腐っても時渡り
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たしっ、たしっ、たしっ。
ただいま絶賛一人バドミントン中、どうも私です。
一人で遊んでたっておかしいことはなにもない、うん、ないんだ。
ここは街からすこし離れた公園なので、他に人はいないし一人で来るには絶好の場所。
携帯が普及してる今でも公衆電話があるくらい、さびれた公園なのだけれど。
外灯が一本しかないのですこし暗くなるとほとんど見えなくなってしまう。
たった一本の外灯は公衆電話近くにある、というわけで私はこの公衆電話のそばで立っていた。
なんだかんだ考察をしてるうちに外灯が点くほど暗くなってしまったので帰ろうかどうしようか迷っていた。
家に帰ったってだぁれもいないし、帰ったって仕方が無いが、このままここに居たって仕方がない。
風が吹いてさわさわと葉っぱが音をたてた。
どこか別の世界があるとしたら、こんなに静かなんだろうか。
ぼーっとしすぎると突然思考がどっか別のところにいく、暇すぎるんだろう。
そんな静寂をひとつの音が崩した。
ジリリリリリン ジリリリリリン
びくっ、と身体が跳ね上がる、どうやら後ろの公衆電話が鳴っているようだ。
公衆電話、別の世界、薄暗い公園、心臓がドクドクと脈打っている。
も、も、も、もしかして、PSYREN世界からのお迎えですか!?
現実逃避が飛躍しすぎる気がするが、とにかく電話が鳴ってるのは事実だ。
ここはアゲハっぽく受け答えるしかないだろう。
いまだジリジリ鳴る電話の受話器を持ち上げた。
「もっしもーし、どちらサマですかー?」
と、言ったところでふと思い出した。
たしかどっかの都市伝説で取ると死ぬなんていう電話があったような…
思い出したとたん、背筋が凍る、ああなんてバカなことをしてしまったんだ…アディオス私。
『もっしもーし、どちらサマですかー?』
受話器から聞こえた自分の声に、ホっとするやらまた背筋が凍るやら。
「…いやいや、ただのイタズラだって、だってそんなことあるはず…」
そう呟くと、また受話器からボソボソと声が聞こえてくる。
ピッ、ガガ…音が耳に届く。
時間がゆっくりに感じる、振り向くともふもふファーの…
「ネメシ…」
ス、Qの言葉を紡ぐ前にそれは消え、代わりにテレホンカードの出る音が響く。
赤い、テレホンカード、書いてある文字は。
「PSY…REN…」
まさしく、PSYRENのカードだった。
…いや、いやいや、イタズラだって、誰かがQのコスプレして脅かしただけなんだよ。
テレホンカードだって、私がぼーっとしてる間にこそっと入れたんだよ、きっとそうに違いない。
そう自分を説得しないとこの動悸が収まらないんだよ。
どうする? 入れる? かけてみる?
ただのイタズラだし どうせなら全力でかかってやろうじゃないか
家に帰ったって仕方がないもの。
私は即、テレホンカードを公衆電話に差し込んだ。
…………。
『第78問』
「…あの、どうせ関係ないんでしょう? この質問」
『ふーん、なんでそう思うの?』
あ、返答が、ちょっとこわい。
「電話を…かけた時点で決まってるんじゃ…」
『じゃあ、第79問――さいれんに行きタイ? YorN 』
「……、」
2、2、2、だって、こわいし、いまだって。
「体、震えてるし、学校も行かなきゃ、断れるなら…これで」
カチャ、とそっと受話器を戻す、カードが音をたてて戻ってくる、これで終わるといいけど。
怖い、怖い、でももっと怖いのは。
私が、あの世界に興味をもったってこと。
もちろん漫画は好きだ、読むだけでよかった、でも行きたいと思ってしまった。
心の底に小さな願望が出来上がってしまった。
“さいれんに行きタイ?”
耳の中をぐるぐるとその言葉が駆け巡る、怖い。
行きたいよ、行けるならね、でも無理だって、ありえないもの。
二次元と三次元じゃ、距離が遠すぎるって。
たまたま近くの公衆電話が鳴っただけでこんな都合のいいこと、有り得ない。
放心状態の頭を、遠くの川の放水サイレンが覚ました。
そうだ、帰らないと。
公衆電話の扉を開ける―――
「!?」
あ、れ…?
ここどこ? 人がいる、外? いや外は当たり前だ、ここは?
周りを見渡す、私を気にする人など誰一人いない、隣にももうひとつ公衆電話、ざわざわとしてる人ごみ。
駅らしきものがある、どうやらここは駅前らしい。
見たことの無い景色に、どうしようもなく混乱する、やべ、泣きそう。
ここはどこ? いきなりなんなんだ? 私はどうすればいいの?
疑問符があふれる脳内に届く呼び鈴。
リン…リリリン…ジリリリリン
携帯…、私も一応携帯は持っている、鳴る事はほとんどないが。
だれからの着信かは表示されない、もしや……
理解すると、途端に全ての血が下に落ちてしまったかのような感覚に陥った。
電話に出るしかない。
通話ボタンを押す。
景色が先ほどと一変する。
ああ、これが漫画で見てた未来の……
どこか客観的に見ている自分がいる、現実を受け入れたくない。
このままぼーっと立っているのもいいかもしれない、この砂だらけの幻想的にも見える世界でただ静かに……
別の世界はこんなに静かだ、耳を澄ませる。
カサリと後ろの草が鳴った、驚いてすぐさま振り返る、まさか禁人種?
……なにもない、よかった気のせいか…
安心した瞬間に全ての感情がこの身に返ってきた、私は生きたい、死にたくない、でも力は無い。
「なんっ…い、きなり、こんな…っ」
あんなのただの現実逃避だったのに、その逃避が現実になるなんて、心の準備も無くだ。
嗚咽と一緒に涙が溢れてくる、ただとにかく気持ちを落ち着かせたい一心で泣き続けた。
泣いているせいで背後の気配にも気づかないまま。
「ねぇ、あなた…大丈夫?」
大丈夫かって、そんな聞き方したら…
「は、い…大丈夫、です」
って、答えるしかないじゃないか。
だって日本人だもの、大丈夫じゃなくても大丈夫って言ってしまうもの。
「そう、よかった。話は後、いまは公衆電話を探しましょう、いっしょに」
「えっ? あ…は、はい、わか、かりまっ、した」
もうまともに言葉もしゃべれないほど、私は動揺していた、なぜなら……
「クスクス、私は雨宮桜子、あなたは?」
「あ、と、私は星崎…満月…です」
あ、雨宮サンが目の前で私と会話をしているからですよ!
そして改めて実感する、私はいま「PSYREN」の世界にいるのだと。
漫画で見たのと寸分狂いもない、雨宮さんがそこにいる。
「ここからじゃ少し遠いかもしれないけど…歩ける?」
「あ、はい、平気、です」
「それじゃ、私のそばから離れないでね」
私は黙ってこくこくと頷く、ここで雨宮さんに逆らってもいい事はない。
眼鏡の奥に見える瞳には、強い意志を感じさせるなにかがあった。
こうして私たちはこの淋しい荒野をトボトボと歩くことになったのだが…どうも、雨宮さんの、様子が。
…右にふらり、左にふらり、どうも調子が悪そうだ。
この状態の雨宮さんは原作で言えばどのあたりになるのだろうか。
「…あの、大丈夫ですか? 体調が悪いんじゃ…」
「いい、大丈夫よ。すこし力を使いすぎて…」
遠くで悲鳴が聞こえた、いや、断末魔と言い換えても不思議じゃない声だ。
それを聞いて雨宮さんが突然走り出す。
声がした方向だ、わ、私も行ったほうがいいのかな? 行ったほうがいいよね?
てか、はっやい! ライズ使ってるわあれ!
私も一生懸命走るけど、だんだん差が開かれていっている。
「あ、雨宮、さん…!」
「あなたはしばらくどこかの物陰に隠れてて! すぐ戻るわ!」
「う…わ、わかった!」
もうすこしだけ雨宮さんを追いかけて、安全そうな岩場を探す。
…あ、声が消えた。
どうしよう、雨宮さん具合悪そうだった、このあともライズを使い続けるだろうからきっと倒れてしまうだろう。
何を言っているのかわからないが、叫んでいるのが聞こえる、すこし高い声だ。
どうしよう、隠れてろって言われたし…禁人種もいるかもしれないし、なにより一人じゃ怖い。
じゃあ、もし雨宮さんが倒れたとして、誰が無防備な雨宮さんを運ぶんだ?
「わかった、とは言ったけど…」
行かなきゃ、ちょっと怖いけど、震えてる暇はない。
なにより原作でどの位置にいるのか私は理解しなきゃいけない。
やっと雨宮さんが消えた位置まで追いついた、そこから切り立った崖の下、二人の影。
「あ…ま、みや…さん!」
「!!」
あ、こっちに気づいた。
ってあれ、見たことある…どの場面だ、見たことある。
「な、なぁあんた! 雨宮とどういう関係だ!? ここについてなにか知ってるのか!?」
「なにかって…ちょ、ちょっとまへ、待っててください! いまそっち行きますから!」
崖といえど取っ掛かりはある、そこから慎重に手を滑らせないようゆっくり降りていく。
きのう爪切っといてよかった…じゃなかったら爪折って落ちてたかも。
地面まであと数メートルのところで、取っ掛かりの石が崩れる、ヤバイ、ここでしりもちは絶対痛い。
重心…!!
「ッ!! ぐっ…!…うぅ」
「危ねっ…! あんた、大丈夫か!?」
「んな、なんとか…いっつぁー…!!」
間一髪のところで足での着地に成功したはいいが、当然あの独特のビリビリが体全体を覆う。
あぁ、足の裏の感覚が…
「歩けそうか?」
「うん…大丈夫、です」
「なぁ、あんた雨宮の友達か?」
「い、いえ、ついさっき知り合ったばっかりで…雨宮さん、大丈夫ですか?」
「いや…早く医者に見せないとヤバそうだ、雨宮がさっき公衆電話を探せって言ってたから、とにかくそこを探そう…!」
おぉ…なんというか、うん、すごいな。
目の前に夜科アゲハがいて、雨宮さんがいて、私は間違いなくPSYRENの世界で痛覚を持って存在している。
まるで現実じゃないような…いや、現実なんだろうけど、まだ夢心地だ。
「オーイ 君達ーッ!」
あっ、あれ、私たちのことかな? て待てよ、てことはだ。
「あっちに人がいる、行こうぜ」
「は、はい!」
ここ、記念すべき第一話か!?
