腐っても時渡り W.I.S.E編
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「生きていたんですね」
「……?」
こっちに来てから何日経っただろう、折れた歯を軽く噛みながら考える。
「覚えてないんですか? では自己紹介をしましょう、W.I.S.E 第三星将シャイナです、よろしく」
「……」
「もう少しリアクションが欲しいところですけど…まあいいでしょう」
ああ…たしかそんな名前の人だったな……どこからどこまでを消したのか、忘れてしまった。
ここ数日の曖昧な記憶としばらくご飯を食べてないということしか覚えてない。
リコもちょくちょくここを覗きにきているが、私としてはあまり見てほしくない。
もしかしたらそう日数も経ってないのかもしれないな…ああ、唾液以外のものを口に入れたい。
「なかなかしぶといんですね☆ 確実に胸に穴を開けたはずなのに…どちらかがキュア使いだったんですか?」
「ごよーけんは…? ああ…やけどのハライセってやつですか? やだなあ、八つ当たりはきらいです」
ン…? これは知り得ない情報ってやつか?
わからないな、どこからどこまで覚えてるんだろう、私は何を見てないんだろう。
バックアップはどこに置いてきたんだっけ? あれ? バックアップなんてあったんだっけ?
「…お腹すきませんか? といってもあなたに食べさせる物はないんですけどね、あぁ、これも拷問の一環なんですが、気づいてました?」
「はは、おもしろい」
「……先日よりもうちょっとしぶといかと思ってましたが、あんがい脆いんですね、こうもすぐ壊れるなんて。記憶を消したとは聞いてましたが」
それは期待はずれですみませんでしたね。
ねむいなあ。
「…満月、おはよう」
「おはようリコ、今日も多分くもってるんだろうね、ごめんね、私はなにもできないからリコをたすけられないよ、ごめんね」
「満月……」
「できることは一つだけありますよ」
リコと合わせてた目線をシャイナに向ける、まるでネズミを見るような眼だ。
「イルミナス・フォージを行うんですよ、あなたはいわば彼女を繋ぎとめる枷です。餓死されても困りますからね」
「だめ! 満月にはそんなことさせないもん!」
「そうだねえ、私はおひさまが好きだから、おひさまがみれなくなるのはやだなあ」
「オヤ、ご存じだったんですね。たしかに一生日光を浴びる事ができない体になりますが、餓え死によりはいいんじゃないですか?」
そうだなあ、おなかがすいて死ぬのはいやだなあ。
でもそんな吸血鬼みたいな体になるのも、あまりいいものでもない。
「そのへんでやめとけシャイナ。カプリコ、お前はまだやることがあんだろ?」
「すみません、ついからかいたくなっちゃって」
「だって満月と一緒にいたいんだもん」
「そいつ連れてくからそこから離れろ」
透明な壁が取り払われる、そういえばひまつぶしに訓練しようと思ってもPSIが使えないから断念したこともあったな。
ここに閉じ込められてる間にどれだけ強くなれたんだろう、損だなあ。
ここにいる誰よりも強くなってリコと一緒に出て行く計画はしばらく実行できそうにない。
またずるずると引きずられて、今度は空の見える場所に連れて来られた。
久しぶりに見るな、まったく日光が差し込まない、暗くもならない空だ。
「久しぶりだな」
ん、空の話ではなさそうだ、誰だろう、んーと。
そういえば、あの事件の山荘で会ったっけ、名前はたしか。
「……あぁそーだ、グリゴリ06号さんだ。おひさしぶりです」
「…!……オイ、お前…」
「その名はもう捨てた。お前が何者だろうとどうでもいい、だが…ひとつ聞きたいことがある」
「んん…? ごめんなさい間違えましたね、ミロクさんでしたっけ」
記憶が混濁してるなあ、いろいろ整理しとかなくちゃね。
今日はたくさんお話ができてうれしい。
「性格以外はなにひとつ変わってないように見える。どこから…いや、『何年前』から来た?」
「ハ…?」
「んー…?」
「俺とお前が会ったのは10年以上前…それから『転生の日』を奇跡的に生き延びたとしても変わらなさすぎる」
「さー、覚えてないです。どこに行こうとしてたのかな、……あれ、どうやって来たんだっけ」
「無駄だぜ、コイツきれいさっぱり消しやがった…意地でも仲間を守るつもりなんだんろうよ」
仲間…ああそうだ、桜子さん、桜子さんはどこに行っちゃったのかな。
水の記憶しかない…はぐれちゃったんだ、生きてるといいなあ。
リコをここから助けることが出来たら、いつか会えるかな。
「リコ、いつか返してくれますか?」
「返す? 我々から創造主を奪ったのはお前だろう、おかしなことを」
「そーですけどね、ふふ、すごーく困ってるみたいで。ざまぁ」
言いながら舌を出す、するとぐしゃりと髪の毛を掴まれて後ろへ引き下げられた。
喉元を差し出すような形でうめく、ミロクの目はこわい、異常なまでに強い力を手に入れた者の瞳だ。
「……ここが薄いな」
薄い、とミロクが触るのは誰かが治してくれた胸の傷だ……朧さん、って名前だったっけ。
髪が長くて目が黒くて笑顔がきれいで楽しいことが好きでそういえば傷は、傷は治せたのかな核がたくさんたくさんたくさん。
助けたかったんだ私はあの人を助けたくて水の中にもぐったんだ、でも……
「たしか記憶を消したと言っていたな…記憶を元通りにする方法は?」
「さあ、ぞんじません」
「そうか」
頭の中に何かが入り込んでくる、抵抗しようにも手足は拘束されていてまともに動かせなかった。
ノイズの混じった音が耳の中で響く、中身を、覗こうとしてるのかな、その勝ち誇った笑顔が見えなくなる。
耳鳴りが頭の奥で、ノイズを押し退けて、頭がおかしくなりそうだ…………
リンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリン
リンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリン
リンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリン
「ぐっ…!! う、いたい、ぃいたい……ッ!」
ぶつん、と頭に繋がっていた線が切れる音がした。
「!? 何だ、今……」
「やめてよ……それより先は見ちゃいけない……んだって、ぅふはは、あははは」
あたまがおかしくなりそうだ。
「……まだ他にも情報を持ってそうなのは確かだな」
「ああ…しかも催眠で他人に見られないようにされてある、こいつの仕業じゃなさそうだ」
「あんたなら楽に突破できるだろ」
「…………いや。下手をするとこいつも死にかねない…」
「…じゃあどうすんだ?」
「情報は手に入らないが…このまま使うしかないだろうな」
よゆーよゆーだね、こっちはぐわんぐわんで死にそうだっていうのにさ。
ははは、…ああ、リコにあいたい、桜子さんにあいたい。
もっとまともな精神状態で、意識を保ってるうちに…これも全部私が弱いからだ。
桜子さん……リコ…………
これが夢ならと何度願っても事実が覆ることはなかった。
目が覚めても辛い現実ばかりで。
「満月…起きた…?」
「……帰りたいよ、リコ…」
「どこに?」
「どこだったかな……」
ごろりと横たわったまま明後日の方向へ視線をめぐらせる。
桜子さんと電話したあの場所…子供がいっぱいいて、フレデリカ…カイル……
エルモアさんの家、あれはどこだったっけ……海が。
リコをそこに預けて、一緒に過ごして、戦って、楽しかったけど…もう思い出せない。
どこに行かなくちゃならなかったのかな。
口の中に痛みが走る、転がしていた歯が舌に刺さったようだった。
まだ痛みを感じる事ができる。
「…死にたくないな」
おいしいものを食べたい、楽しいこともたくさんしたい。
死にたくない、まだ死にたくない。
でもここじゃ、それは叶わない。
一つだけ生きる道が残されてる…イルミナス・フォージ。
「生かしたいのか、殺したいのか…」
「…私は満月と一緒にいたいよ」
「リコもしてるの…? イルミナス・フォージ…」
「……」
私の問いにリコは俯きながらも小さく首を振った。
そうか、よかった。
ごめんねリコ、私がなにもしなければもっと穏やかに過ごせたのに。
ジュナスと一緒、運命の人を…私が変えちゃった。
「……あは」
未来を変えたしわ寄せは私が受ければいい。
神様がもしこの世界に居るとすれば、その神から与えられた罰だとすれば。
川の流れを塞き止めるがごとく自然の摂理を捻じ曲げた凡人の罪は重い。
私ごときが抱えきれる責では無かったのだ。
「満月…?」
「私が変えた…私が、リコ、今、しあわせ?」
「…満月がしあわせなら」
「そっかあ、私がいなくなったら、イヤ?」
「いやだよ! もう満月がいなくなるのはやだ!」
うれしい。リコが今でも、私がこんな風になってもそう思ってくれるなんて。
リコだけ、みんなだけ変わるのはいやだ。
私もそうならなくちゃいけないよね、未来が変わっても私がそのままなんてだめだよね。
抱えきれないならば抱えきれるようになればいい、心を地べたに捨てる。
重いなら自分の荷物を軽くすればいいんだ。
「――お迎えに来ました」
声音はいつもより冷たい。
「シャイナ…なにしにきたの?」
「グラナ第一星将からの命令で、その人を連れてくるようにと」
「わかりました……大丈夫だよ…すぐ帰ってくるよ」
「…うん…」
極度まで衰弱してしまいまともに歩く事ができず、首根っこを掴まれて、まるで死体になった気分だった。
もちろんあまりいい気分じゃない。
どさりと雑に落とされて頭が痛い、上からシャイナが覗き込む。
「あなたをここまで連れて来た理由は…言うまでもありませんよね」
「そうですね、ふふ」
「……あなたのような人間が我々を出し抜けたのが不思議でしょうがない」
私の力じゃない、私がここで生きていられるのも私がどうこうしたからじゃない。
未来を知っていて、桜子さんに助けてもらって。
私は物語に沿うように行動していただけ、時間の流れに身を任せれば果ての大海に辿り着くと知っていたから。
「心配いりませんよ、中身は変わらないようにしますから」
「そう…」
生きていればなんだっていいや、時の流れは変わりはしない。
流れる異物でしか過ぎない私は本流を作る水ではないのだから。
「もうすこし、壊れてもらいますけどね」
私の意識は光に飲み込まれていって、やがてそこかしこが光で満たされていった。
未来が希望で満ち溢れている気がするが、そうでないような気がする。
始まるのが闇なのか光なのかと聞かれれば、そのどちらでもないと以前の私なら答えただろう。
「光だ……」
以前では見ることも叶わなかった光が頭の中に満ちていた。
「おめでとうございます。これであなたも僕らの仲間入りを果たすことが出来た」
「とてもすっきりした気分です」
「それはよかった、これからあなたにしかできない仕事をやってもらいます、難しいことじゃありませんよ」
首をかしげて続きを促す、私にもできることがあるのかしら。
「彼女の教育ですよ。お願いしますね、『カプリコ第四星将特別教育係』ミツキさん」
教育とは具体的になにをするのか、聞かずともわかることだった。
私はだまって頷いた、そうするように命令されているのかもしれない。
足は脳が伝令する前に動き出していた。
頭のどこかで拒否する声が聞こえるが改造されたばかりの私の体は言うことを聞かない。
リコのもとへ、すぐ戻らなければ、そして。
生きていればどうでもいい、ここがどこで何をしている場所なのかどんな非道な場所なのかもどうでもいい。
リコが幸せならば、それでいい。
それを邪魔する者は、奪おうとする者は、排除するのみだ。
それが外の人間ならば、なおさら。
