腐っても時渡り 原作沿い編
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夢喰島に向かい始めてからしばらく、海の中を優雅に漂う潜水艦。
薄暗いが真っ暗ではない、時折見える海底にはたくましく生きるサンゴや、塵が積もっていてよく見えないが海草もある。
「魅惑の深海ツアーときたもんだ」
酸素濃度、気圧、発動規模、……それらを考えるだけで脳みそパンクしそうだ、カイルはやっぱすごい。
これだけ大きな岩を揺れも無しに操れるマリーもすごい、うーん、私も見習わなくちゃな……
そんな子供たちの成長に驚嘆してたが、私はもうひとつ驚いたことがあった。
「あのリコが素直に送り出してくれるとは……」
「あれでも成長してるのよ、アンタは知らないでしょうけど……アンタが消えてからはあの子ずっと泣かないで待ってたわ」
「そう…なの?」
「『満月は絶対帰ってくる』って、避難する時もひと苦労だったんだから」
「……ごめんなさい」
多分、家にいてくれって言ったからだろう……律儀に守ってくれたんだな、リコ。
ここで、マリーを休憩させるために一旦海岸へ上がる、島の位置を確認するためにアゲハたち三人が出て行った。
「……私も行ったほうが良かったかな」
「そんなに大人数で行っても目立つだけよ、休みましょう」
「うん…」
早く夢喰島へ行きたい、そしてネメシスQの主を助けなくちゃ、手遅れになる前に。
「…どうしたの満月、妙にそわそわしてるみたいだけど……なにかあったの?」
「え、いや……なんでもないんだけど…人の命が危険だと思うと落ち着かなくて」
「気持ちはわかるけど…焦っても仕方がないわよ」
説明できないのがもどかしい、私が流れを変えたからなんて、あの謎の声の言う通りなら言えないはずだ。
故に、はやる気持ちを抑えることができない。
焦ったっていい結果にはならないのはわかる、それでも急いてしまうのは、すごく嫌な予感がするから。
アゲハたちの行った方向から衝撃音が響いた。
「…!? 雨宮さん…!!」
「マリーはここにいなさい!」
「桜子さん、私も行く!」
外へ出る、音のした方向はこっちで合ってたよな……
先を走る桜子さんについて行き周囲をうかがう、前みたいにひとり増えてたらいけないし。
もうすこし走った先で、フレデリカのパイロ・クイーンが見えた、わかりやすい目印だ……
「こんなところにもW.I.S.E が来ているなんてね」
「雨宮! そいつは禁人種じゃない!!」
その言葉から桜子さんは咄嗟の判断で相手のナイフを受け流す。
「待て!!」
私は触手でソイツを…ああ名前忘れた、捕まえようとしたが、間一髪で避けられた。
さらに追いかけようとするのを桜子さんが止める。
「もうムダよ、それに一人で行かないで、罠かもしれないわ」
「でもアイツ桜子さんの髪の毛持っていった! マニアならン十万で取引する桜子さんの髪を!! アゲハならいくらで買う!?」
「いや…別にそんなマニアックな趣味は……」
「気持ち悪いわよ満月」
ズバリという音が聞こえそうなほどはっきり気持ち悪いと言われた…そりゃそうだ。
しかし、アイツを捕まえられなかったことで桜子さんの過去を知られてしまうことが確定した。
Qの主の場所も知られてしまったし、いよいよ急がなくては。
「どうする? 追うか」
「…いや、こうなったら夢喰島へ急ごう」
生きているかそうでないか、まるで開けてみなければわからないシュレーディンガーの猫のようだ。
……その場合私はどの位置にいるのか全く予想がつかないけど。
猫と観測者と一般人…三番目はないと思いたいけどね。
遠くの方で、まばゆい光が見える。
「おかしいですね……この方向であってる筈なのに…」
「島がないのか?」
「あれ? 俺読み間違えたかな?」
「! いいえ合ってるわ…あれを見て」
桜子さんが指す先に、空間のひび割れがある。
そこからネメシスQの主はとても衰弱していると仮定し、閉ざされていた空間へと入っていった。
中は私の予想以上に陽の光で満たされていた、もしかすると今までの薄暗い世界に慣れてしまっていたせいなのかもしれないが。
この世のものとは思えないな、天国があるならこんな場所がいい……今はまだ行く気はしないけど。
そうだ、ここ天国だった、やばい別の意味でもドキドキしてきた。
「すごい……」
「夜科!」
はぅあっ、キタ!?
小さなネメシスQ、もといダメQは大歓迎とばかりに喜びのポーズ? をする。
「なんだアイツ」
「とにかく主人の下に案内してもらいましょ」
はあぁ…かわいい……! ででででもこんなことしてる場合じゃ…いや! ダメQがいないと研究所の場所がわからないしね!!
自分への言い訳も終了して、脳みそに焼き付けるレベルでダメQを凝視する。
「まったりエサをやり始めましたけど」
「アレ食べ終わるまで見守る感じだぞ多分」
和む……猫多数+ダメQとか気力というか緊張ゲージ大幅に減らされるわ。
猫たちがムシャムシャとエサを食べ終わるまでしばらく、そろそろ頃合いかという時にQが突然立ち上がった。
うおおっほんとだ俄然やる気だ!
「追え追え!」
あっ、落ちた! むっちゃかわいい! もうドジッ子め!
転がっていったダメQを確認しに行こうとすると、背後の空間結界が吹き飛んだ。
「!! 何だァ!?」
「やつらだ!!」
「全員固まって! いきなり来るわよ!!」
あの膜を破って来たらしいライオンを模したPSIが目の前に降りた、同時に口を大きく開いてエネルギーを溜め始める。
それを見てカイルがマテリアル・ハイで相手の砲撃をガードする。
ビリビリとした振動は感じたものの、割れる気配はミリ単位とも無い。
うおお…肩から腕にかけての筋肉がかっこええ……
安心もつかの間、帽子をかぶった…名前はなんて言ったかな…その人から、光る何かが飛び出す。
「まずいッ!!――全員飛べぇ!!」
言われて防壁が落ちてこない場所まで飛ぶ、着地は失敗したけど。
しかしびびった…よかった。
みんなとかなり離れてしまったけどここなら……いけるかな…どうかな……
ここから先回りしてあいつらより先にQの主に会わないと…
「動くな」
「は…すいません動きません」
う、う、後ろにいたぁぁ……! 気付かないとか…あはは、バカだわ。
いや、これはピンチですよ、だって動けないってことはさ、先回りできないってことで…ああ、ああ、そうだ。
死ぬる覚悟で行かねば、そうじゃなきゃ死んだと同じなんだから。
「御免っ!!」
「ッな…!」
触手で足を取って男を転ばせる、幼稚な手かもしれないがこれしかなかったんだよ…多分。
碓氷はもう中に入っていった、いつぐらいだ、数分前か、まだ間に合う。
飛んでくる光をぎりぎりでかわし、電気も点いてない暗い研究所へ入る…足音、近いか? ただの反響か?
なんにせよ、走らなければわからないことだ。
「満月ッ!?」
後ろから桜子さんの声が聞こえるが、無視、無事に帰れたらあの声について調べてみよう、こんなのキツすぎる。
そんでいつかもうちょっと縛りを緩くしてもらって、理由を話して、もっと対策を立てられるようにしよう。
あの夢の中の景色はどこだったっけ……
階段をいくつか降りたとき、薄ぼんやりとした光が見えてきた、話し声も聞こえる、あそこだ、桜子さんはまだ来ていない。
だが今しかない、襲撃だ。
足音か呼吸の音が聞こえたのか、二人がこちらを振り向く。
すぐさま大爪で瓦礫をばら撒き隙を作り、三宅の持っている拳銃を奪いにかかる。
「このッ…!」
「!!」
ダァン!
「は…ァ……!!」
…銃声を間近で聞いたからか耳鳴りがする、肩から生ぬるい血が流れた。
……撃たれたショックと、肩を焼く熱のせいで動けなくなってしまった、なんといえばいいか、頭が真っ白になってしまった。
碓氷が薄笑いを浮かべてこちらを見つめる。
私はその目に怯えて、固まってしまった。
「三宅、そいつに構わなくていい、どうせもう動けんよ。それよりも女だ」
「はい」
ネメシスQの主に銃を向ける、待てよ、やめろ、叫ぼうとしても声が出なかった。
思考を復帰させろ、私がここに来た目的だけを見ろ!
このままではあの人が殺されてしまう。
私はあれを止めなくちゃいけないんだ。
今度は頭を撃たれるかもしれない、怖いけれど、役目を達成できなければ死ぬのと同じだ。
そこまで思い出すと、体が勝手に動き出してくれた、一直線に三宅の腕へ突進しネメシスQの主に向けている銃口を逸らす。
天井に向かってまた一発放たれる、そしてすぐ振り落とされ、今度は銃口が私へ向く。
まだかすかな煙を吐き出す拳銃と見詰め合って、衝撃を待つように目を閉じた。
…私の人生ここで終わりか、どうせ元からないと思ってた命だったとしても心残りがないと言えば嘘になるなー、心残りありまくりだっつ、
まだ足りないよヒリュタツとか朧アゲとかミログラミロとかあああ足りないなああ!
やだまだ死にたくない目の前でそんな光景を目にするまで死にたくないけど今すでに死にそうなんだよなあわかったなんとかしてPSYの力で幽霊になって意地でもここに残ればいいんだそうだそうしようってこれもただの現実逃避だよなあくそう撃つならとっとと撃てよコンチクショウ!
(この間およそ1.5秒)
…………? 撃ってこない…?
「――殺させません!!」
目を開けると、左の方向に桜子さんとマリーの姿が見えた、ま、間に合った……!?
「満月、無事!?」
「桜子さん!」
「チッ…クソが…!!」
三宅が腕に刺さっているナイフを抜き取りもう一度銃を構える。
「そんなもの使ったらだめです!!」
マリーがテレキネシスで銃を奪って彼方へ放り投げた。
そういえばそんな手もあったか……失念してた。
急激に現実へと引き戻され、私は何もすることがなくただ呆然と目の前の光景を眺めるのみだった。
じりじりと痛みだした肩を押さえ、動き出す時を待つ。
幸いネメシスQの主のいるカプセルを背にしている、万が一彼女が狙われることがあってもいざとなれば……
でも、ああ、もしかして今なら。
私の中に淡い期待が、いや、甘い考えが浮かんできた。
「そう上手くは行かないものだな、ここが正念場というところか」
今なら、向こうが油断してる今ならやれる、碓氷を倒せる、今しかない。
糸繰り人形<ドール・ドール>!!
極限まで細くした針と糸を碓氷の脳天目掛けて投げつける、気づいてない!
(いける!!)
しかし、その予想はすぐに裏切られた。
ヤツは防御するでもなく、避けるでもなく、糸繰り人形の針を掴み取ったのだ。
「そんな小細工が私に通用するとでも思ったかね――?」
「満月!!」
「ふむ、珍しいタイプのPSIだな…経験が影響しているのか、それとも……」
もう一回、と投げた針も途中でぴたりと止まってしまった、まるで…ああ、そうだ。
「私の網に絡み取れないものはない」
「満月! いま助け…!」
「ダメ…っ!! 桜子さん!」
叫ぶ私の視界の端に、蜘蛛の姿が見えた。
それはあっという間に私の頭へと入り込んで――
筋肉が力をなくしていく、目の前が暗くなる。
やらなくちゃいけないことがあるのに…碓氷をなんとかしないと…桜子さんの記憶が……
わずかばかりの抵抗もむなしく、私の意識は水底へと沈んでいく。
「……」
――見たことある景色だ……暗くて体が軽くて…寂しい場所。
ガラスが今にも割れそうに音をたてて、目を開けようと思っても開けられない。
あれ、おかしいな…なんで景色が見えるんだろう…
みんなに振り向いてほしくて練習した能力は、逆にみんなを遠ざけた
またあの声が聞こえる、頭の中に映像が流れて、教室の隅でクラスメイトが遠巻きにこちらを眺めていた。
小学生だろうか、この声の主はもともとサイキッカーだったようだ。
世界がすべて崩壊して、周辺で生き残ったのは能力があったわたしだけ
忌々しかったこのチカラがもっと忌々しくなった、一緒に死んでしまったほうがマシだったから
死のうとも思ったけど、運悪く彼らと出会ってしまった
この映像の中では高校生になったころらしい、山で囲まれた町に落ちる隕石、この人はPSIによって生き延びたのか。
映像は続く、W.I.S.E にアストラル・ナーヴァまで連行されて、能力を認められてイルミナの実験台にされて……
未完成のイルミナは体を蝕んでいって、やがて動けなくなってしまった。
むごい……こんなことするなんて…
失敗作として捨てられても、まだわたしは生きてた
埋め込まれた珠の生存本能がわたしを無理矢理生かそうとして、わたしの体は変わり始めた
体の構造を変えて、わたしは醜い化け物になってしまった
体の構造って…イルミナに生存本能が備わっているのかはわからないが、きっとそれはとんでもない苦痛だろう。
……この場所はその『わたし』がいる場所、ということみたいだ。
探したわ、わたしをここから助けてくれる人を、全国、全世界、全宇宙――――
開かなかった瞼が強制的に開かされて、水の中にうごめく影が瞳に映った。
ふやけてぼろぼろの皮膚、色を失った髪、体は原型がなく無残だ、でもこの姿は……
そして見つけた、ありとあらゆる時間軸でこの世界を生き抜く知識を持つ、ただ一人の人を
影が近づいてくる、ぎらりと光る瞳、触手のような異形の指が、私を示す。
パラレルワールドで生きる、別世界のワタシ
