腐っても時渡り W.I.S.E編
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……うるさいな、なにが鳴ってるんだ。
手元を探しても目覚まし時計はない、目を覚ますと、フブキさんのほっとしたような顔が目に入った。
なにがあったんだっけ……それを思いだそうとする前に、音の正体に気がつく。
ピギくんの声だ、つまり、侵入者。
走り出した途端ピギくんの声が止まる、壊された、そう思うと同時にリコの悲しい顔が浮かぶ。
こうなることはわかっていたとは思うが、それでもやっぱりリコは悲しむだろう、リコそんな顔をさせる奴は……
噛みしめた唇から血が出てきた、本当は怒声のひとつでもあげたいところだけど、それでは向こうに気づかれてしまう。
声はピギくん5号のものだ、急ごう。
薄靄の中に人影が浮かぶ、二人…かな。
向こうも私の姿を認識したのか、警戒体勢に入ったのがわかった。
私はかまわず前に進む。
「あッ……!?」
「?」
「……満月さん…!?」
どこかで、見たことがある人だ。
私の名前を知っているということは、どこかで知り合った人なんだろう。
「満月ちゃん! なんでこんなところにいるのさ、あいつらに何されたワケ!?」
「あ…カブト…?」
久しぶりだ、いつ以来だろう、もう何年も会ってないような気さえする。
私の見知ってるカブトより、すこし大人っぽくなったかな…きっと、たくさんいろんなことがあったんだろうな。
「満月さん、その姿は…!」
もう一人は、わかるようでわからない。
でもひとつわかることはある、こいつらは間違いなく侵入者で、おそらく連れてきた人たちを取り返すのが目的だ。
そして、私はそれらの者を排除する義務がある。
「お前たちは害敵だ」
「――はぁ…!? ヤバ、避けろ!!」
ドッ――!
……そうか、脅威…だっけ、そんな能力だったな、じゃあ、物理攻撃は無意味か。
いや、攻撃だけじゃない…あらゆる行動が無意味だな。
「ちょ、ちょっと待てよ子猫ちゃん…どうして…オレたちのことわかんないの…?」
「わかるよ」
「だったら…!」
「お前たちを通す、人質が奪われる、私が怒られる、リコが庇う、リコが怒られる、リコが悲しむ――リコが悲しむ原因は排除する」
ピギくんを壊したことは、まあ知り合いということで大目に見よう、だが、それでもリコが悲しむことに変わりはない。
カブトに糸繰り人形の針を刺そうと投げてみるが、見事に逸らされた。
チッ…厄介だな、こいつ……
ベオルでもドール・ドールでもいい、なんとか食らわせる手はないか。
――!
二人から大股二歩ほど退く、なにか、攻撃の気配がしたが……もう一人か?
「…カブトさん、おそらく何を言っても無駄です。見てください、胸のところ…」
「あの珠…!! まさか、子猫ちゃんまでタツオみたいにされちゃったっていうのかよ!?」
ベオルで糸を隠しつつ投げてみるが、すべてかわされる。
…ふむ。
「なあ…考え直してくれよ…オレ、女の子傷つけるなんてヤダよ…」
ならば、狙うべきはカブトじゃない。
「すみません、満月さん」
速いッ…!
慌てて触手を束ねてガードする、当たった部分は千切れてバラバラになってしまった。
アンチ・サイキック……
記憶のどこかからその単語が引き出される、その記憶が確かならば、こいつらと私はとことん相性が悪い。
「……くそが」
気が付けば世界はとてもうるさくて、外では戦闘が始まっていたんだと今更知った。
なんでいままで聞こえていなかったんだろう、リコが心配だな。
「な、なあ、みんな一緒に帰ろうぜ? 雨宮ちゃんだって心配してたし…アゲハたちにも元気な姿見せてくれよ…な?」
「……桜子さん……? 桜子さん、元気だった? 泣いてない? ちゃんと眠ってる? ご飯食べてる?」
「う、うん…」
「桜子さん、会いたいな、アゲハにも……でも会えないね、こんななっちゃって、リコも助けられないし…ねえ、帰って伝えて? 私はこんなだけど生きてるよって、リコは真っ当な体で元気にしてるよって、だから心配しないでって、ねえ、帰って、帰って、帰って?」
こんなもので納得するとは思ってないが、しないよりマシだろう。
「……何が、心配しないでだよ…! そんなの、自分で言えよ!! そんで、ゴメンって一言あやまれば済むことじゃん…! その珠だって、こっちに来れば治す方法がきっとあるし、リコちゃんも一緒に……だから…満月ちゃん……帰ろうよ、現代に…ッ!」
「うるさい」
「……!」
さっきからうるさい、私にとって何よりも大事なものはリコだ。
そのリコがどんな状況なのかも知らずに、ぐだぐだと同じ言葉を並べやがって、煩い蝿どもめ。
「私はリコといる、リコはジュナスと一緒にいたいって言ってるんだ、それを邪魔するな! 出て行け!! 出て行けええええええ!!!!」
道を触手で埋め尽くす、床と、天井、数メートルをたっぷりの触手で塞ぐと、私はその場に座り込んだ。
あの二人を目の前にしてると、胸の奥からなにかがじわじわと侵食してくる。
私は間違ってない、けど、カブトが間違ってるとも思えない、いや、そもそも私は間違ってないのか?
そうじゃない、間違ってるとか間違ってないとかそういうものじゃない、そういう次元の話じゃない。
私は人質を渡さないためにここにいる、向こうは人質を奪うためにここにいる。
カブトたちを殺したいという思いと、殺したくないという思いがない交ぜになって、自分でもわからないくらいほど声が大きくなっていた。
触手は密度がないから、私の咆哮も向こうには筒抜けだっただろう、それでも声の出るのを止めることはできなかった。
どうして叫んでいるのかわからなくなるまで叫んだあと、静まり返った空間で私は一つの記憶を拾った。
これは比喩ではなく、足下に記憶のかけらがなんの前触れもなく落ちているのを見つけて、それを自然な流れで頭の中に入れた。
「――ッ、リコ」
見たのはこの少し先の未来だった、おそらく無意識のうちにかけらとして出していたのだろうと思う。
ちょっと前に、全部出したと思っていたけど……今の私にはどうでもいい。
来た道を引き返して外へ出るための階段へ向かう、無駄に広いから迷わないように必死だった。
遠くのほうでピギくんが鳴いたり鳴き止んだりしていたが、もうそれも関係ない。
リコのついた配置に一番近い出口はどこだ、早く、早く。
「何をしている」
「!!……ミロク、さん」
なんで、この人、いや、私は知っている、この人がしようとしてること、これから起こること、本当の敵も。
ああ、そうだ、この人がまだここにいるならまだ時間はある、短いけど落ち着くだけの時間はある。
「どこへ行くつもりだ」
「あなたの邪魔はしないですよ。リコのところに行くんです、状況が変わりました…リコがついてるはずの配置ってこっちで合ってます?」
「……いや、もう500mほど向こうだ」
「わかりました。ありがとうございます」
「ミツキ」
頭を下げながら踵を返そうとすると、ミロクさんに再び呼び止められた。
「カプリコとお前は家族でも、ましてや恋人でもない、何がそこまでお前を突き動かす?」
ここにきて、なんでそんな質問をされるのかよくわからない、大きな事を前にして感傷にでも浸っているんだろうか。
でも、何故を問われると、なんでだったかな。
「…約束と、あと……自分への誓い…だったような気がします……大事な友達ですから」
約束、そう、約束だ、まだ果たしてない約束がある。
「友か…おれには縁のない言葉だ」
「? グラナさんがいるじゃないですか」
「グラナが?」
ミロクさんは、そんなこと今まで考えたこともなかったという顔をしている。
少なくとも私には対等の関係に見えていたけど、自覚のあるなしの問題か。
「私と違って記憶をもってるのに忘れちゃだめじゃないですか、同じ境遇の仲間は、家族にも友達にも恋人にもなれるのに。グラナさんはきっと、一日だって忘れてなかったと思いますよ」
「…そうだな、この世界を作り替えたら、それを考えるのも悪くない」
「まあ、なんにせよ私はここでお別れです。グラナさんと末永くお幸せに」
「それはどういう……おい待て、どういう意味だ、どっちもどういう意味だ、おい、答えてから……!」
長居しすぎた、それに、お別れと口にしたら、その実感が急に湧いて出て、せっかく落ち着いたのに、また焦りが出てきた。
薄明るい出口に飛び出て、ぐるりと視線を巡らせる。
リコ、リコはどこだ、リコのところへ行かなくちゃ。
外は、とても綺麗に見えた、あれはなんだろう、PSIの波動かなにかだろうか。
綺麗なのに、なぜか顔は苦悩に歪んだ、心臓も跳ね上がって焦りが増す。
歯を食いしばっていても喉からうめき声が漏れる、息苦しく感じて、呼吸が荒くなる。
遠くに三つの人影が見えた、その一人はリコだ、そう確信してそこに急ぐ。
「…リコッ!」
「ミツキ!? なんでここにいるの! 来たらあぶないよ!!」
「…ミツキ…?」
「人質はどうした…仕事を放棄してきたのか」
ジュナスさんの言葉にも言い返さず、ただひたすらリコの体を抱きしめる。
リコも私の背中に手を回してくる、たぶん、私の精神状態があまりよくないことをわかっているんだろう。
私がここからいなくなる未来を知った、もともとそういう話だったんだろう、だけど。
お願いだから、私だけここに残してくれないか、できないのか、できるだろう、お願いだ。
…お願いだから。
わかってる、無理だ、決定事項が私に変えられるわけがない。
ここに来ていろいろな人たちと話した、自分がなにをしたいのか、どこに行きたいのか、今はわかる。
「リコ、リコにはジュナスさんがいるよ。大丈夫」
「どうしたの…ミツキ…」
「ジュナスさん、リコのこと泣かせたら殴りますよ、五万回殴ります」
「…できるもんならな」
「ねえミツキ、どうしたの? どこかに行っちゃうの…?」
「……どこにも行かない、でも、リコのところに戻らなくちゃ」
約束を果たしに行かなくちゃ、行きたいんだ、向こうのリコとの約束をすっぽかしたら、こっちのリコはきっと怒るから。
「星崎…お前まさか、こいつらに…?」
「? 見たことあるひと」
そういえば、影は三人、もう一人いたっけか。
「ジュナスをいじめる人だよ!」
「そっか」
「さっさと退け…こいつは俺が相手してやってるんだ」
「…もうひとつ目的ができた、さっさと決着つけようぜ」
衝撃波、刃と拳がぶつかって、二人がどんどん離れていく。
イルミナを得てずいぶん強くなった気がしたが、改めてこういう光景を見ると、自分の身すら守れないのだなと実感した。
「ミツキ…私ジュナスのこと守るって言ったのに…」
「……」
「でもあの人、すごく強くて…私の創ったコもすぐ壊されて…」
「リコは悪くないよ」
リコを悲しませやがって。
二人の距離が離れた隙をついて触手を絡めにいく、太いものから細いものまでがんじがらめに絡めて締め付ける。
私のちっぽけなバーストじゃすぐ解かれるだろうがそれでいい、二人の勝負を邪魔する者がいるとわかるだけで十分だ。
「邪魔をするなミツキ!!」
「くっ…なンだこりゃァ…!」
解かれたところを補修するように倍の触手を動員する、これではまるでただの肉の塊だ、だがゆるさん。
ゆるさん…のだが、なんだこの気持ちは、胸の奥が締め付けられるようだ、苦しくはない、言葉に表すならきゅん、だろうか。
「何笑ってる! クソ…殺すッ…!!」
「そうは言っても体は正直みたいだぞ。……ううん、わからん、どこから出てきたんだ」
「悪い本の読みすぎじゃねぇか」
「悪い本…本か……よくわからないけど、ワクワクしてきました」
触手を体のあちこちに這わせるのも楽しくなってきた、いやしかしこんな光景リコに見せるわけには、いやでも……
悩んでいる間に触手の拘束が解かれたようで、こっちに向かってくるジュナスさんが見えた。
「メー!! ジュナス、ミツキいじめたらダメだよ!!」
「カプリコ、邪魔者はどうするか知っているだろう?」
「邪魔でもミツキはダメなの!」
「オイオイ 無視は寂しいぜ」
実はもう一人のほうが一瞬早く拘束から逃れたのだが、ジュナスさんが私に向かったので行動が遅れたようだ。
「いやだめですってば」
二人を再び触手まみれにする、同じ手にひっかかるなんて、私の行動もわりと不意を突けているらしい。
…興奮してきた。
ゴ ――――
アストラル・ナーヴァの中心から光の柱が現れる、凄まじい力で、私たちは戦闘を解除してソレを見た。
しばらくすると辺りから大きな胎児のような塊が生まれてきて、宙に留まった。
「ジュナス…ミツキ…」
「大丈夫だカプリコ」
「……」
「何だありゃ…」
今この現状もこの先もおぼろげな記憶しかないけど、そんなものなくてもかまわない、私はリコのところに戻るだけ。
「あれは…」
空から、雲を貫くように不定色のツノのような何かが顔を出す。
ミロクさんの生命の光とは明らかに違う昏い輝きをもったそれは、新たに生み出された生命を吸い込み消滅させた。
「ミスラか! こんなもの計画になかったぞ!」
「何…?」
「みんなあのトゲトゲに食べられちゃった…ひどい……!」
私は静かにその光景を見ていた、ツノの先端から何かが弾けて、そして光ったかと思うと、体から力が抜けていった。
ジュナスさんも膝をついて、体から抜け出た光の先に向かって叫んだ。
「裏切ったな……!! ミスラ…!」
「ジュナス!!」
全身に傷のある男の人がジュナスさんに近寄るのを見てリコが駆ける。
ジュナスさんをかばうように抱きかかえると、リコは男の人を睨みつけた。
もしもリコを傷つけるつもりなら私は返り討ちを覚悟して突っ込んでいくつもりだったが、その人は動かない。
「何故その男をかばう」
リコは、ジュナスさんを見て、そして私を見てから、力強く言った。
「この人を愛してるから」
「……そうか」
……うっ、リコ…!! リコ! 私はうれしいやら悲しいやら、うう…!!
でもこれでいいんだ、ジュナスさんがいれば、ここに私がいなくても大丈夫だ。
「じゃあ一生その男の傍を離れるなよ」
「待て! 決着はまだついてない!!」
「…ついたさ」
「俺にも守らなきゃいけねぇ人がいる」
その人はリコたちのそばを通り過ぎて、私のほうへ歩いてくる。
……いいや、もう思い出せる、イルミナは完全に力を失って、私の頭も心もすべて私の自由になる。
取り出して消してしまった記憶は思い出すことはできないけど、目の前のこの人の名前もこの人の守るべき人の名前もわかる。
「星崎、立って歩けるか? 俺は姐さんの所へ行く。ここもアブねぇ…あいつらと一緒にここよりも遠くへ逃げろ。…いいな?」
「大丈夫ですよ影虎さん。私のことはいいので、早くマツリ先生のところへ」
「!…ああ」
影虎さんはあっというまにその影を小さくしていって見えなくなった。
私はふらふら立ち上がると、ジュナスさんの近くまで歩いてジュナスさんの尻を蹴る。
「貴様ッ」
「いつまで座ってんですか、リコのこと守らないんだったらあなたが弱ってるうちにリコはもらっていきますから」
「大丈夫だよミツキ! ジュナスは私が守るんだから!」
「うん、リコならできるよ。じゃあ行こうか」
「…貴様はあとで殺す」
「できるもんならなー、ってね」
弱ってても十分早いパンチをぎりぎりでよけながら、崩壊する地上を逃げる。
そうしてる間に、空間に亀裂が走った、私の前にテレホンカードが現れて留まる。
「ミツキ!?」
「大丈夫だよ。てなわけであっちのリコも私のことずっと待ってるから、私そっちに行くね、逢えてうれしかった、ありがとう」
「ミツキ! どこに行くの!? 待って!!」
離れがたいけど、でも行かなきゃ、きちんとリコを守ってあげられる場所へ。
リコと、ジュナスさんを見守れる時代へ。
ネメシスQを中心に漂流者たちが集められる、せめてもう一言、リコを悲しい気持ちにさせない言葉を。
「リコー!! どこに居てもリコのこと大好きだから! だからまた会おうねー!!」
「ミツキーッ!!!」
体が歪む、景色が変わっていく。
目の前が真っ白になっていく――――。
