れる。
それでも痛くないのは…きっと興奮しているからだ、死と隣り合わせのいままでにない経験だからだ。
衝撃音、音の正体は顔だけを出したアルフレドだ。
それをヒリューがここぞとばかりに鉄パイプで殴る。
「…ッ!」
私は、見てるだけ?
せっかくPSYRENの世界に来たのに――来たいとは思ってなかったけど――私はただの傍観者?
このあと雨宮さんだって無理をしてPSIを使うのに?
私の持ってるこの角材は、ただのハッタリか?
アルフレドが壁を壊して、ヒリューに襲い掛かった。
それをなんなく避け、次の右足を待ち構えるヒリュー。
「っ! ごめん、ヒリュー!!」
隠れていた場所から飛び出してアルフレドに向かって走る。
ヒリューに腕が当たるまで3、2、1。
ドガァァ!!
「せりゃあああああああ!!」
右足を振りきって今度こそがら空きになった側頭部に角材をねじ込む、はずだった。
「!!」
手応えはなく、持っていた角材は苦も無くアルフレドに受け止められていた。
それをそのまま振り上げようとする、やばい、叩きつけられる…!
手を離さなきゃ…!
「なっ! 満月!?」
「ぐあっ!!」
振り下ろす直前でも威力はあったらしく、私は後方に飛ばされた。
手を離したせいで体に武器が当たる形になったが、叩きつけられるのとどっちが痛いかな…
なんて考えてる間にアルフレドがボウガンを準備する。
「雨宮!?」
「雨宮さん!」
雨宮さんがおぼつかない足取りでアルフレドの前に立つ。
「何やってんだ!? 死にたいのか!? 早く逃げろーッ!!」
「私が時間を稼ぐ…あなた達は逃げなさい…!」
「ライズ…」
私が飛ばされた方向は偶然か、ヒリューの隣だった。
雨宮さんがボウガンを止めてる間に、私はヒリューに乗っかってる瓦礫をどかす。
重くてなかなか動かない、いまだけ、いまだけ力を振り絞れ、私!
「ぐ、のぉおおぉ…!!」
「お前も早く逃げろ!」
「い、や、だぁぁ!」
やっと瓦礫を一個除くことに成功した。
後ずさる雨宮さんを見ながら、また一個瓦礫に手をかける。
「あ ぐッ!!」
苦しそうに悶える雨宮さん、ちくしょう、私は役に立たない!!
「はや…く…」
アルフレドがボウガンを捨て、直接矢を投げようとかまえた。
「オレのことはいい!! 早く逃げろーッ!!」
あともうちょっとだ、あともうちょっとで最後の一個が…!
「朝河くん!」
「ガアアアアアア!!」
一瞬の静寂。
アルフレドに刀を突き刺してるアゲハが見えた。
「生き残るんだ…!!」
声が、力強く聞こえた。
