腐っても時渡り W.I.S.E編
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イルミナから力を吸われて、久々に浴びてなかった太陽光に目がくらんだからか、少しだけ気を失ってしまった。
どのくらいの時間かは正確にはわからないが、しかし短い間だ、太陽の位置は大きく変わっていなかった。
むっくり起き上がると、朧さんとタツオの様子を見ていたらしいヒリューがすぐさま体を支えてくれた。
「満月…! お前もう起きて平気なのか…?」
「…うん、平気」
体をあちこち動かしてみて確認してみる、うん、これなら数時間もすれば元通りだ。
幸いイルミナが力を失ったあともPSIは使えるようだし、おかしな反動があるというわけでもなさそう。
「……ヒリュー、今のうちに言っておきたいことがあるんだけど」
「?…なんだよ」
――ああ…太陽だ。
肺にとりこむ空気も栄養を含んでいるような気がする、いや、きっと栄養があるんだ、そうでないと空腹が満たされる理由がわからない。
空腹なんか満たされてないのかもしれないし、PSIの残滓を取り込んでいるのかもしれない、けれど理由がわかるひとなんて誰もいないしどこにもいない。
「桜子さん、……久しぶり」
「…満月…っ!!」
桜子さんがなるべくイルミナに触れないようにしながら控えめに抱きついてくる。
「満月、お前はソレから力を奪われたばかりなんだ、まだ休んでろ」
「大丈夫です、私は埋め込まれてから日が浅いし、これ一個だけですから」
「ダメ、マツリ先生の言うとおりにして、でないと私怒るわよ」
「あはは、じゃあ桜子さんに怒られたいから、このままフルマラソンでもしようかな」
「冗談でも止して……心配したんだからね」
心の奥にギューーンと上がってくるものが抑えきれずに、強く強く桜子さんを抱きしめ返した。
「まったく…見せつけてくれるな…」
「姐さんがしたいっていうなら、俺はいくらでもやりますがね」
「なっ…!!」
あー…空気が甘い、ジュナスさんとリコだとこういう空気にはならなかったからとても新鮮な気持ちだ。
「満月、お前、あれから何があったんだ? これまでにあったこと、全部聞かせてくれ」
「ん、いいよ」
「えぇっ! ちょっ、軽くない!? 俺タチにはあんなに敵意むきだしだったのに!」
「それはほら、コイツでココがこう…ね?」
「言いたいことはわかるけどなんか納得いかねー!!」
本当に申し訳ないことをしたと思うよ、ごめんね。
でもまあわかってることは話すからそれで許して…くれるといいなあ。
そして私は、まず記憶を一部消去したこと、イルミナに記憶を制御されていたこと、リコが洗脳されていたことを話した。
リコがW.I.S.Eに連れ去られたのは今いる時代の前後で、ある日急に外へと飛び出していったリコは、そのまま帰ってこなくなってしまったらしい。
…リコが約束を破ってどこかに行くはずはない、なにか、あったんだろう。
「私たちは、北海道の古都霊山に落ちる「約束の涙」を回収しに向かう。お前が保存してた新聞記事だ、まさかこんなところで役に立つとはな」
「ああ…そんなことをしていたような」
「リコちゃんはおそらくもうW.I.S.Eと一緒にいるはず、私たちが助けに行くから、満月は…」
「待って」
次に発せられる言葉はわかる、けど、聞きたくない。
「私も一緒に行く、連れて行って。ていうか勝手についていきます」
「ダ…!」
「――メ、なのは、わかってる。イルミナが今後どうなるかわからないし、足手まといになるかもしれない、でも…私はそこに行く理由がある」
行きたいところ、やりたいことを見つけた。
きっと私はずっと居場所を探していたんだ、そして見つけた。
「……いいだろう」
そう発したのはマツリ先生だった。
「ただし無茶をしている、もしくはこれ以上の同行ができないと判断した場合、私はお前をその場に気絶させても置いていく。
酷だろうがそのぐらいの覚悟をしておいてくれ、かかってるのはこの時代の運命だからな」
「はい。その場合は容赦なくやってください」
「……」
アゲハが、じっと私を見つめる。
私もそれを見返す、ああ…きっと私と同じ眼だ、少しだけ申し訳なくて、そっと伏せた。
出発の時間、未だ目の覚めない朧さんとタツオを車に乗せてからヒリューは言った。
「…本当にいいんだな、満月」
「うん。でもまあ、ちょくちょく連絡するよ、またねヒリュー」
「オウ…――死ぬなよ」
「いやわからんよ、今度こそ死ぬかも」
「ケッ、冗談でもよせよ」
「ごめん」
そして私たちは出発した、猶予はおそらくもう何日もない、北海道古都霊山を目指す強行軍。
ライズを使ってガンガン飛ばして、しばらくしたら脳を休めて、それからまた飛ばす、正直言うと辛い…けどリコのためだ。
何回目かの休憩のとき、私はとうとう意識を彼方に飛ばした。
「――姐さん、もしかして本当にこいつを置いて行っちまうつもりですか」
「そんなわけないだろう、そのつもりなら最初から置いていった」
「…満月、さっきより顔色が良いみたい」
「これはただの推測だが…おそらく私のPSIエネルギーを吸収しているんだろう、まだかろうじて珠が機能してるのかもしれないな」
「でもそれって…」
「ああ…おそらく、太陽も長く浴びることができないだろう」
「そ、それってヤバいんじゃ…?」
「満月はわかってるのか?」
「どうかな……こうして私や影虎の近くに寄ってるのが意識的でも無意識でも、本人にしかわからないことだ。無理矢理探ってもいいが桜子から聞いた病院での件があるとリスクが大きい」
「命を懸けた覚悟を、無駄にするわけにはいかない」
ぱちり、と目を覚まして、それからあたりを見回す、みんな疲れてるみたいだ。
あともう少しで北海道、そして目的のカムイ山地…そろそろ、私の目的を話せる時が来たかもしれない、ここまで来たら自力でリコのもとまで行ける。
汚いやつだ、でもそれも全部イルミナのせいってことにしておこう。
日が昇る。
「――桜子さん、先に謝っておくね。ごめんなさい」
「え…?」
道中、風切り音しか入りそうにない速度でもライズで底上げされた聴力で声は届いたようだ。
少しだけ安心して、それから続けた。
「これだけは絶対に反対されるだろうからここに来るまで言わなかったんだ、まあヒリューには先にお別れしてたんだけど…」
「……道を決めたのか、満月」
「はい。騙すみたいな真似をしてすみません…でもみんなの邪魔はしないから、コレを」
頭の中から取り出した隕石の落下地点の記憶、それを桜子さんの手のひらの上に落とす。
「あいつらに記憶を読まれても大丈夫なように。もう必要もないだろうから壊しても問題ないよ」
「おい満月、お前まさかッ…!!」
「ごめんアゲハ、でも私はどっちも助けたくなったんだ。なんなら、見張り役とかでもいいから」
流れるように、先頭を切っていたマツリ先生が私の横に並ぶ。
「お前が決めたことなら私は反対しないが、体のことはわかっているのか? その珠はまだ…」
「わかってます、もしかしたら呼吸ができなくなって死んじゃうかもしれませんけど…そこはあんまり心配してないんです、なんせマツリ先生並みの人が何人かいるとこですもん、それにちゃんと治療もしにきますから、だから…」
「いいんだ、わかっているならな。だが我々の敵になるときが来るかもしれないぞ?」
「そこも、あんまり心配してないですよ。じゃあここで一旦お別れ、また」
道ともわからない道を一歩抜けると、みんなの姿はすぐに見えなくなった。
でもそのすぐ後にカブトから着信、電波とか傍受されてたらどうするんだとか思いながら出る。
『俺にだけ挨拶ナシとか酷くない!? 絶対また会えるんだよね!?』
「ごめんごめん大丈夫ダイジョブ、世界はツ・ナ・ガ・ル♪」
『ハ!!?』
半ば無理矢理に通話を終了させる、やべーやべーボケてる場合じゃねえや。
それからまた着信が来ないようにちゃんと電源を切って、人の気配がないことを確認しつつ周囲を注意深く見る。
大丈夫、よっぽど下手に近寄らなければ向こうはこっちを察知できないんだ。
周囲は自衛隊が取り囲んでるし、リコを危険な目にあわせるわけにはいかないだろうからなるべく遠目にアジトをかまえているだろう。
地図で確認した周辺の山々をぐるりと周ってみた、うん、リコがいるのはおそらくあそこで間違いない、でもいつ入るか……
さっさと入り込んでもいいけど、それだとボカンかグサリかピッキーンだよな…ううん。
途中、死んだ隊員の服を拝借して死んだふりで乗り切ってみたりした、おかげで血なまぐさいがそこは我慢しよう。
さて、なんなら隕石が落ちてくるまで待ってもいいが……ああそうだそれがいい、そうしよう。
ならば、と私はまた死んだふりを再開することにした。
轟音が響いて、そこで初めて意識を失っていたと気付く。
やべえ…な…寝てたにしても気絶してたにしても、数時間離れただけでコレか…思ったより深刻だ。
目は開けて、意識は思考に集中させたまま、周囲の気配を探ることも忘れない。
さっきのすごい音はきっと隕石が落ちてきた音だろう、あまり遠くはなさそうだがあれだけ響けば近くも遠くもわかったものではない。
もうW.I.S.Eの面々は全員落下ポイントまで向かっただろうか、どのくらい時間が経ったのかわからない、長くも短くも感じた。
だが、時計を見るまでもなく爆音や炸裂音で自衛隊との交戦がわかったので、安心しきって隠れ家まで向かった。
なにかの観測所の跡だろうか、明かりも消えて暗い室内にそっと語り掛ける。
「リコ」
小さな物音がする、ああ、合ってた、とひとまず胸をなで下ろす。
「リコ、ごめんね。ずっと待ってたんだよね」
「…満月…?」
「うん、ただいま、リコ」
そう言うと小さな影が駆け寄ってくる、それを若干よろめきながら受け止めて、けど支えきれずに転がった。
「満月、満月ぃ…! わたし、待ってたのに、声が聞こえたから…だからっ…ごめんなさぁい…っ!!」
「いいよ。リコにはひどいこと言ってばっかりだったもん、リコは謝らなくていいんだよ、謝らなきゃいけないのは私…ごめんなさい」
「会いたかった…満月…!」
「うん……大丈夫…ずっと一緒だよ……リコ……」
「ひぐっ…満月…? ねー、満月…」
酸素が足りない、呼吸はできているはずなのに、まったく吸収できてないような感覚。
桜子さんたちから離れてからずっと付きまとっていた感覚が、ここにきて一気に襲い掛かる。
ここで死んじゃうのかな、だとしても、リコに会えたからそれでもかまわない気がする、リコの目の前でっていうのは気がかりだけど。
リコを抱きかかえたまま、たゆたう波の中に落ちていく。
