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オリジナル2

授業は当たり前の科目に加えて魔法学、魔法薬学、魔法実技がある。
魔法学は学園一階の教室、魔法薬学は二階の特別室、実技は広い学園の中にある特別棟か庭園、もしくは街頭で実戦を兼ねて行われる。
街頭の場合、生徒は複数人でチームを組み、互いにフォローする体制で行われるが、やはり中には未熟な生徒もいる。
そんな時の為に失敗を見越した結界を張り、かつ戦いをフォロー出来るベテラン魔法使いが同行するのが、市街地に住む住民と学園との約束だった。
「実技苦手~」
「そんな事言うなら今日のメインは柚子にするニャよ?」
「ちょ、ちょっと待って!先生」
街の通りを歩きながら白いしなやかな体をひねる様にして少女を見るのは青と金の瞳の猫。
猫の後ろを並んで歩くのは制服を身につけた三人の少女。
1人は昨夜の夜更かしが祟ったのか、今朝も遅刻寸前で教室に滑り込んだ柚子。
丸く膨らむスカートの下にはバルーンスカート、シャツは袖と裾にレースを縫い付けている。
少し長めの前髪の左側に音符、右側にはなぜか六角レンチ型のネジを模した形の髪留めが付いている。
その後ろには門にいた黒猫に「更紗嬢」と呼ばれた清楚な少女と、もう一人、黒い手袋をした少女、刹那。
どうやらこの3人が今回のメンバーらしい。
「ブラン先生、今日の実技の場所はどこですか?この前みたいに行き過ぎない内に教えて下さい」
「ニャ!今日は西の森ニャ」
「了解しました」
眼鏡の少女はそう言うとてきぱきと背負うリュックからメモを出し、歩きながら森での定石の戦略を書き始める。
「流石だねぇ刹那ちゃん」
「全くニャ」
「刹那のメモがあるからいつも戦略を迷わず戦えて助かるわ」
柚子、ブラン、更紗と間を空けずに声が続く。
ペンの音と一緒に「書かなきゃ、自分の中で物事が何一つ整頓出来ないだけよ…更紗や柚子は聞くだけで分かるのに、全く、我ながら損な性分だわ」と少々困った様な刹那からの答えが返った時。
ぴたり、と猫の足が止まり、くるりと3人の方を向く。
そこは小さな森の様な、公園の様な場所。
「着いたニャ。ではまず結界を張るから待つニャ」
たどり着いた小さな門の前で白い猫、ブランは目を閉じると口の中でモゴモゴと何かを唱える。
ぱちり、と目が開いた、瞬間。
辺りの空気がかちん、と固まる様な感覚が3人に伝わる。
「では、今回の実習を説明するニャ。1回しか言わないニャ、良く聞くニャ」
背を正す刹那の後ろで、柚子がぽそぽそと更紗に呟く。
「…刹那ちゃんが全部メモるから柚子は覚えなくても大丈夫だよね?」
「ちょっと、柚子、いくら何でもそれは駄目だと」
「聞こえてるわよ柚子。完璧に覚えられないにしても、その努力はしてちょうだい」
「い・っ・か・い・し・か・言わないニャー!」
可愛い生徒、とは言うものの、雑談が過ぎたのか少々ご立腹気味に白猫が尻尾をぴしゃりと鳴らすと、3人は急いで猫に向き直る。
「対象は、森の中のどこかにいるニャ。元々はすぐそこの食堂のかまどの精ニャが、おかみさんの感謝が足りず少々ストレスが溜まってたみたいニャ」
基本的には鎮圧。
だが、抵抗が激しい、又は他に被害を与えると判断された場合は殲滅。
当たり前だが殲滅となれば生徒だけでは無理。
そんな時の為の引率である。
「ワタクシは殲滅と判断された時のみ助けるニャ。各々、くれぐれも注意を怠る事のニャい様に」
「はい」
3人は声を合わせ、各々の鍵を手にする。
柚子は音符の髪飾りを確かめる様に指で触れ、更紗はポケットからペンを右手に握り締める。刹那は森を見ながら履いている靴のつま先を軽く鳴らす。
「相変わらず刹那ちゃんの靴は可愛いねぇ。柚子も靴が良かったなぁ」
刹那の足元でしゃがみ込んだ柚子が笑う。
「あ、それを言うなら私だって柚子のオルゴールが良かったのに」
座り込んだ柚子の頭をぽんぽんと撫でながら更紗が言うと、刹那も更紗同様、足元の柚子を撫でながら言う。
「選べるものなら私は更紗のペンが良かったわ」
「みんな上手くいかないねぇ」
「今回の鎮圧のメインは柚子ニャ!は・や・く・行くニャー!」
痺れを切らした白猫が叫ぶと、3人は順番に森へ走り込む。
その顔は皆、れっきとした魔法少女のそれだった。
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