腐っても時渡り
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潜り込ませるにはまだ太い、ただの紐。
「たたかう、つもりか」
「もちろんだ…!!」
まだ太くて使い物にならないから、それは触手へ変える。
相手を絡めとってぎちぎちに固める。
「こんなもので、かったきでいるのか?」
触手の拘束はすぐに解かれた。
そんな気はない、ただこうして広い場所に出るために時間が欲しかっただけ。
もっと細く、もっと相手に見えなくする。
「いただき!」
修行の始めはイメージから、私のイメージは相手を自在に操ること。
その前に、相手に気付かれたら意味が無い、有線トランスのようにバーストで防がれたら警戒されてチャンスはなくなる。
だから触手を細くする段階から始めた。
裁縫箱から取り出した糸を針に通して私だけのトランスワイヤーを作る、最初のイメージ。
最初の内は眺めるだけ、眺めて眺めて、目を閉じてそれが詳細まで思い出せるまで眺める。
幻覚が見えはじめてそれが本物になるまでが具現化能力だと別の漫画で読んだ。
だから眺める、触る、出してみる。
機械は操れたから、トランス自体は問題ない。
結局時間が足りなくてまだ太いままだけど、今回はこれでいい。
「…これでいい」
「なにが、いいんだ?」
相手の爪が目の前で止まっていた。
「いつ仕込んだか、わかる?」
動きたくても動けないのは辛いだろう、私もそうだった。
こんなものに私が怯えていたなんて……
私は力を手に入れた、私は戦える、私はこいつを倒せる。
「触手で拘束したときだよ」
両手を広げる、指先から出る紐はそいつの体をがんじがらめにしている。
「なにをする!」
「人形劇」
指先を動かして、真っ黒の衣装の下のまるい核を露わにさせる。
そして、長い爪を核の上までなぞらせた。
「あなたの神経をジャックした…お人形さん、お名前は?」
「う、ぐ」
「名前を聞かせてくださいな」
「ベ、オ、ル」
よくできました。
「糸繰り人形<ドール・ドール>」
長い爪を振り上げて、勢いよく核へ突き立てた。
ベオルはうめき声もあげずに倒れて灰になり、霧散した。
「ありがとうベオル、おやすみなさい」
貴方のお陰で迷いを殺すことが出来た。
ああ、頭が痛い…
ありとあらゆるところから血が出てる……鼻、背中、手のひら、膝。
ボロボロじゃんな、ダメだ私。
桜子さんみたいにスタイリッシュに戦えないわ、でも。
「私らしい」
ボロボロでダメダメでギリギリの戦闘スタイルなんて、今の私に相応しい。
――人はそれを開き直りと呼ぶ。
「満月! 無事なの!?」
桜子さんが駆け寄ってくる、私はそれにピースサインで答えた。
あはは、体中が痛いです。
「桜子さんこそ、大丈夫だった?」
「私は平気よ…それより、あなたは治療しないと」
私の体を支えようとする桜子さんに、一人で歩けるからと待ったをかけてゆっくりと立ち上がる。
だってその制服に血がついちゃうでしょう、幸い足はふらついてない。
歩き始めてすぐ、ヒリューのものであろうドラゴンの尻尾が見え始めた。
「あっちに朝河君がいるわ」
「うん…行こう」
桜子さんのあとを追いかけて走る。
ヒリューたちと合流できた後、朧さんにすこしだけ治療してもらってあとはカブトとアゲハを探すことになった。
一定間隔で聞こえる爆音の向こうに彼らはいるのだろう、まずはそこを目指す。
…まだ改良が必要だ、もっと細く、もっと鋭利に。
それから、これ以外にも直接攻撃ができるPSIを作って……。
この、アゲハとドルキさんの勝負の決着がつくまでになにか考えておこう。
巨大なPSIの力を感じた、その力は膨らんで膨らんで、とても対処しきれないような大きさになる。
ドルキさんの本気か……いやでも、これで下っ端だから手に負えん。
「こっちまで飛んで来る! 避けて!!」
その閃光が辺り一面を爆発させていく、しかしまだ方向がわかりやすいから助かる。
「これがあの男の力か、全てを破壊するつもりだぞ」
「まるで戦艦だな…!!」
「あのドルキという男が…本気で闘っている…!!」
冷静なアゲハに対してドルキさんは激昂しすぎだ、勝負はすでにこの時点で決まってたらしい。
なるほど、爆発っていうのも……私には難しそうだからやめておこう。
近接武器に限定するなら、本命の糸を隠せるような、囮になりそうな派手な武器がいい。
今この瞬間発動できるバーストは触手くらいしかないし、どうせだからそれを生かせるものにしよう。
空に黒い流星が煌いた。
全てを飲み込む暴王、喰らわれた破壊の象徴はバラバラに崩壊した。
うう…かっこいい……!
夜科さんまじかっけーっす、見習いたいっす!
「――あ、すみません申し遅れました。W.I.S.E 第三星将 シャイナと申します、よろしく」
突如として現れた只者ではない雰囲気の若い男。
シャイナと丁寧に名乗ってる割に、言葉の端にトゲがちくちく生えてる。
はあぁ…!
「…ウサ耳……!」
うっかり出た言葉は風の音でかき消されたようだった、よかった。
瞬間移動とは本当に瞬間的に移動することなんだな、と理解した。
本物のテレポートを初めて見たよ、感動、でもシャイナと戦うことを考えたら怖くてしょうがない。
もし腕だけ部分的に転送されたら……うう。
「W.I.S.E に逆らうレジスタンス達…今回、あなた達は本当に運が良かった」
ええ本当に。
「次お会いする時は次元の違いを見せられるよう取計らいますので」
そう言い残して、払拭しきれない気味の悪さを植えつけて消えていった。
……次、会えるならね。
「消えた…」
「行きましょう!」
桜子さん達は急いでアゲハ達の元へ走る。
まじでかっこよかった、ドルキさんといい、アゲハといい…本当に。
カブトぉ! よくがんばったねえ!!
「みんな無事か」
「ええ、ヤツの部下も心配ないわ」
「早くここから移動しよう、敵がどんどん集まってくる」
周りを見てみるが、今のところ心配なさそうだ。
ゲートまで無事に辿り着けそうという意味。
「ゲートへ向かいましょう」
一同ゴール地点の方向へ、ううむ、ここどうしよう……
次の召集で場所がバレてしまうならできるかぎりゲートをその場から離したい。
でも、それってネメシスQ…というかあの人が許してくれるだろうか。
「あった! あれだ」
そこは文字通りゴミの山、でも臭いなどは無く、ただ積み上げられた廃棄物の塊だった。
そのてっぺんに公衆電話らしきものがあった。
「……」
「ん…? どうしたんだ満月?」
「大丈夫だ、新しい追っ手は来ていない」
緑色の今はもう見慣れたそれをずっと眺める。
言おうか言うまいか、どこまでが平気でどこからがダメなのか。
…………いずれにせよ罠を張られて分断されるなら、いっそ言わないほうが得策か。
「…ううん、なんでもない」
「じゃあ――帰りましょう、私達の現代へ」
三回目のゲームが終了した。全員無事に帰還できた。
となれば、次の行動は早いほうがいい。
「朧さん、エルモアさんの連絡先を知ってたら教えてもらえますか?」
「いいけど…なにをするつもりだい?」
「えーと、ちょっと…聞いてみたいことがあって」
エルモアさんの連絡先を教えてもらい、手順は整った。
あとは長距離移動のアシだ……
「じゃあ僕は仕事に戻らなくちゃ」
「満月、私達も家に帰りましょ」
「うん」
翌日、今回でボロボロになった服を捨て、他の汚れた服を洗濯してから掃除を開始した。
これが終わったら飛行機のチケットを予約しよう、そこからはライズで走ればいくらか節約できる。
…実はこっそり影虎さんにお仕事を紹介してもらっていて、事務員のようなお仕事をしている。
影虎さんにこの仕事を紹介してもらったとき、私はいきなり消える事があると伝えたが、それでもいいと言ってくれた。
なんでもマツリ先生によろしくお願いされたらしい、パソコン一つでできる仕事だし、感謝している。
そんなわけでしっかり仕事して貯金をして、今後の生活に不安を感じることは無い。
「桜子さん。ちょっと相談したいことが……」
「なに? 満月」
「その、しばらくここを空けようと思って」
「…なにかあったの?」
正直に話すか、それともごまかすか。
「…私の記憶を取り戻す手掛かりを探しに行きたいの。それで見覚えのある住所を尋ねてみる」
結局ごまかす方に決めた、疑われるか、信じてくれるか。
「そう……そういうことだったら、私のことは気にしないで」
「桜子さん…ありがとう」
「いいのよ。でも気を付けてね、いつどこで召集されるかわからないから」
了解です。でもしばらく召集がないことは知っている、安心して出かけることが出来そうだ。
そのまた翌日、荷物をまとめたカバンを持って玄関に向かう。
いけない、すこし急ごう、飛行機の時間が…
「じゃあ桜子さん、行ってきます」
「いってらっしゃい。記憶、取り戻せるといいわね」
「うん…桜子さんもいってらっしゃい」
「フフ、行ってきます」
今日は桜子さんも学校で、私はその前に出かけることにした。
季節はこれから七月に突入しようとしていた。
