腐っても時渡り 原作沿い編
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「――――ハッ……!? はっ、はぁっ……いっ! 痛ゥ…」
痛みがじりじりと肩を蝕む、ここは……?
(あの水の中じゃない……)
目の前でダメQがこちらをのぞきこんで大丈夫? とでも言うように首をかしげていた。
どうやら私を起こそうとしていたらしい、物音がして私とダメQがそちらを見遣る、そこには桜子さんとアゲハが立っていた。
ダメQが慌てて片膝をつきかしこまる、……ちゅうか、どこから来たのよキミ…ここ来るまで一切見えなかったぞ。
「!! 満月ッ!? お前そのケガ…!」
「ん…大丈夫……桜子さんは?」
「私は平気よ、でもあなたは止血しないと…」
「うん…でもその前に、この人を助けなくちゃでしょ。私は歩けるから…先、上に戻るね」
「あ…ああ……」
あの場所は…あの中は行った事がある気がする。
いや、厳密には強制的に転送された、のほうが合ってるかな。
とにかく帰ったらまたあそこに行ってみよう、現代に帰るまであと……多分時間はあるな。
それにしても、この世界での「私」……私より優秀だったんじゃあないだろうか。
来た道を引き返して、階段を重い足取りで昇っていく。
ううーむ……そろそろ痛みが限界までやってきたぞ…
いやいやでも、我慢しなくちゃいけないよな……弾丸は幸いにも貫通しているようだし、治癒はライズで騙し騙しだ。
今頃帰りを待ってるだろうヴァンくんはカブトの治療と……うん、治療があるんだ、迷惑かけられまい。
と言うと、また朧さんは呆れ顔で笑うだろうか。
その優しい朧さんはどこを見回しても近くに居やしないんだけど。
「…………あれ」
朧さんはなんて言って笑ってくれたんだっけ…?
だめだ、いけない、思い出せ、思い出せ、思い出せ!!
さっきの、か……? そうだ、思い出さなくちゃ、さっき何が起こってた…!?
蜘蛛が頭の中に入ってきてた…それで意識が飛ぶ前は、そうだ、桜子さんが、なんてことだ。
桜子さんがあいつの餌食に…変えたかったのに…! 変えようとしたのに!…桜子さんを悲しませたくなかったのに……
でも、そこから先の話を思い出そうとしても虫食いのような状態で黒く塗りつぶされてしまっていて。
本来なら未来のことなど誰もわかりはしないのに、先のことがわからない恐怖で体が震えてしまう。
あいつに記憶を消されたんだ……ここに来る前に読んだ内容もほとんど。
それどころか、いや、だめだ、考えるな、足を動かせ…悟られてしまう…装わなきゃ。
みんなに心配をかけたくない…迷惑をかけたくない。
ゆっくり歩いてきたせいか地上にはもう全員揃っており、島原の人たちは解放されているようだった。
碓氷は見当たらない、どこかへ行ったのだろう……
気持ち悪い……記憶の補完をしておかないとどうにかなりそうだ。
そうだ…あいつの記憶、なにかあったはずだ、あわよくば私の思い出も取り戻したいが。
「オイ、満月…? どこに行くんだ?」
「ちょっとトイレにね……」
頭はクラクラするが足取りはしっかりしている、そのまま森の中を突き進むと碓氷はすぐに見つかった。
あのライオンみたいな人に掴み上げられているようだった。
ちょうどいい、そのまま掴まえておけ、一発殴らせろ、それだけ、それだけだから。
拳にトランスをまとわせて、すでに口から血を流している碓氷に近寄る。
「な、なんだお前……?」
無視して思い切りアゴを殴り抜ける、鮮血とともに飛び散るのは記憶のかけら。
「な!?」
「……しばらくこいつは寝かせておいてくれませんか…ああちくしょう痛ぇ」
地面に散りばめられたかけらを寄せて集めて、記憶を選別する。
あいにく私の消された記憶はなかったけど、その前にこいつが覗いたらしい桜子さんの記録があった。
私がもっと上手く立ち回っていれば消されるはずのなかった、桜子さんの美しい思い出。
…これを戻したところで、桜子さんの記憶が戻るわけじゃない、そもそもこんな穢らわしい人間の記憶なんて植えつけていいはずがない。
こいつが桜子さんの記憶を持つことだって許さない、だから、これは私がもらう。
何もかも忘れてしまえば、もっと楽だっただろうか。
「……お、おい…大丈夫かアンタ…?」
「へ…あ、だ、大丈夫です、大丈夫…すいませんなんか、邪魔しちゃって」
「いやそれはいいんだが……」
あ……いかん、加減をし損ねた…
この数時間だけ飛ばすつもりだったのに、だめだな…もしかしたら二、三日くらい吹き飛んでるかも。
そうだとしたら悪いことしちゃったな…ごめんなさい。
いけない、アゲハたちが呼んでいるのが聞こえる、もう行かないと。
「何をしたんだ?」
そう言われて顔を上げると、変な帽子の人と目が合った。
なに…と言われると、なんとも言いづらくあります。
「ごめんなさい、この人の記憶を消させてもらいました。…私や彼らの居場所は、なるべく秘密にしてもらえますか?」
「……」
「別にいいぜ。いいだろ大河?」
「ああ……それより、早く行ったほうがいいんじゃないか?」
そうか、大河って名前だったのか、それと…おくごう? さん。
大河さんがついとアゴで声のするほうを示す。
あなたが引き止めておいてそれはないんじゃないか…とか思いつつも、二人に軽く会釈をしてその場を去った。
「どこまで行ってたんだよ満月」
「ごめんっ! 思ったより時間がかかって…急ごう」
「ああ、言われなくてもそのつもりだ。マリー、準備はいいか?」
「はい!」
帰る際に島原の二人が見送りに来てくれたようで、私は小さく手を振って笑った。
多分だけど、このあと死んじゃうんだろうな…。
伊豆に来てくれれば生き残れるかもしれないけど…うーん…それはそれで嫌な予感がする……
なんか、マジで嫌な予感がする。
「満月? 顔が青いわ…止血はした?」
「なによアンタ怪我してんの? 帰ったらヴァンに治してもらわなきゃね、コイツとついでに」
「や! 大丈夫! 大したことない、です!」
「大丈夫じゃないです!」
う゛っ……マリーに怒られると、ああぁ…お母さん……!
ていうかそんなウルウルした目で見られたら私どういう反応したらいいかわからんよ。
「諦めなさい、こうなったマリーに逆らえるわけないんだから」
「わ……わかりました…」
迷惑掛けたくないなら怪我するなってことですね、わかりますごめんなさい。
「それにしても無茶するよなお前…なんであんな」
「ごめん…」
「別に怒ってるわけじゃないんだけどよ…」
「その…私何も説明できないから、それも含めて…ごめんなさい」
未来の記憶を取り戻すのと、この脳みそに細工をした張本人と会わないことにはこの頭はどうしようもない、というのはわかってる。
いや、頭は最初からどうしようもないけれど。
「……いつか話せる日がくるのよね?」
「うん…たぶん」
「なら、あやまるのはその時でいいわ」
「みなさんおかえりなさい、どうでした?」
「ただいまシャオくん」
「すっげぇキレーなとこだったぜ、夢喰島」
「みんなおかえりー! 満月おかえり!!」
「いっ、た、だいま…リコ」
いたくない、いたくない痛くないぞー、笑え私、ほら。
「!! 満月ケガしてるの……?」
「平気へいき、大したことないって、痛くないし、ね?」
「じゃ早くヴァンのとこ行って治してもらわなくちゃ、なっ」
ぱしん、とアゲハが傷を負ってるほうの肩を叩く。
こんっの、ヤロッ……!!
「ッッ……!! アゲハぁ…」
「痛くないんだろ? 俺たちに心配かけさせた罰」
ぐっ…そこを突かれると、怒るに怒れない……ごめんなさい。
「もー満月、めっ! だよ!」
「アンタたち無鉄砲なところがそっくりよね、こっちの気も知らないで」
ツンデレ爆弾と無垢爆弾はどっちを受ければ致命傷を避けられるかしら。
いや、どちらも避けられはしないだろう、なぜならもう…もう……!!
大丈夫か私精神もつか理性は切れてないか鼻血は出てないか出てないなヨシおっけ!!
「二人ともアリガトウゴザイマス。じゃ…ヴァンくんのとこ、行ってきま」
「私も行くー」
「コラ、だめだぞリコ、ヴァンの邪魔になるだろ」
「むー…はーい」
はぁ…癒されるわ……
少しばかり心を回復して、ヴァンくんの治療を受けるために治療室の扉をくぐるとそこにはやはりというか、ネメシスQの主がいた。
そういえば、じっくり見るのは初めてだな…今までいろいろと余裕が無かったから……胸大きい。
「満月さん、こっちへ」
「あ、あの、ヴァンくん大丈夫? 休まなくても平気?」
「む。失礼だなぁ、ボクがこのくらいで疲れるわけないじゃないですか」
「あは、そうだよね…じゃあお願いします」
部屋の中にいたのは二人だけで、桜子さんやアゲハは追い出されたあとのようだった。
「……あの」
『なんだ』
「…ヴァンくん、ちょっとこの人と話しても大丈夫?」
「あまり長くは話せないと思いますよ」
「うん。失礼します」
私は有線トランスを彼女に繋ぐ。
『いきなりごめんなさい。質問があるんですけどいいですか…?』
『今ここでないと話せないことか?』
『はい』
私をじっと見て、それからダメQに目をやり、また私に視線を戻して彼女はうなづいた。
『…手短に頼む』
『じゃあ…どうして私をこのゲームの参加者に選んだんですか?』
『単なる疑問…というわけではなさそうだな』
…どうしよう、この人でも話しちゃいけないのか。
万が一のことがあればヴァンくんが治……そんな考えじゃだめだ。
『話せないか……まあいい、選んだ理由は特にない。だが…妙だな』
『?…なにがですか』
『違和感を覚えなかったわけじゃないが、そうか…会ってみてようやくわかったよ』
いまいちよくわからないが、なにか気づいたことがあるようだ。
『――君は違う時間軸にいる人間なのだな』
心臓がどきりとした、まさか、見ただけでわかったっていうのか?
いくつか疑問な点もあったようだから、気づかれるのは無理ないのかもしれない。
『どうやら、私と似たような発想を持った人間がいたらしい、それに気づかず私はまんまと君をこのゲームに参加させたようだ。
…質問の意味はそういうことだろう?』
『…なんて答えればいいのか…』
『何も答えなくていい…他に質問はあるか?』
数瞬考えて、私は首を振った。
これ以上何か言おうとすればうっかりアウトラインに足を踏み入れかねない。
『知りたいことはそれだけです、ありがとうございます』
『…なら、私から質問してもいいだろうか』
『あ…えと、答えられることなら』
『君はどこまで知っている?』
問われて、答えがわからず戸惑った。
私は先まで知っているはずだ、ずっとずっと先を、でもどこまで知っていてどこからわからなくなっているのかわからなかった。
記憶は消されててあやふやだけど、この人がどんな人なのか何があったのか、それはわかる気がする…けど制約があるから……
そうだ、そのまま答えればいいんだ。
『07号さん』
そう呼びかけると、彼女は一瞬だけ目を大きく開いた。
『残念ながら私は敵に記憶をいくつか消されてしまったので、わかることはそうありません。
その上私が知っていることは人には話せないようになっています』
『……なるほど、君の存在は我々の想像の範囲を超えているということか』
『そういうことになるでしょうか。…あの、それでこのゲームから外されるなんてこと、ないですよね』
『ないというより、出来ない。君にはこれからも私の駒として存分に働いてもらわなければ』
そっか、よかった。
もしそれでこのゲームから省かれたら泣くどころの騒ぎじゃないもんな。
『じゃあ、そろそろ』
『ああ』
トランスの線を切ると、07号さんがまたちろりとこちらを見た。
「…あの、なにか?」
「もー! あまり長話はできないって言ってるじゃないですか! 満月さんの治療はもう終わってますから、続きは今度にしてくださいよ」
「あ…う、うん。ごめんね」
なにか話したげにしてたけど……なんなんだろうか…?
…まあ、明日にでも聞けばいいだろう。
扉の外にはリコがいた。
スケッチブックに絵を描きながら、鼻歌を歌って、ねそべって。
「って、リコ! お行儀が悪いよ!」
「えー! でも廊下じゃこうしないと描けないよ!?」
「あ、そっか…………いやいや! もっとこう…体育座りとかあるでしょ!」
「たいーく?」
あ…そうだ、学校行ってないし体育って概念ないんだ…三角座りなら、多分通じるかな?
「三角座り、ほら、こう!」
「うにー……きゅーくつだよー」
「でもさー寝そべって描くよりはさ」
「うーん…満月が言うならそうする」
「お前らこんなとこで何してんだ?」
はっ!
「あっ、カイルー!」
「いや、あのねっ、廊下で寝っころがるのお行儀悪いし…」
「え? 寝転がりたいならすりゃいいじゃん?」
「私じゃなくて」
「あー…リコのことか、こいつの場合はいつもそうだからなー」
いつもって、直さなかったんかい。
リコはリコでカイル登りをはじめてとても自由気ままだ。
「リコの創るヤツらは外の警備に使えるから、より便利なもんができるならって、ババ様もちょっと大目に見てんだ」
「“ぜんけんなサイはぜんけんなセーシンに宿る”って、ババ様が言ってたよ!」
「“健全なPSIは健全な精神に宿る”だ、リコ」
カイルの後ろからシャオがやってきた、心が真っ直ぐなら真っ直ぐなPSIが生まれる…って意味だろう。
「あなたと再会できてからは元気を取り戻してて、まあ…もとから元気だったんですけど、俺たちにも手に負えなくなってきてますよ」
「俺はこのぐらいのほうが遊びがいがあるけどな」
リコの手を握ってぐるぐる回しながらカイルが言った。
……ものすごく通行の邪魔になりそうだ。
とはいいつつあまりここに人は来ない、まあそうだろう、ここに用があるとすれば外から帰ってきた人か怪我人なのだから。
「……長かった…ん、だよね…」
私がいなかった時間。
転生の日から八年…私たちが消えてから十年……言葉にするとあっけないけど、時間にすればとても長い。
「彼女がこんなに成長するくらいには」
当時は小さかったリコが、いまや私に追いつくか追いつかないか、というくらい大きくなっている。
その間私はいなかったのに、今まで私のことを覚えていてくれていたことは、もはや奇跡にも近いのかもしれない。
それぐらい子供の頃の記憶なんて曖昧だ、私だってそうだ。
「それでも私のこと忘れないでいてくれたんだね…」
「満月のこと忘れるわけないよ!!」
「うぉわっ!? 聞いてた!?」
「ずーっとずーっと満月のこと…待ってたんだもん」
「……できれば、恥ずかしいので私のセンチメンタルな発言は忘れていただきたい」
「なんで?」
なんで…だと…?
まさかの質問に少し固まった、いや、恥ずかしいからって言ったはずなんだけども。
ああ、なんで恥ずかしいかってことね、いやね、あまりそういうこと言うガラじゃあないし、しかも年下相手だし。
プライドなんて地平の彼方へ投げ捨てたい私、そんなプライドが……お姉さんぶりたいという気持ちがね。
それを口にするのも恥ずかしいので、黙る。
「…部屋に帰る…」
「あっ満月、待ってー私もー」
そういえばリコは私を待ってたんだっけ? 部屋に帰るついでかな。
まーいいや、帰ってシャワー浴びよっと。
