腐っても時渡り W.I.S.E編
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報せを聞いた私たちはジュナスさんのもとへ走っていった。
リコは彼を心配して、私は情報を知るために。
「聞いてませんよ、こんなことするなんて」
「俺がお前に言うわけないだろう。……まあ、カプリコからも聞いてないなら、お前は信用されてないんだろうな」
「…大丈夫だよリコ、わかってるからね」
私がここから離れて行ってしまうかもと考えたのだろうと、ただのうぬぼれかもしれないけど。
リコを置いて行く事は決して無いけれどでも、太陽の光を見てみたかった。
ん…? 太陽……? まだぐるぐるとした感覚が体の中に残っている。
私はあそこに居なくちゃいけなかったような、妙な感覚がずっと続いていていい加減気持ち悪くなってきた……うーん、ああもう!
「……ええい! その手を退けろォ!! リコを嫁にくれてやる気はないからな!」
「頭がおかしくなったか? 妄想の飛躍もほどほどにしておけ」
「いいや違うね! 私わかってる、壮大な光源氏計画って私わかってる!」
「ヒカルゲンジ?」
「聞かなくていいぞ、バカがうつる」
酷いことを言いますね……いつものことだけど。
コイツは私のことが嫌いだ、だから私の前でやたらとリコにぺたぺた触りまくる。
私は知っている、この人も少なからずリコに依存していることを。
「レジスタンスに敗けたんですって? アンタの時代も終わりだな、ジュナス第二星将」
言いながらやってきたのはウラヌスさんだ。
なぜかこの人はぼやぼやとしたイメージしか湧かない、最初からいたはずなのに突然現れたようなおぼろげなイメージしか。
そういえばすごく強かったなあ、なんて、ここにいる人たちの詳細な実力を私は知らないけれど。
どんな力で戦うんだろう、どういうタイプのPSIなんだろう、でも、星将だったらほとんど力で押し切れるよね。
どうしてそんなこと気になったんだろう、意味の無いことなのに。
「お前にどうこう言われる筋合いはねェんだよ…グリゴリ03号」
「『ウラヌス第三星将』、ちゃんと呼んで下さいよ」
…ジュナスさんも、一応リコが大事にしてる人なんだけどなぁ。
「ウラヌス第三星将ちゃん、こんなとこで油売ってていいんですか」
「そうだよウラヌス第三星将ちゃん!」
「カプリコ第六星将はともかく、教育係のアンタまでそんなフザけた呼び方しないでくれないか」
「そうだジュナスさん、あなたも報告行かなくていいんですか」
「言われなくてもそうするつもりだ」
ビシッ!
痛つめたッ! なんぞ!?
雪玉…?
「今後一切ちゃん付けで呼ぶんじゃない、もし呼んだら次は貫通させる」
「わかりましたよ、ウラヌス第三星将ちゃんさん」
待ってましたとばかりに撃ち放たれた氷の弾丸を何十層の触手で防ぐ。
瞬時に触手の周囲は氷に覆われて動かせなくなった。
「…危ないなァ……リコに当たったらどうすんですか」
「その場合はお前が悪いことになるさ」
「あはは、そりゃおもしろいですね」
笑いながら、目に付いた氷の端を折り取って口に入れる。
何かを噛むなんて久しぶりだ、元はただの水だけど、おいしいなあ。
シロップなんて贅沢言わないから砂糖水欲しいよ。
ぼりぼりぼりと幾度も幾度も氷を味わう。
「ん、おいし」
「ミツキ平気? 気持ち悪くなったりしてない?」
「んー平気だよ、固形物なら消化不良起こしてるかもだけど」
以前私はそのへんを考えてなかった、そうだよこういう体で栄養補給を必要としないならそうそう消化できるわけないじゃん。
からっぽの胃に突然大量のもやしをぶち込むなんざ考えただけでおそろしいわ。
「…気持ち悪ぃ」
「それどういう意味ですか、人間であったころの欲求ですかこの行為自体ですか性格ですか見た目ですかそれとも全部ですか」
「あいにく俺はお前みたいなヤツと律儀に付き合ってる暇はないんだ」
「あ、氷は解除しないで下さいね、まだ食べますから」
「好きにしろ」
……氷をかじりながら考える、なにか、大切なことがあったはずだ。
ジュナスさんが汚染されるより大事なこと、桜子さんたちの場所より…そこへ繋がる脳みその回路はじわじわとふさがっているようだった。
だめだ…思い出さなきゃいけないのに……いいや、ここでリコを守る他に大切なことなどなかったはずだ。
ん? なんだろう、ちがうよ、ちがわないよ。
あそこでもっともっと、もっと重大な何かがあったはずなんだ……
「ミツキ…? なんでないてるの?」
「え……あ、ほんとだ…なんでだろう……水分のせいかな…」
氷を食べたから、それがすぐ目から排出された…なんてそんなわけないだろう。
わからない、どうして涙なんか出るんだろう。
頭が混乱するよ……とても正常な頭ではないとはいえ。
「ヤなことなら忘れたほうがいいよ」
「…どうして」
「ジュナスがそう言ってたの、泣くほどイヤなことなら忘れちゃったほうが有益なんだって」
「……」
多分、私が思い出そうとしてるのは死ぬほどイヤなことで、どんより暗くて重いものだと思う。
そんなものを無理に思い出して逆らってもがいてもがいて苦しむくらいなら、忘れてしまった方がマシだろうか。
今の私になにができるんだろう、せめて、リコを守りきることはできてほしい。
でもきっとそれはジュナスさんがやってくれて、そうだ、ジュナスさんが全部やってくれるんだ。
そうだ、私はジュナスさんの役を奪っているだけなんだ。
じゃあ私がいる意味って? ここに必要なの? リコのおかげで命は保障されてるけど、私はリコになにができるの?
……余計な心配をさせずに、禁人種を創ることに専念させること?
それなら、
「……ありがと、リコ。…よし! そんじゃジュナスさんを休ませるためにもう一、二体くらい創ろうか!」
「うん! あのねあのね、もういっこ思いついたのがねー…」
「――――ミツキ、お前にはやってもらうことがある」
「…なんですか」
報告から戻ったジュナスさんが私にやってほしいことがあると言う。
まだリコと一緒に居たいのに……だが、これからの襲撃でなにかしらの役目があるのだろう、敵の陽動か? それとも囮? 人質?
「今回捕らえてきた人間共の監視だ」
「…それって」
「えー! なんで私と一緒じゃないの!? ブーブー!」
それって、実質引っ込んでろってことじゃんか。
こうなった以上私だってここの人の役に立ちたい、それがどんなに危険な役目でもリコが笑ってくれれば。
……不満はたくさんある、言いたいこともあるが。
「はぁ……わかりました、リコ、決めたのは多分ミロクさんなんだからワガママ言っちゃだめだよ」
「ミツキ~…」
「カプリコは俺と一緒に襲撃に備えて待機だ。…それじゃダメか?」
「むぅー…」
ジュナスさんと一緒なら、きっと安心だ。
「ジュナスさん…リコのこと……いや、リコ。弱ってるジュナスさんのこと、ちゃんと守ってあげてね」
「わかった!」
易々とリコのことを任せるのは癪だから、わざと「弱ってる」を強調してリコの肩をたたく。
このぐらいは許してほしい、弱ってるのは事実なんだし。
「案内してください、私はその場所を知らないんで」
「ああ。ここで待ってろカプリコ、すぐ戻る」
てくてくとジュナスさんについて歩く、無言、風が吹き抜ける音がする。
……思い出せないけど、私はジュナスさんに言いたいことがある気がする…なんだろう。
とにかく、とにかくリコに悲しんでほしくない、そのためには、ジュナスさんの無事は不可欠だ。
人の気配、もぞもぞとうごめく影たち、空気が重くなってくる。
「ジュナスさん」
「…なんだ」
ジュナスさんの目を見つめる、何か…何かの断片が見えそうで、ハッキリし始めるともやがかかってしまって。
「言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ」
「……よく、わからないんですけど…あの、あなたは、ずっとリコのそばに居てくれますか?」
「何故そんなことを聞く」
「よくわからないんです、でも大事なことなんです」
「…愚問だ」
答えはそれだけで十分だった。
なぜかその一言だけでとても安心したから、ジュナスさんはリコのこと大切に思ってるってわかったから。
私がいなくなっても大丈夫なんだ……死ぬつもりはない、けど。
「ひっ……! た、助けてください…!!」
「殺さないで、どうか…!」
「こんなところに閉じ込めてどうするつもりなのよっ…!?」
無駄だとわかっていても命乞いはするんだな、ジュナスさんはそう小さく呟いた、残念ながら私も同じ気持ちだった。
でもどちらの気持ちもわかる、無駄であっても小さな希望に縋りたい気持ち、足掻くくらいなら潔く散ってしまいたい気持ち。
この透明な檻の中にはそんなヒトがたくさん入っていた。
立ったり、座ったり、うな垂れたり泣き崩れたり激昂したり、この中には感情がたくさん詰まっていた。
心を捨てた人間や、心の無い人間には醜くも美しく映る光景だ。
「……この人たちは、どうなるんですか…?」
「さあな。また新たな禁人種が増えるかもしれん…一応顔ぐらい覚えておけ」
「はあ…わかりました」
違う、私はこの人たちをどうすればいいんだ?
監視じゃない、拷問でもない、どこか行かなければならないところがあったんだ。
「じゃあ任せたぞ」
「はい。……やっぱり我慢できない、ジュナスさん一発でいいから殴らせてください!」
「いきなりなんなんだ、断る」
私は知っている、リコが年相応の娘らしくジュナスのことが好きだと言った事を。
私に、内緒だよと頬を赤らめてそっと教えてくれたことを。
そしてジュナスさんもいつかそれを受け入れてくれることも。
お互いに口にはしないが二人は愛で繋がっている、はじまりが洗脳であっても、その愛は真実だと。
ジュナスさんの遠ざかっていく背中をみつめながら、先のことを想う。
二人はきっとこれからも幸せに暮らすのだろう、昔話によくあるオチのように、末永く、末永く。
頭の中でピースがひとつ埋まった気がした。
「さ、て…」
問題は、ここから動けないことだ。
動かなくても問題はないのだろうとは思う、しかし心の奥で焦燥が駆けずり回っていて落ち着かない。
何かがおかしい、でも何がおかしい?
透明な檻でうごめく人の影を見る、この人たちはきっと、リコをここから奪おうとする、だからけして近づけさせてはいけない。
リコは子供だから、まだ人間だから、とても純粋でかわいいから。
「……」
ゆっくり、ゆっくりと床に腰をつける。
ごろりと横たわってじいっとただひたすら中を眺める。
ああ、私にもこんな時期があったんだ。
静かに目を閉じる。
あそこから出られたらみんなうれしそうな顔をするんだ。
巡る懐かしい思い出、すでにおぼろなそれを見ようとしても、手のひらからこぼれ落ちていく。
完成された輪の中から取り残されてしまった気がして、いや、実際そうなんだろう。
悲しいはずなのに、涙は一筋も浮かばなかった。
「あー……気持ちわり」
腹の中の黒くドロドロとした感情が止まらない。
澱んで濁って固まった、そんな感じの腹具合だ。
「ねえ…」
「?」
女の人が私に話しかけようとしているようだ。
不安そうな表情、別に、そこまで怖がることないのに。
「…ああ…怖くて当然かあ、私敵だもんね。んん? 敵って認識でいいのかなぁ、元はといえば同じ…いやあ、でも別の生き物には変わりないよね」
この中にいる人たちの認識は、たぶんそんなもんだ。
「なに、意味わかんないこと言ってんのよ…そんなことより、あなたここに居る人でしょう? 女の子のこと、何か知らない?」
「おんなのこ…?」
「さっきリコって言ってたでしょ…? その子がいま無事なのか、それだけ教えてほしいのよ」
「リコのこと、知ってるの?」
がばりと起きあがる、考えてみれば当たり前だ、この人たちは向こうから連れ去られてきたんだから。
それにしても、結構前のことを知ってるってことはずっと昔から向こうに居たってことだよな。
誰かに似てる気がするが、見たことがある気がするが、はて、誰だろうか。
「やっぱり知ってるのね! ねえ、無事なの!?」
「あなたは、……い…イヤ、駄目ッ!」
「な…えっ…!?」
「教えたら、リコのこと連れて行っちゃうでしょう!? そんなことさせない! リコはここに必要なの! 私に必要なのッ!!」
リコのことを知ってるこの人は、きっと他の人以上にリコを連れ戻そうとする、そんなのは駄目だ、させるわけにはいかない。
リコはここに必要で、ジュナスさんに必要で、私に必要だ、私はリコを守らなくちゃいけないんだ。
そういう使命があるんだから、もしこの人がそうするつもりなら、私は、私はっ……!!
「っ、……う…うう……やだぁ…いやだよお……」
「あなた…泣いてるの…?」
涙は出ていない、だから、泣いてはいない、けど。
「私っ…あなたを殺さなくちゃいけないのに、できない…! 体が動かないよ…わけわかんない…」
「フブキ 離れてろ」
フブキ? ああ…そうだ、そんな名前だった。
それで、この隣の人が…
「でもイアン……この子は」
「そうだあ…そんな名前だぁ……」
「…?」
「あとは…ああ、そう」
ガッ!
「なっ!? 何を…!」
頭を床にガンガンと打ちつける、思い出せそう、もうすこし、もうすこしで思い出せるんだ。
ぐらぐら揺れる視界と痛みで処理容量がパンクした脳味噌が、すこしばかりの情報を漏らしてくれた。
「ご結婚おめでとうございまあす」
「は…!?」
「おぉー君は泣かないんだねえ、えらいえらい」
「だうー」
「お…おい…血が出てるぞっ」
この世界のあらすじは……
見えもしないものを見ようと目を細めてみるが、フブキさんたちが少し後ずさるだけだった。
「…あなたたちが来てから、どのくらいが経ちました?」
「?…そ、そうだな…正確な時間はわからないが……一日…も経ってないんじゃないか…?」
「そうですよね、私にもわからないです」
「……それがどうかしたのか…?」
「気になっただけです」
にこり、微笑んで、また横になる。
近いうちに何かが起こる、その予感はあったが、さあ、具体的なことはいっさいわからない。
きっとその日が来るまでは、永遠にわからない。
