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オリジナル2

森を歩きながら、柚子は少し前をちょこちょこ歩く仔犬に話しかける。
「精霊さん、大丈夫かな…怖がってなければ良いね」
『匂いはまだ遠いからどうだか分からないけど…精霊の気分はコロコロ変わるからな』
端から見れば、クンクン鳴いているだけの仔犬の声。
だが柚子にはきちんと言葉として認識出来る。
『…柚子、待て』
ぴたりと歩く足を止め、仔犬が柚子を見上げる。
『…気配がする。こんな近くにいたか?』
「え?ええと、更紗ちゃんの地図だとね」
柚子が取り出した手のひらほどの小さな紙には、周りの木々、道、そして柚子を表す矢印と精霊を表す星印がある。
柚子が体の向きを変えると地図と矢印がくるりと回る。
「まだ少し先のはずだけど」
『少し警戒した方がいい。もしかしたら、怯えてなんかいないかもしれない』
「う、うん大紙ちゃん、分かったよ」
柚子はそういうと腰の後ろに備えた魔法の要、ドラムに手を触れる。
パキン、と軽い金属音がドラムから響く。
柚子が緊張したからか、体の各所にあるネジが無機質な金属音を立ててゆっくり回る。
何が起こるかも分からない緊張の中を一歩ずつ、慎重に柚子は息を詰めて大紙の後ろから足を進める。
「…気を付けて、大紙ちゃん」
『…柚子もな』
手元の地図にあるポイント近くに大紙、柚子と足を踏み入れた、瞬間。
柚子と大紙の周りの空気が熱を帯び、圧力を増す。
『柚子、上!』
大紙の声に上を見上げた柚子の目に映ったのは、今にも柚子達を押し潰さんと浮かぶ火球。
「大紙ちゃん!」
柚子の手が急いで足元の大紙を抱き締める。
『離せ、柚子!オレが何とかする!柚子は早く逃げろ!』
「やだ!大紙ちゃんは火に弱いんだよ!大紙ちゃんは、絶対、柚子が守るの!」
しゃがみ込んだ柚子の片手、魔法を放つホーンが火球に向けられ、柚子の呪文と和音を成す様にそれぞれの金属音を立てる。
髪とリボンが風に煽られる様に激しく揺れる。
『…間に合わない!』
腕の中で大紙が一声、長く吠えた時。
柚子達を真白い光が包み、柚子はぎゅっと目を閉じて両手で大紙を抱き締めた。
一瞬の光の後。
「危ない、危ない」と雰囲気にそぐわない気楽な声が柚子の耳に入る。
今まであった熱が無くなった事に気付いた柚子が目を開けると、そこには大紙が柚子を守ろうと作り出した無数の白い紙で作られた丸い壁と、黒い袴姿に腰まである黒い髪、ひらひらと揺れる銀の尻尾。
「柚子殿は無茶をなさる…」
「…クロ…ちゃん?」
はらはらと散り始める紙の壁の後ろから聞こえた柚子声に見下ろしたその顔は黒い狐。
「主の姿を借りねば、あの火の玉は防げませぬでな」
いやはや全く、とクロの腕が空気を撫でると、飴の様に薄い紫色のものがキラキラと消え、同時にクロも人の姿から狐に戻る。
それを待っていた様に空から柚子を呼ぶ声がする。
体躯を大きく広げた風絽の背に乗った更紗だ。
「柚子、大丈夫?」
「更紗ちゃん」
「急に風絽が呼びに来たからびっくりしたわ」
ひらりと柚子の側に降りた更紗は柚子と大紙に怪我が無い事を確認すると小さく戻った風絽を再び空へ羽ばたかせる。
正確に精霊の居場所を見付けなければ、次への対応が出来ないのだ。
「柚子!クロ!」
「おお、これは主」
空を飛んだ更紗に遅れて走って駆け付けた刹那に狐はうやうやしく近寄る。
と同時に風絽の鳴き声が3人の耳に入る。
どうやら少し離れた場所に隠れている精霊を見付けたらしい。
「敵意を向けて来たと判断出来る以上、倒さなきゃいけない…先生に知らせるから、安全な場所まで戻りましょう」
更紗は小さなホルンで風絽に一時退却と情報伝達の指示を出し、3人は少し退いた場所で教師である白猫ブランの到着を待つ事にした。
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