腐っても時渡り W.I.S.E編
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「よお」
寝転がったまま振り向くと、向こう側からグラナさんが歩いてきていた。
なんの用だろうか、こんな時にここにいていいのか?
「ん? ソレどうした? 血が出てるぞ」
「……ちょっとぶつけただけです。グラナさんこそ、何のご用ですか?」
「ミロクのとこに行くついでにな、ちょっとこっちこいや」
手招きをされておとなしく従う、フブキさんたちからすこし離れた位置で、グラナさんが座った。
「この間の話の続きをしようじゃねぇか」
「この間……? ああ、外で会ったときの?」
「オウ、あれから考えてみてもさっぱりわかんねぇんだが…やっぱり、装っても中身が無いのは変わらないんじゃねぇのか?」
「あぁ……そうですね、あの話、まだ途中ですもんね」
「途中?」
人間らしく振る舞うだけでは、疲れてしまう。
「人間のように扱ってくれる人と、本質を理解してくれている人がいれば、人間に近いものはできるってことですよ」
仮面もいつか皮膚になる。
装い続ければ、どれが本物かわからなくなる。
そんな生活を続けて、ふと疲れたときに中身を知っている人がいれば、楽になる。
「さて、それは人間とどう違いますか?……という、お話です」
中二臭いってことはひとまずおいといて。
「…お前とは根本から話が噛み合わねぇ気がする」
「こんなにしたのは誰でしたかね」
「さてなぁ」
噛み合わないとは言いつつ、まだまだ話す気まんまんなのはどういった心境か。
「グラナさん、もしかして私と話すの楽しいんですか?」
「楽しい…? のかもな、よくわかんねぇけど、まあ暇なのよりマシだろ」
「ふーん…?」
でも今ってそこまで暇じゃなかったよな……?
「お前、カプリコのこと好きか」
「え…まあ…友人として」
「……友人ねえ」
グラナさんは思案顔をしているが、なにか問題があっただろうか。
でも私は友人だと思ってる、保護者でもあるが、今は保護される立場だし(不本意だけど)、間違っちゃいない。
つか、何? この久々に話す父親と息子みたいな会話。
「グラナさんは、ここにいる人たちのことは好きですか?」
「好き…か、どうかはわかんねぇが……」
「失いたくはない?」
「……そうだな」
肯定するグラナさんの顔は、心なしかうれしそうだった。
「話は戻りますけど…あなたの言う、“人間”を構成している物質は、あなたとさして変わらないんですよ」
私は触手を使って人の形を作る、これにだって命を吹き込めば人間だ。
でも、それをバラバラに分解する、人の形をしているが、人ではない、それがこの人の言っていることだ、ここまでが。
「心は、壊されても、作られなくても、再構築できる。あなたたちなら容易でしょう」
そこからハートの形を作っていく、私も、この人と話をするのが好きなのかもしれない。
「…できればいいけどな」
「グラナさんにしては珍しく弱気ですね」
たしかに、この世界で「人間」でいる必要なんかないだろう、だが、どこまでも人間なのだ、私たちは。
「私が思うに、心が痛まないことに胸が痛むんなら、もう立派な人間だと思うんですがねえ」
触手を消しながら、グラナさんに微笑んだ。
実際に痛むかどうかはさておいて、「そう」じゃないことに傷つくならその人は既に「そう」なんだ。
「だって、あなたたちは事実……」
「…事実?」
「……? あれ?」
今のはどこから出てきた言葉だ? と頭を叩いてみるが、やっぱりわからない。
はあ、どうしてこんな面倒な頭になっちゃったんだろうねえ。
「あはは、どうにも記憶が混濁しているようでぇ」
「記憶がねェ…」
グラナさんはぽつりと呟くと、ため息をついてから頭をかいた。
「ダメだ。俺もお前のこと少しは気に入ってるらしい」
「?」
「実を言うとな、お前からいくらか情報を引き出そうってハラだったんだ」
「…ああ、そうでしたか」
「お前の頭の状態はジュナスからの報告で知ってたから、うっかり覚えてることを話すんじゃないかと思ったんだが……なんか騙してるみたいで気がひけてなァ、どうやら情が移っちまったらしい…まあ、情なんてあるかすらわからねぇが」
なんだ、この人が急にかわいく見えてきたぞ…ツンデレか? ツンデレマジックか?
「そんなモンよりもっとおもしろ…重要……おもしろい話が聞けそうだ」
「どうせなら言い直してくれませんかね」
「まあそう言うなよ」
ハハハッじゃないですけど。
「おっと、無駄話してる場合じゃなかったか。俺もミロクの様子を見てこねぇと…また話そうぜ、ヤツらを追い払ったあとにでも」
追い払う、で済まないくせによく言う。
「――お互い、理想の世界のためにがんばりましょうね」
「…、……オウ」
グラナさんは寂しそうな笑顔をみせて、去っていった。
あの顔は無意識で作ってるのか、それなら、心配しなくたって心はできているんじゃないか。
「がんばりましょう、か」
この言葉はあまり好きじゃない。
でもどうして好きじゃなかったのか、覚えていない。
しかしここは広いな……これだけ広いと、侵入者が一人くらい居ても気づかなかったかもしれない。
やっぱり、リコに新しい禁人種を創らせておいて正解だった。
さて、その子たちは設定した通りに動いているかな…?
ふらっと離れすぎない程度に見回ってみると、心配する必要もないほどよく働いていた。
きちんと躾しているので私には反応しないが。
リコの命名したピギくんは同じようなのが数体いるが、顔の判別はかろうじてできるようになった。
いま私が見ているのは3号だ……たぶん。
にもかかわらず、人影が見えるということは、あの人は仲間…ということだろう。
「だれ」
「…………」
顔がない。
ない…わけじゃない、仮面をつけているからわからないだけか。
このひと、オドさん、だったっけ、ジュナスさんに紹介された気がする。
とても静かな人だ、もともと無口なのか、しゃべることができないのかはわからないが。
けれど、ジュナスさんに紹介される前からこの人のことを知っていた気がする。
「久しぶり…と、言うべきかな」
しゃべった。
「君も相変わらず無茶なことをするね、その様子だと、また一人で抱え込んで苦しんでるのかな」
オドさんは私の頭に手をおく、その手のひらからあたたかな熱を感じて、気分が落ち着いた。
しばらくしてオドさんの手が離れると、さっきまで血が出ていた額から痛みが消えていた。
なぜだかその手が遠くなるのがいやで、思わずつかんだ。
「……ごめんなさい」
「なぜ君が謝るんだい?」
「わかりません。でも、私はあなたに謝らなくてはいけない気がしました」
「なるほど、理屈で言い表せないものに身をまかせるのはいいことだ、僕も常にそうして世界を歩いている」
「…?」
「つまり、君が謝るべきことなんて何もないということだよ。僕の歩いている道は僕の選んだ道だ、けれど君がどうしても償いたいというのなら、この世界を少しでもおもしろく変えてくれればいい、道には常に変化がなければつまらない」
……よく、わからないが、私ができることをやればいいということだろうか。
「そろそろ行かないと怪しまれるね…君の無事を祈っているよ、また会おう」
「はい…」
なんか、思ったよりおしゃべりな人なんだなあ…でも、私がわかってないだけであの人は私の知り合いなんだろう。
顔を見れば思い出したかもしれないが、それはきっとできないんだろうな。
「……ピギくん3号は知ってる?……知らないか」
独り言はむなしいよね。
…戻ろう。
「あなたは、悪い人じゃなさそうね」
「おいフブキ」
…私を説得して出してもらおうっていう算段か? それなら無理だ、私はこのPSI障壁の解除の仕方を知らない。
それに、もし出られたとしてもこの迷路のように入り組んでいるアストラル・ナーヴァから生きて帰れるかどうか…ってところだ。
「ねえ、あなたはどうしてここにいるの? あなたもここの人に無理矢理連れてこられたの?」
「……どうだったかな…忘れちゃった……いや覚えてますよ…どうだったかな…」
「名前は…? 名前はあるんでしょう? 教えて…?」
「…カプリコ第六星将教育係の、ミツキ」
「ミツキ…いい名前ね、私はフブキ、この子はマルコよ、この人はイアン。……ミツキの家族は? 無事?」
「家族……私……」
「あ…いいのよ、話したくないことだったら」
いやだ、話しかけるな、一人で考えたいことがあるんだ、きっと大事なことなんだ。
「どちらかとは離れなくちゃならない……あるいは、どちらとも…あなたは決断を迫られる、どちらを選ぶのか、どちらも選ばないのか……」
私じゃない、しゃべっているのは。
私だけど、私じゃない、記憶のほころびからでてきた、さらに別の。
「…何を…?」
「…でも私、どっちかなんて選べない…」
頭の中にもう一人私がいる、私の知らない私を知っている私。
いったいなにを知っているんだ、聞いたって答えてくれはしない、だってあの人はいつだって一方的に語るだけで。
また頭の回線がぐるぐると混線していく、だめだ、これ以上は。
ぶっつりと、なにかが切れる音がした。
