腐っても時渡り W.I.S.E編
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「こういう感じ?」
「そうそう、上手だねリコ」
「…本当にこれで作っていいの?」
「リコが描きたいものを描いてるなら、いいんだよ」
私の体に核が埋め込まれてからしばらく、リコの同行を条件にアストラル・ナーヴァを歩き回れるようになって色々なところを見てきた。
星将が一人抜けたせいか警備が若干手薄だ、もともとそんな厳重警戒するところでもないだろうが。
一応、侵入者などを発見次第排除する禁人種を作ってもらうようリコに頼んだ。
「作業は順調か」
「言われなくても平気ですよ」
「ジュナスー! 見てみて、かっこいい?」
「ああ、よく描けてるじゃないか」
リコはジュナスのことを兄弟のように慕っている。
小さい頃から一緒だと言っていた、もうどこからが本当でどこからが洗脳かわからないが。
「これからもこの調子で量産するように言っておいてくれ」
「…わかりました」
ジュナスは私のことをよく思ってないらしい、そりゃ当たり前だけど。
私はいわばヨソ者だし……と鎖骨のちょうど下に埋められているイルミナをさする。
これさえ壊されなければお腹はすかないしPSIも増幅されるけど…時々なぜか空虚な感覚に襲われる。
何かを置き去りにしてしまっているようなあの不安な感じ、まるで自分が風船になってふわふわ浮いているような……
なんだろう……?
「ねーミツキ、この子たち外で遊ばせたいんだけどいーかな!」
「リコは平気だけど…私は出してもらえるのかね、まいいか怒られても」
「行こ行こ!」
「うん、ちょっとまって……」
不意に、核がドクリと脈打つ。
途端に息苦しくなり口から荒い息を吐き出す、膝をつき、そのまま横たわる。
リコが駆け寄って何事か言っているようだがこの状態では満足に聞くこともできない。
イルミナの拒否反応だろうか、珠を囲んでいる皮膚が熱い。
苦しくて苦しくて、こんなもの、入れてしまわなければよかった、そんな考えが浮かんでくる。
体の中がぐるぐるする。
意識が、記憶がぐちゃぐちゃになる
「ふっ、ぅ……!!」
「ミツキ! ねぇだいじょうぶ!?」
体を揺さぶられ、やっと心配そうな声が耳に入ってきた。
きっとしばらくすれば治まるだろうと意味を込めて、幾度か頷いた。
突然のことでパニックに陥った頭の中が収束していくのを感じる、絡まった糸がほどけていくような感覚だ。
呼吸を整える…まぶたの裏に今まで起こったことがまるで走馬灯のように映し出されていく。
緑の公衆電話、暗い公園 荒れ果てた大地
浮き上がるような感覚と死にかけた記憶。 弱いからだ
強くなりたい。 『誰かの役に立てる力が 』 これは……私の言葉か?
鉄骨が積み上がって 『すこし誰かに甘えた方がいいよ、どこか無理をしてる気がするんだ』
――さんを 悲しませない。
ああ……そうだ、私はこの時代に飛ばされてきたんだ。
現代に帰らなくちゃいけなかったのに、帰れなかった。
この場所でこんな体になって、未来を変える事ができなくなってしまった。
だから、だからだ、リコがここにいるのは。
ごめんね、リコ、私がきちんと帰ることができたらこんな未来にはならなかったのに。
情けない、悔しい、悲しい、苦しい、ああ、負の連鎖が。
息を整えながら鉛のようになった体を起き上がらせ、リコをしっかりと抱きしめる。
もっと対策を練ればよかった。
「ごめ…ね……リコ……ッ、わたし、ちゃんと…帰れなかった」
「ミツキ……いいよ、いいんだよ…帰ってきてるでしょ? だいじょうぶだよ……」
「ちがうの、ごめん…ごめんなさい」
約束を守れなかった、覚悟を守りきれなかった。
絶対に未来を変えるって決めてたのに。
『うそつき』
「はっ…う、ぅ……!!…ご、めんなさい、ごめんなさい、桜子さん……!」
「…ミツキ」
もしかしたらあの場でアゲハについていれば現代に帰ってリコを助けられたかもしれない。
立ち位置が違っていたら、もっといろいろ考えて行動していたら、私だけ逃げていたら。
あの時死を恐れず全部話していたら。
今さら考えたって仕方の無いことが脳を耳を目を口を行き交っている。
もう未来の情報を持ち合わせていない、過去すらほとんど消してしまった。
ざーざーと流れる砂嵐から解読できる言葉は。
「…………」
こわばる筋肉がゆるみ、ぐちゃぐちゃの脳内は落ち着きを取り戻してイルミナは元の通りに機能しはじめる。
ついさっきまで考えていたことは頭の隅では理解しているけど表面にまでは出てこなくなってしまった。
……言い方を変えれば、どうでも良くなった。
だめだ、考えなくちゃ、放棄してはいけない、抵抗しなくちゃと、深層が訴える。
「ミツキ…もうへいき?」
「うん……へいきだよ、リコ、ごめんね、ありがとう。…外へ行こうか」
そう言ってリコの手を引く、頭の中では逃げる方法を必死でひねっているが、表層はなにをしてもムダだと諦めている。
ここに縛られている限り、リコを解放しない限り、私がコレに命を委ねている限りだ。
いっそ、アゲハに貫いてもらいたい。
そんな考えも時間が経てばどうでもよいことになるとわかっていた。
アストラル・ナーヴァの端、神経制御塔もまばらな荒野でワームや巨人を遊ばせているリコをぼーっと眺める。
楽しそうだな…気軽に外に出られるぶん、こっちのほうがいいのかもしれない。
私が幸せなら良い、一緒にいられれば良いと言ったリコの姿が脳裏に浮かぶ。
……いけないな、いい加減あの子のためにも離れなくちゃならないのに、でもあの子は私がいなくちゃだめなんだ、離れることなど。
それに…ここは存外居心地が良い。
この世界にとって異物でしかない私が役割を与えられて生活している、リコのため、ここにいる人のため。
今までに感じなかった心地良さだ。
向こうではきっとこんな思い抱く事はなかっただろう。
二人の世界、みんなの世界、イレギュラーでは入り込めない空気で疎外感を得て、それと比べればこっちは自由だ。
W.I.S.Eに入るためにこの世界に来たのではないかと思うほど。
「なんだァ…? お前、どうしてこんなところにいンだよ?」
背後から急に現れたグラナさんはだるそうに背中を掻いている。
「ワームを外で遊ばせたいと言っていたので」
「ヘェ…てっきりここから逃げ出すつもりかと思ったんだが…」
と、私の隣に腰掛ける。
いつも疑問に思うのだが、ここの人たちはどうしてそう私に接触したがるのだろうか。
監視が目的なら何も話さなくたっていいはずなのに。
誰かがやってくるたび、一言以上言葉を交わしている気がする。
「どうした、俺がここにいちゃ不都合か」
「何故そう思うんですか」
「そんな顔してるぜ」
「…ちがいますよ。みんな私に話しかけてくるから、どうしてかなーって考えてたんです」
すると突然ほっぺをつかまれて引っ張られた。
「いたっ」
「お前…本当の自分って持ってるか?」
「……え?」
本当の自分…とは?
真実⇔虚偽とするならば、虚偽の自分ではないものか。
おそらくこの人が聞きたい事はそんなことではないだろうけど。
ぶにっ
「…ぶはっ! おもしれー顔!」
「おもっ…ひっぱるからでふよ!」
「モチみてー」
引っ張るだけじゃ飽きたのか今度は押したり伸ばしたり私の顔で好きなように遊び倒す。
顔痛くなってきたんですけど…つーかモチみたいにブヨブヨな顔で悪かったですね。
「……モチなんてここんとこずっと食ってないな…」
出たよ、情緒不安定男。
「あん時の握り飯…うまかったなァ……」
「あー…ういぶんむかひのはなひでふね」
ぐー
「……おなかふいた」
頬からぱっと手が離れる…いたかった。
「妙だな…空腹なんか感じるわけが…初期の拒否反応か?」
「なんか食べるものありませんか」
「大気でも食ってろ」
…仙人じゃあるまいし。
まあ似たようなものか、超能力使って大気で栄養とって、いつまでたっても老けない。
「なぁ、どうしてお前は他人のためにそんなに必死になれるんだ?」
「……は」
「俺に教えてくれよ、お前はどういう感情を持ってるのか」
「……」
感情はない、どこにあるのかもわからない、そんな人たちがここにはいっぱい。
本当の自分、というより、人間としての自分、という、こと……なのかも。
私には…よくわからないなぁ。
人間捨てちゃったしなあ、人間ってリコに害をなす生物だしなあ。
「うーん…つまり、みんな人間がうらやましくて私に突っかかるわけですか?」
「どーだかな、シャイナやジュナスは違うんじゃねーか? あいつら人が嫌がるの見て喜ぶやつらだし」
うむ、シャイナさんはそんな人だ、ジュナスさんはよくわからないけど。
「グラナさんは、私よりよっぽど人らしいと思うんですが」
「どういうことだ?」
「狂人の真似とて、ですよ。心を捨てた人間より、心が無くてもあるように振舞う人間のほうが人間に見えます。即ち私よりグラナさん」
頭の中なんてものは誰もが覗けるわけじゃない、表面上そう見えればそうなんだ。
ジュナスさんおよび上のかたがたは中が空っぽに見えるが、死に瀕した私より中身があるように思える。
ミロクさんは思想があるし、ジュナスさんは人望とか仲間を想う気持ちというのがある。
「…わかんねぇなぁ……」
いわゆる上司という存在は、ここにはたくさんいる、人の形をしているその人たちは、空っぽに見えて中身がある。
リコを守るための人形である私が出した結論がこれだ。
「たくさん考えるとおなかがすきますね」
「へらねーよ」
「へりますよ」
「…やっぱまだ完全に融合しきってないのかねぇ、面倒臭ぇな人間ってのはよォ」
「そんな人間が愛しくてたまらないクセに」
完全に私の意識からではない言葉が出てくる。
消した記憶の断片がそこかしこに溢れているのに、私にはそれがつかめない。
でもそれでいいんだ、 を守るにはそれが一番なんだ。
「……バーストって食べれるかな」
「は?」
ふと、リコがこちらに向かって手を振っているのが見えた、私を呼んでるらしい。
なにか見つけたかな、生き物だったらいいな。
「なんつー思考回路してんだアイツ……おもしれー」
「リコ、どうしたの?」
「見てミツキ! 草が生えてるよ!!」
「草…?」
「日光も当たらないはずなのに不思議だよね、そもそも種はどこから来たんだろう?」
「あー、そっか…光合成もできないし水すらないのにね…不思議だねー」
よっぽど強い雑草か、それとも突然変異?
これがただの草なのかもわからない、生き物を研究してるリコにはとても素敵でおもしろい材料なんだろうな。
「持って帰ってみる?」
「んーん、環境が変わると枯れちゃうかもしれないし、またここに来るよ! 観察日記つけちゃおーかな!」
「懐かしいなーアサガオの観察日記とかつけてたよ、毎朝起きるのがつらくて途中捏造したけど」
アサガオといえば、トマトが食べたくなってきちゃったなーどこかに生えてないかトマト。
ああどんどん食べたいものが増えてくるな、白米もりもり食べたい、カレー食べたい。
そうだ海、このへん海はないか、魚獲って焼いて食べる! 煮ても良し! 塩もあれば尚良し!
「はー…夢が広がるねえ」
「広がるねー」
お互いの思考がすれ違っているとわかりつつも、わくわくは止められません。
日光がなくても育つ野菜があるならそれを育てて主食にするんだけど、あ、もやし。
もやしの種ってどこで売ってる? てね、どこの瓦礫を漁っても見つかる気がしないよもやしちゃん。
この空腹を癒してくれもやしちゃん……はあ。
「じゃあ、今日のところは帰ろうか」
「そーだね、よーしみんな戻った戻った! きちんと並ぶよ!」
グロテスクだがどこか可愛げのある巨大な生物達が整列して戻っていく光景を見ると…はは、これほんとに現実なのかわからんね。
この間にも伊豆襲撃の準備が進んでいることを私は知らないでいた。
ジュナスさんが汚染されたと聞いたのはそれから数日後。
