腐っても時渡り
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タクシーから降りた後、私はライズを全開にして走った。
Qの呼び出しがくる前にリコに会いたかった。
「ハァ……ハァ…」
ここに来るまでに気分はだいぶ落ち着いた、冷静に話す言葉を選ぼう。
時間的にもう夕方だが、空はまだ明るい。
エルモアさんは出て行ってしまっただろうか、できればここにいてほしい。
だがそれよりもまずリコのほうが優先だ。
「はぁ…リコ!」
私は大声でリコの名を呼んだ、リコは私の声に気づいてすぐに走ってきた。
不思議そうに私の顔を見つめ、服をぎゅっと掴んだ。
「満月…? どうしたの?」
私はもう一度あの映像を思い浮かべた、子供たちが無残にも殺され、映像が途切れる、その後の光景を。
リコが生きていたとしても、あの惨状をみて正気でいられるとはとても思えない。
私は何を言うべきか迷った、いや、それでもここのみんなと一緒にいてほしい。
「リコ…みんなと待ってて、ここでずっと待ってて、絶対離れないで」
「満月……?」
「…おねがい……」
かすかな耳鳴りを、ベルの音がかき消した。
まだやらなくちゃいけないことがある、私はゆっくりと歩いて電話の前で止まった。
一応、回避方法は考えていたんだ、予想しない出来事で大きく計画は狂ってしまったが。
トランスを発動し、電話の中へ入り込む、電話線をジャックし衛星から衛星を経由し空港の管制塔へ繋ぐ。
もうこのへんで私の容量はいっぱいになってしまっているが、まだがんばってくれ脳みそ……
管制塔に直接伝えればなにかしら対応してもらえるはず、便の番号は覚えている、さっき見たばかりだ、たしか……
……っ、頭が重い……まだやめちゃだめだ、まだ……繋がった!
鉄の塊のようになった頭を振って言葉を紡ぐ、容量が足りないのと鳴り響くベルのせいでノイズが入ってしまっているだろうが真実味は出るだろう。
「ぐぅ…!!」
ぶつん、とトランスの線が途切れる。
ちくしょう、途中だったのに…! くそ、くそ…おばぁちゃんが死んじゃうかもしれないのに…!!
いやまだ、行けるか…!? わずかだが時間はある…けど、頭がもう限界に近い、今のが繋がっただけでも奇跡に近かったんだ。
そこを無理して今からやり直そうか、ベルが鳴り続けているままじゃ発狂してしまいそうだ、どちらが先か賭けてみるか?
限界を越えて脳みそただれて死ぬか、ベルを無視して苦しみながら死ぬか、死にかけた自分の命とまだ生きることができる大勢の命を天秤にかければ
答えは明白だ、が。
不安げにこちらを見つめるリコの目を見る。
目の前の小さな命の前で、その幼い心にトラウマを植え付けながら死ぬのか?
大きな揺らぐ瞳が私の考えていることを見透かして「やめろ」と言っているように、とか、それらしい理由つけてまだ自分がかわいいんだなちくしょう。
我が身かわいさとちっぽけなプライドがせめぎ合う。
自嘲的な笑みがこぼれる、元々自分にとっていい未来にしたいんだから…くやしいけど……このままじゃいけない、電話に出よう…頭が重い。
「満月…だいじょうぶ?」
「大丈夫、だよ……リコ、私はもう行くけど…さっき言ったこと、守ってね……ゆびきり」
「……うん」
約束を小指でつなげて、私は携帯電話を耳にあてた。
世界はすぐに荒廃とした景色に変わった、深呼吸して脳に酸素を取り込んだ、たいして回復はしなかったがしばらく動けそうだ。
さすがに……電話線のジャックなんて無茶なことやりすぎた…成功とは呼べないし、もしかしたら発信場所が特定されてしまったかもしれない、
余計なことをしたかもしれない。
…もしそうだったら、ああでも後悔したって遅い、きっとアゲハたちがうまくやってくれるはずだ、そう願いながら自分の命を選んだんだから。
それが叶うことを祈るけど……近くの岩場にへたり込む、そばを風が通り抜けるが、あまり気持ちのいい風とはいえなかった。
やっぱり、自分の懐にあるものたちの手を離したくはない、なりふり構わず行動するしかないのか。
ふと足音が聞こえた、いけない、ここは禁人種のバーゲンセールだった。
「……あ、れ…?」
勢いよく振り返り見たものは、人…人というか、人のようななにか……?
ぼろきれを身に纏いじりじりとこちらに近寄ってくる…敵意があるかどうかわからない。
……さっき見返した禁人種と違う…まさか新しく召集されたドリフト?
いや…いや待て…武器が……あの武器は見返したあいつらが持ってたのと同じだ、敵だ!
PSIの使いすぎでまだ戦闘は出来そうにない…となれば。
「ここは…逃げる!」
おっかさんにもらったこの足でもって逃げるしかあるめェよ!
「えっ、えっ! 早ェ!!」
向こうもかなりの速さで追いかけてくる、脳のことを考えるとライズも使いたくない、どうしよう。
武器さえ持ってればなんとかな…ならないだろうけど防御くらいはできたのに!
うう、この限りなく人の形をした人を殺すとなると……心が痛む。
いつの間にか数が増え、さらに逃げることが困難となってきた。
くっ……仕方が無い!
右手に大爪を発動させこちらに飛んできたところを薙ぐ。
他の数匹も同じように追い払いまたひたすら走る、隠れる場所か誰か他の人!
心細い…泣きそう、なんでみんなとこんな離れてるの……
「満月!!」
「あっ…ヒリュー!」
「! 伏せろォ!!」
「えっ? うわぁ!?」
ヒリューはいきなり龍の尻尾を振り、それはぎりぎりで私の頭上を通り過ぎていった。
こ、こわい…なんなのさ、と思ったら後ろから禁人種が襲い掛かろうとしていたみたいだ。
「ぅ…うぅ……! 惚れ直した! さすがヒリョウさん!」
「ヒリューだ!」
「お、おい右から来るぞ!」
またバッサバッサと敵をなぎ倒していくヒリューさん、やっぱ男らしい…
今回帰ってこられないということを考えたくは無いが……
少しでもヒリューの負担を減らすために私は爪を振りかぶった。
「敵が以前とは違うようだね……」
「ああ…なんか人を殺してるみてェで気分が悪いぜ…」
「…………」
…頭が痛い、だめだ、PSIを使いすぎた……なんとかならないものか。
「大丈夫かい? 具合が悪そうだ……」
「ちょっと、PSIを使いすぎました…」
「治療しよう、すこしじっとしてて」
楽になってきた…気がする、朧さんとヒリュー、この二人が帰ってこられない。
それを阻止するには星将シャイナの撃破が欠かせない…でも今の私にそれができる気がしない、いや、気だけじゃない、できないんだ。
テレポート…やっかいだな。
「次はどっちだ!?」
「いや、ここだ…ここでいい」
「え?」
次の瞬間、アゲハと桜子さんが目の前に現れた。
「雨宮! 夜科! 無事だったか」
「当ったりめーよ」
「おつかれ朝河君、満月。さあ道を作るわよ夜科」
「おう」
そう言って軽々とあの武器を振るう桜子さん。
かっこいい……
非常にかっこいい……あこがれるなあ。
敵は時間が経つごとにどんどん増えていた、なにを合図にしてるのか、別の場所から集合しているようだ。
「飛ばされていきなりこんな状況なんて反則じゃねーか!?」
「こんな事は初めてだわ…恐らく前回のゴールの近くのはずだけど、こんなに禁人種のいる所にネメシスQが送るなんて…!」
空に大きなPSIの光が現れる、そこから出てきたのはシャイナとドルキさん。
「よお…会いたかったぜ……」
「ここに罠を張って正解でしたね♪」
冷ややかな目線でこちらを見下ろすシャイナは、これまでの経緯を話す。
これは変えようの無い未来だとして放置していたのは間違いだったのか、私はまだわからなかった。
もしあの時少しでも行動を起こしていればこうはならずに済んだのかもしれない、でも広範囲に張られた罠を潜り抜けるためには……
今更それを考えたところで意味は無いと知っていても、後悔がふつふつと生まれてくる。
「ごきげんようみなさん、また会えましたね」
「おいおい……! どっ、どーするよアゲハ…!?」
「私達に一体何の用!?」
「ご心配なく、ボク達が用事があるのは一人だけです」
シャイナはすっと指をアゲハに向け、いかにも立場が上という風に告げた。
「黒いバースト使い…キミをグラナ第一星将の命で――W.I.S.E 本部『アストラル・ナーヴァ』へ連行する」
「…何…!?」
「キミに拒否する権利はない」
周りは禁人種に取り囲まれ…容易に逃げられそうに無い。
目の前に星将が二人もいるんじゃ下手な小細工は命取りだ…ここは流れに任せるしかない。
……冷や汗が一筋流れる。
「キサマは俺の地位とプライドをズタズタに引き裂いた、絶対許しはしねえ!!」
大体あんたが油断してるから悪い。
なんて言えばまっさきに殺されてしまうだろう、くわばらくわばら。
「今ここでキサマをブッ殺して! どちらが上か今度こそハッキリ証明してやる!!」
「あいつ…!!」
ドルキさんのバーストがみるみる膨らんでいく、今にも割れんばかりだ。
「みんなありったけ飛べぇー!!」
えっ、あ、ああ! そうだ!!
カブトに言われたとおり全員その場で思い切り飛ぶと、次の瞬間巨大な爆発が起こった。
し、心臓が……! ここの環境体に悪いよ…!!
少しみんなと離れてしまっているけど、間に合いそうだ。
「なッ、あ、マズいマズいマズい!!」
「!?」
「だぁぁぁッ!」
「え!?」
急がないと!
天空から大きく包囲するシャイナのPSI、ギリギリッ!
閃光に目を閉じ、開けた時には先ほどと景色が変わっていた。
この高さ……普通にヤバいんですけど…!?
「すべり降りろ!」
「ひいぃ…!!」
半ば転げ落ちるように着地し、それぞれの無事を確認する。
…今のところ、重傷者はでてないが……どこでしわ寄せがくるんだ…?
「荒っぽい転送ですみません、あなた達に二人の邪魔はされたくなかったんで少々場所を変えさせてもらいました」
私はゆっくりと朧さんの傍まで歩いていった。
しわ寄せがどこで来ようと、私自身に降りかかろうと、とにかく回避しなければ。
あんな痛々しい姿にさせるわけにはいかない…抵抗はする、死ぬつもりはない。
「さて…どうしましょうか――そろそろ死んでもらっていいですか? 一人くらい連れて帰ろうかと思ってはいますが」
ヒリューの体から大きな尻尾が出現する。
えっ、は、はやい……!?
慌てて大爪を発動して朧さんをかばうように立ちふさがる。
また体に穴を開けられるかな…痛いし恐怖感がハンパないけど、大丈夫だきっと我慢できる、そう私は強い子! えらいぞ!
「……!?」
一瞬だった。
大爪が音を立てて崩れ去る、わかってはいたが……
ヒリューがあっという間にどこかへ転送され、私の胸には小さな穴が開けられていた。
い、いだぐない…! 痛くない痛くない痛くない、ていうか熱い。
朧さんも同様のようだった、あのスピードに追いつけなかった……先を知っているからと、どうこうできるものではなかったか。
「う…ぐ…」
「さっきの人を転送する前にあなた達を攻撃してましたよ、気付かなかったんですか?」
シャイナがゆっくりとこちらに近づいてくる、意外と早かったな…こんなもんか。
朧さんの腕をぎゅっと掴んで、ただ息をすることに集中した。
あ、やばい、鼻血が……無理矢理破壊されたからか、回復できた分も使い切ったからなのか…やばいもう無理。
突然に襲う浮遊感、下に見えるのは水……だろうか。
落ちながら考えるのは、そういえばカナヅチだったなということ。
必ず生きて帰る気でいたけど、ここで死んでもいいかもしれない、あとは他の誰かが上手くやってくれるはずだ。
あーダメだぞ私、思考が矛盾してるぞ、それでいいのか? それでいいのか。
一周してなにもかもが面倒になってしまった。
いいじゃないか、他の誰かにまかせたって。
なにもかも自分でやろうなんてどうかしてたんだ、弱いくせにでしゃばるから。
あとは野となれ山となれ、最後はドSカワイイシャイナに貫かれたんだからいいじゃないか。
なんだよ生きるとか死ぬとか、もうめんどくせえダメだこんなこむつかしいこと考えちゃ。
私はここに勝手にやってきて勝手に死んでいくだけなんだ、どうでもいいじゃないか。
―― どうでもいいわけないじゃないか。
あの声が私の脳に響いてくる、最後の最後で邪魔するな。
片足つっこんだドロ沼を、抜けることは許されない。
まるでオタク生活のようだ、死んだらなにもないじゃないか。
抜けることは許されない。
自分の尻は自分で拭う、それが自身の掟だろう。
私が拭うべき尻とはなんだろう。
むしろ、あるのだろうか、なにかやった事があったか?
ここにきていろいろやったけど、別の何か…別の、特別な何か。
ああ……リコ、まだ会えてない。
私が勝手に懐に抱え込んだある種の枷、なにかできるという意地、まだ私には残ってた。
未来でどうしているのか、あれからどうなったのか確認してないんだ。
気付いてからは、長いようで、短かったようで、とても曖昧な時間経過だ。
目を開けるとそこは水の中、だが夢の中のように都合よくはいかず、すぐに口から空気が漏れ出した。
私は慌てて水面に顔を出すと、辺りを見回した、すこし水を飲んだ…うう、鼻が痛い。
「あっ……! 朧さん…朧さんッ!!」
手の中に握っていたはずの腕はなく、水がむなしく通り過ぎていた。
気絶しているうちに離してしまったのだろうか、血の気がさあっと引いていく。
穴の開いていたあたりをさすると、綺麗ではないがふさがっていたようだった。
きっと私の気付かないうちに治していたのだろう……だとしたら、余計に胸が苦しくなる。
朧さんを探さなくては、あんな勝手な声の主よりも先に、朧さんを。
見つけたからとどうこうできるわけじゃない、治療できるわけじゃないけど、このまま行方不明というわけにはいかない。
大きく息を吸って水の中へ飛び込んだ。
水の中は真っ暗だった、これが本当にただの水なのかもわからない。
そこらじゅうになにかの死骸が浮いていて気味が悪かった、そのどれも、原型を留めていないものばかりで余計に気分が悪い。
かすかに光が見えた、朧さんだろうか、あそこでキュアを行っているんだろうか。
私は急いでそこまで泳ごうとするが、また水を飲んでしまい水面へ顔を出す。
うぐぅ……誰か「オヨギウマクナール」みたいな道具を出してくれないものか、是非。
こうしている間にも朧さんは遠ざかっていく。
そうか、こういう時こそPSIを使えばいいんだ!
右手から触手を発現させて、浮いている死体をつたって底へ底へと進んでいく。
光のもとへ、ゆっくりと。
光が、瞳が私を捉える。
朧さんのものではない、いや朧さんのものだった瞳が。
私は硬直して、しばらくそのまま水の中で動かずにいた。
息の限界が近いというのに、動けなかった。
そして朧さんは笑った。
笑った気がした、私の気のせいだと思うが、わずかに。
呼吸の限界がやってきてもう一度水面に顔を出した、ここは暗い、気を抜けば飲み込まれてしまいそうに。
そんな中で朧さんの顔が見えたのはあのキュアの光のおかげだ…おかげ、というのも変かもしれない、確実に彼を変質させている光なのに。
だが頼りのその光も失せ、道しるべすらなくなったこの暗い空間で私はただ呆然とするだけで。
行ってしまった、深く暗い水の底へ、なにもできなかった、気圧されてしまった、見ることしか出来なかった。
その絶望感ときたら。
気力がすべて持っていかれてしまった、はは、さっきまでの気合はどこへやら。
脳みそに話しかけてくる謎の人物も消えてしまったし、さて……
なるべく、深く考えないようにする、元の世界にいたときのように、日々をなんとなく過ごしたように。
そういえば、桜子さんが作中で言っていた、「心を半分地べたに捨てて、ただ前を見る」と。
私にもできるだろうか、そんな器用なことが。
息は出来る、声は出る。
「……――が、ああああああああああぁッ!!」
リン、と空間に残響が広がる。
涙もついでに出しておく、ここから先必要の無いものは、すべて捨てていく。
無力感も、悲しみも、心の弱さも。
「ふっ……ふっ、はぁ、げほっ…あ゛ぁ゛」
数分ほど浅く呼吸を続ける、酸素が薄い、完全な密閉ではないだろうが…
よろよろと立ち上がる、地面としているのは積み重なって動かなくなった死体たち。
上を目指せば、外へ出られるだろうか、頭が痛い。
どのぐらい高いだろう、距離がまったくつかめない、手を伸ばせば届きそうな気がしたがそうではない。
「……探さなきゃ」
何を? 誰を? 朧さん? 声の主?
自分でも見当の付かない独り言が湧き出てくる。
私にはやらなくちゃならないことがあるんだ、まずは桜子さんを安心させなければ、そしてリコと会うんだ。
朧さんにはこの先で会える…もう、こうなっては取り返しがつきそうもない。
あてどもなく探してPSYREN世界で迷子になるよりも現代で未来の修正をしよう。
宣戦の儀はどうなっただろう、あそこにリコはいるだろうか、それとも敵勢力に奪われてしまっただろうか。
遠くでなにかの音が聞こえた、それとともに光が、いっそ眩しいような気さえした。
それを頼りに水に濡れながらも進んでいく、頭が痛い、瞼が重い。
天井に大穴が開いていた、漏れ出していたのは外の光だ、上から舞ってきたのだろう砂塵がきらきらと光っていた。
ここから出られるかな…ライズを使っても私じゃ飛び越す事は難しそうだ。
かといって足場になるようなものはない、触手で上まで届くかもしれないが、脳みそが耐えられるかどうか。
いやそんなことを言っている場合じゃない、とにかく外へ出なくちゃ。
と、触手を出しかけたその時、向かってくる足音に気付いた。
地上から数百人の軍隊が走ってくるようなたくさんの足音、人…なのか?
馬の蹄の音にも似ている、とにかくたくさん聞こえる、ここまで来る。
「誰か、そこにいる!?」
女の子の声だ、逆光で姿はこちらから見ることはできない。
影だけで判断はできないが、なにかムカデのような生き物に乗っているようだ。
それがするするとこちらまで下りてきた、咄嗟に身構える。
「まって、すぐそっちに行くから」
幼さが残る声音、姿が近づくにつれてはっきりと見えるようになった。
「リコ…?」
見慣れた額のキズ、胸元には天の字が光る。
私がそう言うと、女の子は目を見開いたあと笑った。
「満月!!」
「う、わ、ぁあっ!」
ばしゃん、ってなるよね、うん。
また鼻に水が……痛い。
「ご! ごめんね満月! 大丈夫!?」
「げほっ…だ、だいじょうぶ……ほんとにリコなんだよね?」
「……うん、久しぶり…満月」
強く握られた手がこれまでの年月を物語っているようで、すこし苦しい。
原作でよく見たエルモア・ウッドの衣装を纏ったリコ、間違いなく私が未来を変えたという証拠。
大きくなった…成長した、心なしか雰囲気も違っている。
「…よく我慢したね、リコ」
「満月…!」
ぎゅうっと手を握るよりさらに強い力で抱きしめられる。
身長は私より低いくらい、年相応だろう…いやこの年でそれくらいなら追い越される…?
「私、私ね…満月がいなくなってから…ずっと探しに行きたいと思ってたんだよ、でも約束守らなくちゃって、ずっと……」
「ありがとね、リコ。帰って来たよ…ただいま」
「おかえり…! おかえり満月…!!」
そうだ、リコが外から来たなら朧さんの姿を見ていないだろうか。
もしかするとまだ追いつくかもしれない。
「ねえリコ! ここに来る時誰か見なかった? 髪の長い人なんだけど、怪我もしてるし早く見つけたいの」
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