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オリジナル2

研修。
平たく言えばいつかの柚子の台詞の様に「1人で知らない場所に行く」という事だ。
それには「自分の持つ鍵を通して魔法の本質を追求」という意味の他に「必要ならば実戦を1人で、全く知らない土地で行う」という意味も含まれる。
勿論、生徒の出向先には必ず学園の教師陣と同等の魔法使いがいて、その土地での生徒への最低限のフォローや学園への定期的な連絡を担っているのだが、基本的に何があったとしても判断は生徒1人に全て任される。
そのせいだろう、生徒達からはあまり良く思われていない「試験」ではあるのだが、どうやら中には毎年数名、この無期限の一人旅を楽しむ者がいるらしい。
今、まさに出発を明日に控えて、何度目かの荷物の確認に余念のない柚子の様に。
刹那との待ち合わせは正門、時間は登校よりも少し早い。
駅への移動時間と、列車の時間を計算し、一番ゆとりを持てる待ち合わせ時間を選んだのだ。
「着替え、もしもの時のお薬、辞書…忘れ物なし!あ、目覚ましかけなきゃ!遅刻しちゃダメだもんね」
目覚まし時計の針を合わせながら柚子は思う。
不安はある。
初めて1人で、誰も自分を知らない場所へ行くのだから。
図書館であらかじめ自分が行く場所については調べたし、写真も見た。それでも、分からない事はまだまだある。
だが、期待もある。
どんな人がいるのか、どんな精霊がいるのか。
何を見て、何に触れて、何を知るのか。
ぱたん、と大きなカエルの絵がついたキャリーケースを閉じて柚子はベッドに入り、お気に入りのぬいぐるみを幾つも両手に抱きしめる。
「この子達ともしばらく会えないなぁ…連れてっちゃダメだよねぇ、やっぱり」
ぬいぐるみでいっぱいのベッドの中、柚子はまるで遠足前の子供の様にドキドキしている。
「ぬいぐるみ…1個なら入るかな?」
眠らなければならない時間ギリギリ、柚子はまたベッドから抜け出していた。
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