腐っても時渡り
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――――……どこだ、ここ。
とりあえず、天国ってことはなさそうだ……
こんな現実的な天国があってたまるか。
「おはよう。満月」
「…桜子、さん……?」
んん? 記憶が…こんがらがって……
隣には何事もないかのように眠るアゲハがいる、あ…ああ、ここ病院か。
生き残れたみたい……よかったなあ…うん。
実感が湧かないなあ、不思議だ、他人事のようだ。
「私……どうなったの?」
「覚えてないの?」
「あ…はあ…まったくってぐらい……ごめんなさい」
でもこうして生きてるってことは、誰かに助け出されたってことか、な?
毎度のことながら申し訳ないなあ……
「子供たちから聞いた話だと、あなたが怪我して歩いてきたって」
「え…?」
「それも覚えてないみたいね……意識が朦朧としてたみたいだし、仕方ないけど」
ライズを発動したところまでは覚えているが、どっちに行ったかまでは覚えてない。
話が本当ならまったく逆方向だったらしい、ツイているのかいないのか。
結局弥勒は取り逃がしてしまったか……予想はしてたけど悔しい。
「…満月!」
うぐふっ! リコ、そう飛び掛られると傷に響く……
「リコ…おはよう、大丈夫だった?」
「その子にお礼を言ったほうがいいわよ、ケガ人のあなたたちをここまで運んだのは彼女なんだから」
「え、マジですか。リコ?」
「わたしじゃないよ、まじんだよ、ビュンビュンまじんだよ」
ビ、ビュンビュンまじん、て……ちょっと、イメージが。
飛ぶ? 飛ぶの…?
「その子が無理してPSIを発動し続けたのよ、でもおかげで素早い処置ができたってお医者さんが言ってたわ」
「そうなんだ…ありがとうリコ。がんばったね」
「うににー」
よしよしなでなで、ほんとうはギューってしたいけど傷にさわるから。
自然治癒力を上げるためにもライズを発動し続けてたほうがいいんだろうか。
「桜子さんも、迷惑かけてごめんなさい」
「いいのよ……生きててよかったわ、満月」
…うう、かわいい。
あれからどのくらい経ったんだろう、アゲハが目を覚ます前に出ていった方がいいかな。
「動け…るな、じゃあ桜子さん、私ちょっと散歩してくるから」
「え?」
「リコ、みんなの部屋わかる?」
「うんわかるよ、こっち!」
「なら行こうか、ごゆっくり、桜子さん」
あとは若い人たちに任せて……というやつです。
にゃはは、それにしてもお腹すいたなあ。
ぶっちゃけ歩けるかもわからなかったが、こうして立ち上がっても問題なさそうだから大丈夫…かな?
「ここだよ!」
「なんだ…隣じゃん、みんなおはよー」
「満月さん…怪我は平気なんですか?」
「うん、まだちょっと痛むけどね、でもこんだけ治れば十分……ヴァンくんは大丈夫?」
「平気よ、今もぐっすり寝てるわ」
そうか…よかった。
私のせいで脳を使いすぎてると思ってたから、平気ならいいんだ、うん。
……そうだ、もしかしたら死んでたかも…ババ様がいる限りそれはないと思うけど……
リコだってまだ慣れてない長時間の発動で苦しかっただろうに、私ときたら!
「やっぱりだめだ! お願いだからぎゅっとさせて!」
「うにー満月くるしいよー、ぎゅー」
「ここまで来てやることがそれなの? 用が無いならさっさと自分のベッドに帰りなさいよ」
「フーちゃん、心配してくれてるの?」
「そ、そんなわけないでしょ!? どう聞けばそうなるのよ!」
あはぁかわいいなあフーちゃん、マリーもかわいい、できるならここにいる全員を抱きしめたいのだが。
カイルはまだ目覚めてないみたい、ヴァンくんもしかりなので、後日にしよう。
「マリー、ババ様は?」
「中庭か…テラスにいると思います、ババ様ちょっと落ち込んでるみたいで…」
「そうなんだ…じゃあそっとしておいたほうがいいかな」
そんな話をしていると、病室の扉がそっと開いた、桜子さんが開けたようだった。
桜子さんは無言で手招きをする、多分、今回のことでの情報交換だろう。
「ちょっと行ってくる、リコ、ここで大人しく待ってられるよね?」
「うん!」
ならば、すぐにでも行こうかね。
桜子さんとアゲハは迷いなく屋上へと続く道を歩く。
私が説明しなくちゃならないのはリコのことと…弥勒と戦ったこと。
説明しろと言われると難しいんだけどね…あ、未来の情報ってどこまで許されるんだろ?
なんなら洗いざらい白状してもいい、来るはずの未来、来ないかもしれない未来も。
気持ち悪いと思われるかな…感謝はされないかもしれない、信じてくれないとも思う。
もしかしたら頭がおかしくなったと思われるかも。
それは怖いな……なにせ証拠もなにもないわけだし、現状が現状だけにそれが一番可能性が高い。
でも話しておかなければいつかどうせ疑われることになる…どうするか。
「ここなら誰もいないわ」
アゲハがこれまでのことを詳しく話した、どういう経緯で弥勒を突き止めたか、弥勒となにを話したのか。
ここ意外と風強いな…飛んでいったらひとたまりもなさそう。
「天戯弥勒…! その男はワイズを結成したのは自分だと、あなたに答えたのね」
「ああそうだ、確かめる方法がある、ホラ…オレ達が未来世界で見つけたカブトのオジキが撮ったDVDだよ」
あの宣戦の儀……あれで私の変えようとした未来が成功しているかわかる。
でもその前にこれだけは話しておかなくちゃいけないんだ。
私のこと、これからを。
「満月……聞きたいことは山ほどあるけど、まず出かけてから何があったの?」
「それはあとで説明する……その前に、話しておきたいことが……――っ!?」
キィ――――――――…ン
なんだ、これ、? 耳鳴りか?
頭の奥で痛いほどに鳴り響く高音が、まるでこれから言おうとしている事を妨害しているようだった。
「あうっ…!!」
この痛み、そうだ、呼び出しのベルが鳴ったときと似ている。
「満月…!? どうしたんだ!?」
「どういうこと…? あなたは何を話そうとしてるの…!?」
「う、ぐ……!」
ガンガンと強くなる音に思わず耳をふさぐ、一体なにが起こってる!? なぜこんなことになってる!?
この先の改変された未来はネメシスQだって知らないはずだ、それにペナルティなら心臓のはずだろう!
津波のように襲い掛かる高音に周りの音さえ聞こえなくなり、私はその場で意識を手放すほかなかった。
――あれほど五月蠅く鳴いていた音が水を打ったかのように静かになった、私は気付けば薄暗い空間でただよっていた。
水を打ったかのよう…というより、水の中にいたみたい、意識はぼんやりしている、それに水の中で浮かんでいることになんの疑問もなかった。
……夢か、めずらしい、私が夢を夢と認識するのはめったにない。
呼吸はできるようだ、服も着ている、すこし、圧迫感がある気がする。
話してはいけない
どこかからそんな声が聞こえた、どこにも人影はない。
頭の中に直接響くような声に質問しようと口を動かすが声は出ない。
確定していない未来を話す事は許されていない
どういうことだ? 確定していない未来…?
私がしっている、漫画の世界の未来ということか?
それを知っているあなたは誰?
わたし は
水音でそのあとの言葉は聞こえなかった。
何かにひびが入る音がして私の意識はまた白く染まっていった。
再び目が覚めたとき、私はベッドの中にいた。
なんだったんださっきのは……姿は見えないし場所すらわからないし。
ただ名前を言おうとしていたのはわかるが…それも聞こえなかった。
タイミングよすぎだろ……いや夢らしくていいけどね、でももうちょっと都合よくてもいいと思うぞ。
桜子さんはどこに行ったんだろう、この部屋にはいないみたいだ。
もしかして先に帰っちゃったのかな? 私も宣戦の儀DVD見たいのに。
「……桜子さーん…」
…と、とりあえず着替えよう、多分服はあるはず。
「満月」
「あっ…さ、桜子さん! よかった、置いていかれたかと…」
「そんなわけないでしょう、みんなに連絡するのに外へ出てただけよ、それより……」
「あ。えーと……あの、なんか、詳しく話しちゃいけないみたい、です……ごめんなさい」
これは言ってもいいんだよね……あれはネメシスQでもなければその主でもない、なにがルールに引っかかるやら。
脳みそ破壊されて死ぬなんて私嫌だぞ。
「なぜかしら……私達も同じサイレンドリフトなのに…なにか思い当たる原因はある?」
「全然……私が知ってることは話せないとだけしか」
「もしかすると、記憶喪失に関係があるのかもしれないわ、他のサイキッカーから催眠をかけられてるとか……」
ああそうだ、便利だなあその設定。
その線でいこう、それが私も納得できる。
……あれ、それだとあれは…?
「…桜子さんは、最初に会った時私の頭の中を覗いてるんですよね?」
記憶喪失、と断定した時桜子さんは私の記憶を読んでる、そのときになにか細工された形跡を見たはずだ。
「ええ…あなたには言ってなかったけど、確かにノイズが混じりすぎていたし、どこかおかしいところがあったわ」
でも今さっきのことで納得がいった、と桜子さんは続けた。
私の頭の中になにか違うものが組み込まれていることは確からしい……そう考えると気持ち悪い。
「その件については後々調べることにしましょう」
ひとまず家に戻って宣戦の儀を確認しなくちゃ、着替えも終わってあらかた片付けた、ありがとうございましたと。
おおっと、その前にみんなに挨拶していかないと、待っててって言ったもんな。
リコのことだ、大人しく待っていることだろう…置いていくのは心苦しいがこれも試練……私が子離れするためだ。
「リコ」
「満月ー!」
「リコ、ごめんね、私もう家に帰らなくちゃいけないの…」
「……もう?」
子離れ……子離れだ……!
「リコとはずっと友達だからね…! ずっとだよ…!!」
「…うん、すぐ帰ってきてね満月。ゆびきりしよ」
すっと出されるちいさな小指に私の小指を絡ませて、指きりと呪いの言葉を唱える。
……間違ってはいないよね、おまじないだから。
また未来で会える、信じてるよ。
「行きましょう」
「はい、桜子さん……じゃあね、リコ、みんな」
桜子さんの家に戻った後、私はひとり部屋に篭ってこれまでの記憶のバックアップをとった。
ついでにこの先の情報をもう一度見て再確認、これでよし。
私にはこの記憶は読めるけど…桜子さんやマツリ先生には見えないのだろうか。
もし見れたとして、見られてしまったらまたあの耳鳴りがくるのか?
「…わからないな」
これは困った、どうすればいいんだ私は。
困る前にエルモアさんの飛行機事故を回避する方法を考えた方がいいか。
リコをこちらが確保したことで未来がかなり変わっているはずだ、そのしわ寄せはここに繋がるかもしれない。
「満月、はじめるわよ」
場面は宣戦の儀を開始したところから…どうなる。
ゴーグルをつけ、目元にタトゥーを入れた姿で弥勒は現れた、ここまでは同じ。
後ろの二人、ジュナスとドルキさんだろう、凶悪な面構えだ。
『――全てが終わる? 何を言ってる、この宣戦の儀で全てが始まるんだ』
……そんな。
うそ、うそだ、そんなはずがない、うそだよ。
「カイル達はあの力を一度見ているんだ!! カイル達がやられるワケがねえ!」
「…満月……私の見間違いだといいんだけれど…」
「リコ…」
リコがいない。
ちがう、カメラのアングルがたまたま悪いだけだよ、きっとそうに決まってる。
この場にリコがいないなんてことがない、ないんだろう?
それなのにどれだけ映像が進もうがリコの姿は影も見られない、どうしていないの?
置いていかれたのか、どこかでみんなの帰りを待っているのか、それとも…………
映像は私が見たままの光景を映して途切れた、ひとかけらもリコの存在がないまま。
考えたくは無い、まさかW.I.S.E の仲間になっているなんてことは…短い期間で善悪くらいは教えられたはずだ、ないと信じてる。
そうでないなら…
「……死…?」
私の目には砂嵐のテレビ画面しか映らず、耳にはあの耳鳴りがまだ監視するように残っていた。
あいつらによって連れ去られたか、隠れているか、死んでしまったか…どの可能性も限りなく高い。
そんなの嫌だ、未来で会えると思ったのに、またあの笑顔が見れると思ったのに。
そんなの嫌だ!!
「リコ…ッ!!」
「満月!? 待って!」
桜子さんの制止を無視し、荷物を持って外へ出る。
タクシーをつかまえて伊豆まで大急ぎで頼んだ、今はもう家に戻ってるはずだ。
あんな未来にさせたくない、なんのために私は動いたんだ、あんな未来にしてたまるか。
こぼれそうな涙を必死に抑えて、ただ強く拳を握った。
