腐っても時渡り
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「あきたー!」
私はいま秋田にいます、飽きたわけではない。
秋田県の地図を広げて、行き先を確認した。
火ノ間市……ここか、結構な山の中だ。
この頃はまだなにも起こってない…はず。
はるかぜ学園、実験体にされる前の天戯弥勒がここにいたと言っていた。
私の目的はミロクの情報なんかじゃなく、後のカプリコだ。
「よっこい…しょ」
木の上に登り、施設を上から確認する。
外に人はいない…すぐに隠れれば気付かれずに済みそうだ。
いい匂いがする、今は飯時なのかな、そういえばもうお昼だ、おなかすいた。
ではそろそろ行くか、とライズを発動した。
手には少ないながらおみやげを持って、気に入ってくれるだろうか。
ご飯を食べ終わったのか、子供たちが遊びまわる声がした、幸いここと反対の方向に遊具があるらしい。
小さな小屋の窓をそっと覗く、いた、閉じ込められてるのかな。
鍵がかけられてるらしい扉を、バーストを使いそっと開く。
「…お姉ちゃん、悪い人?」
額に傷のある女の子だ、私は怪しまれないようににっこり笑って挨拶した。
「こんにちわ、君はここの子だよね? 名前は? 私は星崎満月」
「わたしは八星理子。ねーお姉ちゃん悪い人?」
「ちがうよ、私はは理子ちゃんを探してここに来たんだ。これあげる」
「うに?」
理子ちゃんは私の渡した袋をがさがさと開けて目を輝かせた。
「うおー! スケッチブックだ! 色えんぴつだ!」
「気に入ってくれたかな」
って、聞いてないし。
でも気に入ってくれたようだ、理子ちゃんは何かに取り付かれたようにスケッチブックに絵を描いていく。
私はそれをじっと眺める、かわいいなあ。
鼻唄まじりに飛び出した角の生えたうさぎ? はピョンピョン跳ねてしばらくすると消えた。
「おっおー」
「すごいねえ」
「ねー、満月はわたしをここに閉じ込める?」
「閉じ込めないよ、理子ちゃんを助けに来たんだから」
「うに…」
「誰だ! そこでなにを…!」
うぬ、見つかったか。
まあいい好都合だ、このまま施設の中を案内してもらおう。
…なんて悪党みたいなセリフを思い浮かべながらPSIを発動させた。
「糸繰り人形<ドール・ドール>…理子ちゃん、ちょっとこの人とお話ししてくるからここにいてくれるかな? すぐ戻ってくるよ」
「うん!」
ぎこちなく動くおじさんと一緒に施設の中に戻る、まだ上手く動かせないな……
この人は施設の人だろうか、一番偉い人だと尚いい。
途中ですれ違う職員と挨拶を交わし、廊下を進んでいく。
「理子ちゃんに関する全ての資料を出してください」
そして差し出されたいくつかの資料をカバンのなかに詰めた。
証拠隠滅はこれで完了するとして……あとは他の人たちだ。
ドール・ドールを解除して今度はトランスで頭の中に進入する、やはり、この人は館長らしい。
理子ちゃんに関する記憶を探してそれを外へ排出する。
……理由はどうあれ、閉じ込めるのは感心しない、キラキラ光る糸状の記憶たちを粉々に砕いて捨てた。
これはトランスの応用版、元々私が記憶のバックアップを取っておくためのPSIだ。
バックアップとして取り出した記憶は別の媒体で保存してある、漫画の内容を忘れたら困るしね。
失敗すると危険だろうしあまり使いたくないけど、今回は仕方ない。
さて、今度は他の職員の記憶を消さないと。
「――ただいま理子ちゃん」
私がいない間になにを描いたのか…よくわからないけど小屋の中は半壊滅状態だった。
「理子ちゃん、私といっしょにここを出ようか」
「うに? どこに?」
「理子ちゃんと同じ力を持ってる子のいるところだよ、そこなら閉じ込められないし絵も描いて良い、行く?」
「うん、満月がいっしょならついてく」
悪いねジュナス、理子ちゃんは私がもらっていく。
理子ちゃんを抱えて正面の門から堂々と出て行く、そうだ、エルモアさんに連絡しないと。
「おっおー! はやー!」
次の便まで時間はある、ご飯を食べがてらゆっくりするか。
まだ危険が去ったわけじゃない…一応、手を打っておこう。
うう、頭が痛い、今日はPSIを使いすぎた……
「…ねえ、これから私のためだけに絵を描いてって言ったら、理子ちゃんは私のこと嫌いになる?」
「なんで? ならないよ、スケッチブックくれたもん。満月はわたしの友達一号だよ」
「ありがとう…! うれしいよ理子ちゃん!」
うう、ごめんね理子ちゃん…まるで利用してるみたいで心が痛いよ。
ぎゅううーっと抱きしめる姿はまるで生き別れた姉妹の再会に見えなくも無い。
ではでは、これから天樹院家に参ろうかね。
「うおうおー、おっきな家だー」
「おおきいねーきれいだねー」
長時間の移動で眠たそうだった理子ちゃんも興奮して目が覚めたようだ。
かわいい、かわいいぞ理子ちゃん…うひ、これから会う子たちも楽しみだ。
「こんにちわ」
「こんにちわー!」
「おお、来たかね、さあさお上がり、長旅で疲れたろう」
「おじゃまします」
「おじゃましまーす」
「ひょっひょ、仲がええこった」
エルモアさんは思ったより小さくて、子供たちは思ったより大きくて。
ふああ…なんちゅう天国じゃ……!
この中じゃ理子ちゃんが一番年下なのかな。
「しょーかしょーか、あんたあの子らの知り合いかね」
「ええ、夜科くんがここでお世話になったと聞きまして」
「うあ?」
「うに」
「うーあー」
「うーにー!」
…あれは、意気投合してるのか?
「ほほう、そんで、ワシに話ってなんじゃ?」
「実は、理子ちゃんをここで預かってほしくて来ました、あの子に力の使い方を教えてほしいんです」
「まあそんなこったろうと思ったよ、お前さんはあの子とどういう関係だい?」
「友達です」
「……ま、ええか、わかった、あの子はここで預かろう」
「あ、それともうひとつ……」
なんじゃ、とエルモアさんが尋ねる、理子ちゃんのついでに。
「私もここで数日お世話になろうかと……だめですか?」
いつもならこんな不躾なお願いはできないが、今日だけ特別ということにしておいてくれ。
エルモアさんはあっけにとられたような顔をして、ぶははと大笑いした。
「ええよ。じゃがタダでとは言わん…存分に働いてもらうぞ」
「はい! めいっぱい働かせてください!」
桜子さんのところでやってることは変わらないだろう、きっと。
「理子ちゃん、ここに住んでいいって。お礼言わないと」
「ありがとしわくちゃのバーちゃん!」
「こ、コラ!」
「カカカ、ええてええて、ここにいる間はババ様とお呼び、あんたもな」
「え、あ…はい、ありがとうございます」
「ほんじゃまここにいる子供たちを紹介しようかね、おいでヴァン」
「うー」
う……おお…!!
「みんなかわいい…!!」
「なによアンタ馴れ馴れしいわね」
「いやいや皆さん素晴らしい容姿をお持ちで、と言えばよいでしょーか」
単に容姿だけではない、その性格、PSIのバランス…全てが美しい……
まあ後半は今のところ私しか知っていないことなのですけれど。
「あったりまえよ! わたしに対してタメ口なんて失礼にもほどがあるわ!」
「フーちゃん…初めての人なのに失礼だよ…」
「なによマリー! 口ごたえする気!?」
「ちょちょ、いいから! 私気にしてないから!」
「…うにに……」
「なー、お前ソレなに持ってるんだ?」
理子ちゃんはスケッチブックをカイルに向けると、そこから巨大なかたつむりを出現させた。
目玉がたくさんぎょろぎょろ……よく思いつくなあ。
「どわぁ!?」
「べーだ! えんがちょ!」
「な…! こら理子! ダメでしょそういうことしたら!!」
「…やだ! べー!」
げえっ! なぜ逃げる!?
なんなんだいきなり…なにか気に障るようなことしたのか…?
理子ちゃんて人見知りする子なのかな…
「気持ち悪ぃ~!! なんとかしてくれぇ!」
「カイルくん!」
「なんなのよアイツゥ…!」
「うひいぃいぃ……っ! あっ…消えた…?」
「ご、ごめんねみんな……あとでちゃんと言っておくから…」
どこに行ったんだろ…はやく見つけなきゃ…暗くなるし。
「いいんじゃないのか?」
「…え?」
「そうよ放っておきなさいあんなヤツ! このフレデリカ様に逆らうなんて良い度胸だわ!」
「ただヘソを曲げてるだけだ…しばらくすれば機嫌も直るさ」
そ、そうなのか…? でもシャオくんが言ってるならそうなんだろうな……
いやいや、でももうご飯の時間だし、一人にはしておけない。
いままでずっと一人だったんだから……
「いや、探してくるよ、みんなあとでね!」
今にして思えば、自分の状況と重ね合わせてたのかもしれない。
広いところで一人はさみしいし、こわい、ましてや子供なんだ、それは何倍何十倍にもなる。
せっかく解放されたのに同じ境遇じゃあ救われないだろ!
「どうじゃシャオ」
「…額に傷のある方は歩き始めた子犬……女の人の方は…首輪の付いた銀狼」
「しょーかしょーか、信用はできそうじゃの」
「なーなーババさま、これ返してきた方がいいか?」
数分ほど探して、ようやく庭の片隅にいるのを見つけた。
よかった…ここから出てたらどうしようかと思ったよ。
「理子ちゃん!」
「満月?」
「もう、どこ行ったかと思った、心配したんだからね!」
「……うに」
「…………まあいいか、よかった。みんなのとこに帰ろう?」
そう言うと、理子ちゃんはぶんぶんと首を振る。
な、なんだと…どうしろっていうんだ。
「おっ、いたいた、おーい!」
カイルの声がした、手になにか持ってるようだ。
「これ、お前のだろ?」
「わたしのスケッチブック…」
「ああそっか、さっきので置いてきてたんだね…よかったね理子ちゃん」
「…別に気にしなくていいと思うぜ? 誰にもとられやしねーよ」
…………? なんのはなし?
「…ほんとに?」
「だいたい、お前のためにここに連れてきたんだろ、これからもコイツはずっとお前のためにいるさ」
え……? なに、私の話なの? おねーさんちょっとわからないよ?
「大好きな人がとられると思ったんだよ」
「しゃ、シャオくん…?」
「ここに来る子供たちはみんな見放された…愛に飢えてるやつらばかりさ、それが直感的にわかったんだろ」
「あ…あぁ……それで取られるとかなんとか…なに理子ちゃん、そんなこと考えてたの」
「だって、満月はわたしの友達だもん……」
そ、そんな、不安そうにスケッチブック抱きしめないでください……!!
この腹の底から湧き上がる感情…どう抑えればいいんだ!
「かあわいいいなああああ!! もう!」
「うお、うお、くるしいぃ」
「…私はずっと理子ちゃんの友達一号だよ、そうでしょ?」
「……うん」
「それでも不安ならさ! みんなと友達になればいいじゃん! お友達の輪百人でお山の上でおにぎりほおばればいいんだよ、ね!」
「う…うおー! 満月あたまいい!」
「そういう理屈かよ」
「大体ここは百人もいないしな」
なーんだそんなことだったのかぁ、安心した。
まーまーよくあるよくある、早めにわかってよかった。
理子ちゃんがここに馴れるまでは気をつけておこう……
「お前達なにしとるんじゃ、夕飯の時間じゃぞい!」
「いっけね、もうそんな時間かよ!」
「だから呼びに行けって言われたんだよ」
「そっかありがと。さ、行こうか理子ちゃん」
「うん!」
さーみんなあの夕日に向かって走るぞー! ってまだ日沈んでないけどね。
