腐っても時渡り W.I.S.E編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自衛隊からの砲撃を逃れてきた弥勒達の目に飛び込んできたのは、血まみれで倒れる女と泣きじゃくるカプリコの姿だった。
「じゅなすぅ…! 満月、満月が…!!」
カプリコがゆすっても目を覚まさない、気絶しているのか、それとも…
その前に、できるだけ早くこの地から離れたい、そう思い弥勒は満月をグラナに任せ隠れ家をあとにした。
北海道にいくつかあるうちの隠れ家の一つに転移が完了すると、弥勒は改めて満月の顔を見た。
「犬居の山荘で会った女だな…生きていたのか」
「会ったことがあんのか?」
「一度な。その時はこの俺に歯向かって来たから返り討ちにしたが…カプリコ、こいつはお前とどういう関係だ」
「満月はわたしの友達だよ!! 最初の友達!」
カプリコを自我が崩壊しない程度に洗脳する際、カプリコの自我の中でもっとも最上位にあった名前が満月だ。
多少記憶を捏造する程度のごく微弱なものだったが、そこだけは揺るぐことがなかった。
そのため、満月をエサとすることでカプリコをここまで誘導し従えてきたわけだが、まさかそのエサからこちらに飛び込んでくるとは。
「ねーグラナ…満月だいじょぶ…?」
「あァ、心配ねぇよ。血まみれだがどこもケガはしてねーし、ただ気絶してるだけだ、どうも憔悴しきってるが…ちゃんと飯くってんのかぁ?」
「病気ですか? まぁ…一目で異常だとわかるのは胸のソレですけどね」
シャイナが満月の胸のイルミナを指さす、この時代にはまだないはずの器官だが、弥勒だけは知っていた。
「ミスラが語っていた「イルミナ」に似ているな…話によれば、PSIに満ちた大気を取り込んで糧とするものだが、作るにしても先の話だしその計画も今は白紙だ。太陽が弱点なうえ適合するためにも相当の素質がいるはずだが…その女はいつどうやって……いや、その答えも俺は知っている…」
全員が疑問符を浮かべる中、弥勒だけは知っていた。
直前のアゲハとの交戦中に渡された姉の能力、アゲハが辿った旅の記憶、時を越えて届いた姉の想い。
満月もまた、アゲハたちと時を渡り、今この場にいる――そう結論するまで時間はかからなかった。
「ハン、今あるはずもねぇモンをくっ付けてるてことは、コイツは未来から来たってことか? まるでSFだな」
ドルキが嘲るように吐くが、そもそも超能力もSFにはよくある設定である、未来から、というのはあながち否定できず全員口を閉ざす。
疑問が解消したのは弥勒だけで、まだ半信半疑の一同を納得させるだけの言葉を見つけることができないので、そのうち弥勒は面倒になり考えるのをやめた。
本人に説明させるのが一番いい、と弥勒はそれだけ言い残して別の思案のために二階の一室に入っていった。
取り残された同志たちも、満月の目が覚めるまでやることがないので各々自由にすることにした。
ただし、グラナはそこから動くことができずじっとしているしかなかった。
理由は簡単、気絶しているはずの満月がグラナの服を掴んで離さないからだ、無理矢理引きはがしてもいいがリコの抗議の目がそれをさせなかった。
グラナなりに弥勒の話を解釈すると、満月は餓死寸前というところにあるのだろう、そうなら同情が湧かないわけもなく、といっても、おそらくこういう感情なんだろうと手繰り寄せた情ではあるのだが。
大気中にあるエネルギーを養分にしているというなら、グラナもそれを集めるのは容易で。
それならば、とグラナは瞑想の構えに入り、静かに満月の覚醒を待つことにした。
◆
ずいぶん久しぶりに長く深く呼吸をした気がして、意識が浮上する。
温かな人肌の感触がしたので、それならリコだと思ったけど、それだとすこし大きい気がした。
混濁する意識と記憶で、そうか、大人になったリコなんだと思い、抱きつく力を強めて、違和感に気付く。
がし、とその体の胸のあたりを掴んで、意識は一気に覚醒する。
「リコに雄っぱいがある…だと…!?」
「…寝起きの一言がソレならもう心配いらねぇな?」
「満月ー!!!」
「!? あ? グラナさん? リコ? え? あれ、ここ…ん!? ちょっとまって、思い出す時間ください」
いや、うすうすおかしいなと気づいてはいたんだけど、まさか現実だなんて思わなくて……そのなんていうか。
ほんぎゃああああああああああああああああああああああああグラナさんの雄っぱいわしづかみしてもたははああああああああああ!!!!!
なんだこれ夢かあああああああああ!!!? いやもういっそ夢であれだってこんな…こんな……
改めて、グラナさんの顔が近いことに気付く。
というか、抱えられてないか、ていうか、グラナさんの腕の中ですやすや眠ってしまっていたんではないか。
「ぐっは!!!!」
寝起きからの情報量過多でもう処理しきらんねえよおおおおおおお!!!!
私はグラナさんの腕から飛び降りるとそのまま床を転がり、壁にぶつかって起き上がり、まだ現状を理解しきれず壁に頭を打ち付けた。
壁がみし、とかぎし、とか悲痛な叫びをあげるが、どうせコンクリ打ちっぱなしなんだから気にしなくていいとどこか冷静に考えて。
そこから冷静さの目を覚まさせていくと、いくつか視線を感じることに気付いて。
あ、ああ…そうだ、リコがいて、グラナさんがいるなら、ジュナスさんもいるし、ウラヌスさんとか、ああ…そうだ…私、こっちに来たんだった。
今更…ほんとに今更だけど…今以上に、未来でとはいえみすぼらしい姿も晒してるわけだから、別に今更、いや、でも。
うわああああああでもこんな醜態さらすとかああああしかもリコの前でええええええ!? 恥ずか死!
私は触手を繭状にして自分の体を包んで、ふて寝する子供のごとく引きこもることにした。
いいんだ……私は……羽化することなく死ぬ蚕なんだ…イルミナの現実も合わせるとなんて皮肉だろう…ははは。
「お…オイオイ…なんだこれは…人間か? 新種の動物か? 言葉は通じんのか?」
「ど、どうぶつじゃないよ!! 満月は人間だもん! ドルキの顔がこわいからびっくりしちゃっただけだよっ!」
「悪いが理子…俺にもこれは新種の生き物に見える」
「いやいや待て二人とも、俺は確かにこいつと会話したぜ、なあ理子。……人間…? だよな?」
「グラナまでひどい! むー……満月、満月ダイジョーブだよ、みんなちょっと顔はこわいけど満月のことたべたりしない…よね?」
う…なんかすごく申し訳ない、し、情けない。
何事もなかったように取り繕うこともできないけど、出るだけ出てみるか、なんなら顔が怖かったってことにしてもいいし。
「って、オイ! なんでちょっと疑問形だ! 問題なく食わねーよ!!」
「ははは、ドルキさんならやりかねないですからねー」
「てめっ…あとで殺す…! ていうか今すぐ殺す…!」
楽しそうだ…顔、出してもよさげかな、赤くなってないかな…
「いやー、それにしても面白いくらいテンパってましたね。からかいがいがありそうだ」
あ……シャイナさんにおもちゃ認定された気がする。
「満月ー…」
「ごめん、大丈夫、リコごめん…うん、ちょっとびっくりしただけ」
繭状態は崩さずに、リコの心配そうな声に答える。
うん、うん、よし……これ以上恥ずかしいことなんてないぞ、平気平気。
触手を解除して、ゆっくりと起き上がる、リコの頭を撫でて、そしてぱちくりと目を見開く。
「…どうした?」
私の様子に気づいたのか、グラナさんが声をかける、そっちに顔を向けて初めて部屋の全景が目に入った。
「ここ、空気がすごいきれい……な、気がします」
今度はグラナさんたちがぱちくりと目を見開いた。
イルミナのせいだと気づいたのはそのあとで、でもだからといって発言を撤回する気もない。
まあ、早めにコイツを取り除きたいという気持ちはあるけど…しばらくはこのままでも全く問題ない。
「うに…満月、それ、痛くない? へーき?」
「ん? うん…もう力はないけど、壊れたらどうなるかわかんないからそっと触ってね」
「それにしてはずいぶん暴れてたみたいだが」
上の方から物音がしたと思ったら、部屋からミロクさんが出てきたようだ。
空気に緊張が走っていたが、未来で会ったときに比べればいくらも雰囲気は柔らかい。
「一応かばってましたよ…それに多少は大丈夫ですし。そうだ、どうもお久しぶりです」
「山荘での一件以来だな、どうやって生き延びた?」
「そこはまあ、いろんな人の助けを借りまして。一番はリコのおかげですけどね」
「なるほどな…創造主はすでにその手の内にあったか……今となっては過ぎたことだ」
悪かったっすね、まあ、計画は半分くらい成功してるからよしとして。
「初めまして、リコの保護者兼姉兼友人の星崎満月です。こんごともよろしくおねがいします」
「一応の確認だが、お前は未来を見たのか?」
「おぅ…直球…えーと」
話しても大丈夫だろうか、と確認のためにしばし間を置いてみたが、制裁が発動する様子はない、すでに解除されているようだった。
「お察しの通りですよ、私は未来と今を行き来してここにいます、ほら、このイルミナだって未来での副産物ですし」
「…てこたあ」
「はい、私は今回の作戦が成功した未来のW.I.S.E本部で幽閉されて食事も与えられずある日ズムッと胸を抉られてコイツを埋め込まれたんですよ~いやまったくひどい集団がいたもんです。イルミナがミスラの仕込んだ養分を集めるための罠でなければ私は今頃この時代で塵になって死んでましたね~ていうか二度か三度くらい死ぬ目に遭ったんですけどはっはっはっ」
あ、いや、違う、別に恨み言を言いにきたわけではなく。
うわ~めっちゃ警戒した目で見られてる……別に玉砕覚悟の復讐とかではなくてですね、どうすんべ。
「満月……ひどいことされたの…?」
気付けば、泣きそうな顔のリコが私を見上げていた。
「わ゛ああああ! 違うんだよリコ大丈夫だからね!! 笑い話にしようと思ったらわりと笑いごとじゃなかっただけで…ていうかリコのおかげで助かったんだよリコは命の恩人!! リコありがとう! リコは女神!」
「ほんと…? わたし満月の力になれた?」
「そりゃもうスッゴク! あの日リコが見つけてくれて私のことかばってくれなかったら実験体の墓場で死んでたよ! リコほど頼りになる子はいない!」
「…えへ、えへへ~」
抱きかかえて頬をすり寄せると、リコが小さな手で抱きしめ返してくる、大きくなったリコも綺麗になってたが、今のリコもたまらなくかわいい。
これは再確認だ。
「うわぁ☆」
シャイナさん、こいつ気持ちわるっ! とか、思ってるんだろうなあ。
ということも気付いているのだろう、それ以上何も言わなかった。
「…それで、お前の目的は理子の奪還か?」
「えっ?」
「あ?」
ジュナスさんの言葉に素っ頓狂な声で返すと、メンチ切りながら返された。
なるほど臨戦態勢なのもそのせいか、そういえば目的らしき目的もちゃんと言葉にしてないような。
「こんごともよろしく、って、言ってませんでしたっけ…? みなさんに同行しようと思ってるんですケド」
「はっ…同行? スパイの間違いだろ?」
「んんー…そう言ってスパッと殺さないでいてくれるところはみなさんのやさしさと解釈しておきますね」
「理子の精神衛生上のためだ」
「潔い回答どうも。けどリコは渡しませんよ」
リコの肩を抱き寄せてにっこりと牽制すると、ジュナスさんは明らかにイラついた顔をした。
ははは、誰もロリコンとか光源氏とか言ってないですよ、まったく油断ならねえな。
んー、それにしても納得させるのは難しそうだ、そりゃどう考えたって怪しさ満点だろう、潔白を証明できるものはなにもないし。
けど……本当に何も企んでなんかいないんだけどなあ…
打つ手ナシ、さて……
なにか、こっちに入ろうと思った理由でも話せばいいんだろうか…と思い返してみて、いろいろ思い出した。
思い出したけど、イルミナのおかげでいろいろ制御されてるせいかすごい恥ずかしいことばかり言ってる気がする、くそ恥ずかしい。
そんなのを二度も言いたくはないから、その記憶だけを頭の中からパラパラと出した。
「うん、ミロクさんが納得さえしてくれれば私はここにいられるんですよ、てわけでこれあげます」
「なんだこれは」
「私の記憶です、ミロクさんとかと話した記憶。ちょっと恥ずかしいんで、ミロクさんに全部あげます、グラナさんとかなら共有してもいいですけど」
「ほう? 俺の脳を直接ジャックするつもりか」
「私ごときがミロクさんの頭をジャックできると思うなら」
「冗談だ」
薄く笑みすら浮かべるミロクさんに、まるで別人みたいだな…という感想をもつ。
なんだったっけかな…たしかアゲハが…なんか…そう、ネメシスQの主の記憶を渡して…それから、だっけ。
ああ、うんうん、そこから先ならなんとなくわかる。
「……」
そうか……物語は終わったんだ。
そんで、ここからは未来のわからない、まったく未知の生活になるんだ。
「…ふむ、なるほど…」
「大丈夫か?」
「問題ない。こいつに害がないことはわかっていたしな」
「え、そうなんすか?」
意外な言葉に私が一番びっくりする、だって、そんな風に思われてるなんて思ってないじゃん。
「明確な理由を求められると説明できないな…勘、だ」
「なんだ、お前らしくないな」
「確かにな……だがあらかたピースは集まったようだから、少しばかり今後の計画を考えることにするよ、あとのことは任せたぞ」
「おう」
そう言うとミロクさんは一人部屋に戻っていった、一応…ここにいることは許可されたってことでいいのかな?
「よかったなカプリコ、大好きな姉ちゃんと居ていいとさ」
「ほんと!? やったー満月! ずーっといっしょだよ!!」
「いいのかグラナ、裏切るつもりかもしれんぞ」
「あー? 弥勒が害なんざ無ェって言うんならそうなんだろ。不安なら見張ってりゃいいじゃねえか、なあ?」
ん? こっちに同意を求めてるのか? うん、そうだね、としか言いようがない。
未来でしたこの人たちとの会話の記憶ほとんど抜いちゃったから私も覚えてないけど…ミロクさんを納得させるには十分だったらしい。
「そうですね、そのうち取るに足らない存在だとわかりますよ。ちょこっとPSIが増幅されてるだけのただの人間ですし」
「じゃ、問題ねぇな」
それから一か月経ったくらいだろうか、本当に害がないとわかったのか、警戒する人はいなくなってた。
…逆に、私のほうが警戒しないといけなくなったけど。
「っとお! またですか!?」
「いい……だろ…試してみるだけ…だ…………オレの潜航師なら……取り除くことができるかも…しれないぞ…?」
「ちゃんとした治療法がありますから! 頃合いを見て治療しますって!! てかヴィーゴさんは体に腕ねじこむ口実がほしいだけでしょ!?」
「人の……親切…は………素直に受け取れ……」
「親切しようっていう気持ちはうれしいですけど!」
こんな感じで、ヴィーゴさんに追い回されたり、ドルキさんをシャイナさんといっしょにバカにして追いかけ回されたり、ジュナスさんをドルキさんといっしょにバカにして追いかけ回されたり、騒がしい毎日だ、正直楽しい。
でもリコとおんなじご飯は食べられないしPSIの純度が高い人たちから離れることはできないし、そろそろイルミナを取り除く治療を受けたい。
でもまたそこで問題、追っ手の目をかいくぐって治療を受けに行って何事もなく帰ってくる方法が思いつかない。
シャイナさんにテレポートで送ってもらうってのが一番安全で確実なんだけど、頼んでみたら、
「え? そこまでしてやる義理ありましたっけ」
と、顔に「めんどくさい」って書いてある表情で言われて以来、説得すらしてない。
シャイナさん的には私はまだ警戒する相手なんだろう、倒すのは苦ではないが、テレポートした先は罠でした、なんてのは避けたいだろうし。
いやでもあれ…多分ほんとにめんどくさいし義理がないだけだろうな…
うーーん……方法はともかく、とりあえず治療法がわかったかどうかだけ聞く必要があるな、と。
詳しい時期や期間も知らないままリコと離れたくないし…とトランスの糸を頭の中に滑らせる。
「グラナさん、ちょっとこれ持っててもらえます?」
「おお…いいけどこれ、お前の能力で出した記憶じゃねえか?」
あれからグラナさんの隣は私の定位置となっていた、この中では一番PSIの波動が強いから毎日走り回るためには効率がいいのだ。
ウラヌスさんの攻撃に巻き込まれることも多々あるけど、こっちは基本的にグラナさんだけを狙ってるから比較的安全だ。
ポケットから出したケータイで番号を呼び出す、そして二度か三度のコールで相手は出た。
「もしもし? ヒリョーさんおひさ、タツオさん元気?」
『ヒリューだッ! そっちこそ無事か? 連れ去られたっていう子供もだが…まあその声からするに無事なんだな…タツオは元気にしてるよ』
リコは私が電話をしてると気付いたとたん、誰? とか私も話すとか言い始めたので、それが聞こえたんだろう。
私はリコにちょっと静かにしててねというジェスチャーをして、本題に入る。
「てことは、治療法は解明したとそういうことっすね?」
『そうだと言いたいんだが、まだ珠を取り除く段階までは行ってなくてな……今はイアンさん曰く「無害な腫瘍」程度にはできるらしい』
「む、そうなんだ…こっちは政府に追われる身だから定期的に治療受けたりとかできないんだよねぇ……完全に取り除けるまではどのくらい?」
『そうだな……タツオ、…………――わかった。このペースだとあと二、三ヶ月くらいしたら完全な治療法がわかるみたいだ』
早いのか遅いのか、イマイチわからんが、とりあえずまだ時間がかかりそうだ。
「ありがとう。つーかナチュラルに一緒にいんのね…オジャマしました。治療法がわかったらメールかなんかしてくれると助かります、では逆探知されないうちに切りま~す、ほいじゃ」
ヒリューの返事を待たずに電話を切る、薄情かもしれないけどしかたねぇんですよ。
性格的にヒリューはまず間違いなく安全だけど、周囲がそうとは言い切れないし、まあタツオも安全だろうが。
「…今の、お前の仲間か?」
「ですよ。あでも政府のほうにはマークされてないはずですから罠とかはないかと…それにこうして土地に関する記憶も抜いてるので…」
「ふーん…それならいいんだけどよ」
納得…したのかな? 一応聞いてみたけどわりとどうでもいい、っていう感じの言い方だな。
と思っていたらぐいっと肩を抱き寄せられた、この人けっこうスキンシップ過剰だ。
「それならそうと先に言えよ~! 不安になったろうが!」
「ええっ」
「お前のこと、結構気に入ってんだよ俺は」
数日前に、ミロクさんから有線テレパスで私の記憶を共有したのだとグラナさんは言う。
そこでの会話に何か感じるものがあったらしく、それ以来私をそれなりに気に入っているらしい。
ありがたいことだ、何を話したのかはさっぱりだけど。
「それはそうと私の記憶返してくださいよ」
「……なあ、ひとつくらい貰ってもいいか?」
「え? なんでですか」
「いや……真っ当な人間の記憶を埋め込んだら、もしかしたら感情のひとつくらい芽生えるかもしれないだろ」
「じゃあダメです」
即答かよ! とグラナさんから突っ込みが入るが、そんなの気にしない。
「それは洗脳と変わらないです、グラナさんの感情じゃない。記憶の共有で得た「知識」まではいいけど記憶そのものはダメです」
「…それでも俺は何かを変えなくちゃならん、でなきゃお前の見た未来の俺のままになっちまう」
「いいじゃないですか、それで」
グラナさんは私の言葉に対して、どういう感情に持っていけばいいのか、という顔をしている。
どの反応をすればより人間らしいか、今日だけじゃなく毎日模索してる。
「変えようって「感じてる」なら、人間であろうとしてるなら、グラナさんは誰よりも人間らしいですよ」
遺伝子をいじくられてない人間だって、毎日あれこれ模索して考えて行動して失敗しながら人間になろうとしてるんだ。
私だって肉体的にも人類的にも「人でなし」だけど、一応人間らしくしようとしてる。
それならグラナさんだってここにいる他の人たちだって、「人間」には変わりない。
「……悪かったな、こいつは返すぜ」
「あ、どうも。……いきなり預からせたくせに偉そうに説教しちゃってすいません」
「かまうこたねぇよ、それにナマで言われるとなんつーか、沁みるな」
? グラナさんの言葉から推測するに、共有した記憶の中にそんな感じの会話があったんだろうか。
ううん、それはちょっと恥ずかしいな…つまり前も偉そうに説教したってことじゃないのか。
変わらなきゃいけないのは私な気がする……
ぶにっ
「…なんえふか」
もにもにもにもに……
「はははっほんとにモチみてーだ」
「ぶよぶよれわうかったえふね…」
「グラナ! 満月いじめたらメーっ! だよ!」
「いじめてなんかねェよな?」
確かに? これはいじめられてるというよりはいじられてるという方が正しいですが?
そろそろほっぺた痛いんですが…グラナさん?
「見ろみろ、タコ! これがタコだぞ理子」
「わたし知ってるよ! タコはおさかなだもん!!」
人の顔で遊ぶのやめてくれないかな…リコがよろこぶならいいけどさあ。
ただ、遊ばれっぱなしなのはシャクなので首をぐりっと動かして顔を掴むグラナさんの指を噛んだ。
それからまた一か月、世間では年が明けて新たな一年に気持ちを切り替えていた。
結局イルミナを除去できないまま新年を迎えてしまった。
一日に一回電源を入れてメールの確認をしていたけど、カブトから来る他愛のないメール以外のやり取りはない。
まあまだ予定より一か月先だからな…焦ってもしょうがない、それよりも未だに出てこないミロクさんのほうが心配だな。
一応毎日扉の前に食事を置いておくといつのまにか空になっていたりするけど、引きこもりの息子かよと心の中で突っ込みつつ。
他の好き嫌いが多い人たちと違って残さず食べてくれるし、作っている身としては嬉しい限りだ。
食事は作れる人が当番を回して作っている、私は基本的には掃除と洗濯係だが、このローテーション結構タイトなんだよね。
ただ味覚もうまく働いてないのでだいたいはグラナさんに手伝ってもらったりしてる。
似たようなメニューばっかりになってしまうのは逃亡生活であるがゆえです、うそですメニュー考えるのがめんどくさいだけです。
しかしこの日は朝からグラナさんがいなくて、私は仕方なくジュナスさんのそばで充電&睡眠をしていた。
今日はあのヴィーゴさんも大人しくて、安心して眠りこけることができた。
だが、しばらくするとジュナスさんのPSI波動に乱れが生じて目が覚めた、ぐるりとあたりを見るとみんな揃っていて、なにかあったのかと考える。
見れば、机に置かれた食器、誇らしげな顔のグラナさん、またグラナさんが気まぐれに何か作ったのかなとのぞき込んで、少し後悔した。
無警戒に食べ始める人もいれば対抗意識を燃やしてかっ込む人もいる、でもだいたいはスプーンすら手にとらない。
だってそうだろう、おそらく粥なんだろうこの物体は常人には手を出しづらい独特のオーラを放っているんだから。
特に何も考えることなく口に入れたドルキさんが一言、不味いと言い放ってキレた。
……うん、食べられない私が言うのもアレだけど、これは、うん……アカン。
グラナさんのまごころを無碍にすまいとするリコには悪いが、私はすぐさまリコとジュナスさんの前にある粥を鍋に戻した。
その横から、ヴィーゴさんがおかわりを盛っていった。
「おいおい、満月までヒデェじゃねぇか」
「……そういえばグラナさん、米、これでラストじゃなかったですっけ」
「オウ、あとで買出しに行くだろ? シャイナが」
「もちろん行きますよ、ええ行きますとも、僕としてはできるだけ荷物は減らしてほしかったんですがね…米と牛乳は重いんですよ…」
ここは牛乳の消費量が半端ない、まずウラヌスさんがグラナさんより大きくなろうと飲みまくる。
リコの成長のためにも牛乳はいるし、おやつのホットケーキにも欠かせないし、とにかく消費量が多い。
だから重くなるのがわかってる米と牛乳は分けて調達したい、他の人を連れていくとその物々しさで目立つし。
「シャイナさん、こないだポンチョ調達してもらったんで、私も手伝えますから…」
「お願いします。イルミナ以外はどこにでもいそうで普通な見た目のあなたなら目立たずに外を歩けそうですし」
「シャイナよぉ…そういうの一言余計って言うんじゃねえか」
多少なら日光を浴びても平気なのでイルミナを隠すことができれば外で活動することもできる。
でも、うん、普通な見た目っていうのはわかってるけど、いやいいんだよ、ここの人たちの役に立てるなら。
「いや~こりゃ大失敗だな。次からはもうちょい下調べしてからやることにするわ…」
…もしかして余計なお世話だったのかな。
「満月さん? もしかして「余計なお世話だったかなぁ」とか思って落ち込んでないですよね?」
「…ハテ、ナンノコトデス」
「ふぅ…自分で言うのもナンですけど、素直にお礼を言えないだけなんであんまり気にしないでください。いちいち落ち込まれても鬱陶しいですから」
「あ、はい…じゃあ」
「ちなみに僕のことツンデレみたいに見たら容赦なく怒りますから」
「アッハイ」
この人サイコメトリー系の能力あったっけ…?
そうやって、わいわいと賑やかにしていたら、二階の気配が動いた。
気付いたグラナさんが顔を引き締めて、それに連なって全員で二階の様子を見守る。
そして扉が開いた、顔を見るのは何か月振りだろうか、顔色は…もともとあまりよくないけど。
ゆったりとソファに座り、大きく息を吐く、みんな、ミロクさんの言葉を待っていた。
「俺は…俺の考えは変わらない…」
ミロクさんは語る、今までのこと、これからやろうとしていたこと、それらが全部白紙になってからのこと。
自分の理想や夢、それに対する手段、結果、あのミロクさんがそれらが間違っていたと認めて、私たちをぐるりと見渡した。
それからいたずらっぽく笑って、ミロクさんは提案した。
「『異能の力を持つことが、異常ではない世界』…俺はそんな新たな世界をこれから作ろうと思う」
新生W.I.S.E の目標に、全員驚いていた。
今まで世界をぶっ壊してやろうと言ってたミロクさんが、そんな希望に満ちたことを言うなんて、ってとこだろうか。
でも私はミロクさんならそう言うだろうと思ってた、ちょっと好戦的なとこはあるけど基本的には優しい人だから。
その言葉に賛同するように、ヴィーゴさんが拍手を送った。
ミロクさんがお礼を言おうとしたが、礼などいらないと断った、しかし地元民に姿を見られたのは許してほしいと言った。
二ヶ月もあれば全員のおおまかなプロフィールはわかる、その中でも特にやばいのがヴィーゴさんのもので。
ミロクさんやグラナさんも有名は有名だが死んだとされてる、でもヴィーゴさんは指名手配までされてるうえに生死も不明、こんな辺鄙なとことなれば普段見かけない人の情報はすぐに……
「このバカ野郎!!!!!」
全員がひとつになった瞬間だった。
ヴィーゴさんのうかつさを責める者、今までの苦労が無駄になって嘆く者、騒がず周囲の警戒をする者、それぞれが自分にできることをした。
パトカーのサイレンが聞こえる中で私といえば、リコの服や調味料の一切をまとめてすぐに逃げられるように支度をしていた。
残念なことに、逃げるのには慣れてしまった、もうすこし落ち着きたいとは思っているけど。
「南だ…南の島に行こう…」
「悪いやつは南に逃げるって、よく言いますよね」
迷彩加工ができるサイキッカーを探そうとか、おかしが作れる人がほしいとか、そんなことを言いながら荷物をまとめていく。
私はリコの服と調味料をまとめただけなので、他の人の私物にはノータッチだ。
逃げる準備はとっくに済んでるから、リコを抱えて他の人の準備が終わるのを待つだけだった。
戦闘以外はからっきしなみんなの役に立てるように、私は私のできることをやろう。
「ていうか、言ってくれりゃあ目撃した記憶ぐらい消してあげられるのに」
「そう……いえばそう…だったな…………次からは……報告しよう」
「そんなのはあとでいいですから、準備できたんなら出発しますよ!?」
「ほーい」
「はいー」
ようやく見つけることができた私の居場所は、これからも賑やかで楽しくなりそうだ。
完
8/8ページ
