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オリジナル2

そう言うと老人はデスクに向かい、すい、と表面を撫でる。
と、どこから出て来たのかきちんと纏められた資料らしきものが2冊現れる。
「こっちが柚子、こっちが刹那のニャ」
軽々とソファからデスクに乗ったコットの手が資料を示すと、生徒2人は各々の資料に手を伸ばす。
「例年、口頭説明のみでは内容を飲み込めない生徒が必ず何人かいる事にワタクシが気付いたニャ。そこで、書面も用意してはどうかとワ・タ・ク・シ・が!提案したニャ」
ことさらに「ワタクシ」を強調しながら髭をぴん、と上向き、尻尾でパタパタとデスクを打ちながらコットが胸を張る。
「行き先は各々の鍵にちなんでワタクシが候補を選出、学園長に決定して頂いたニャ」
柚子は隣に立つ刹那の資料を覗き込み、自分の行き先と見比べる。
なるほど、柚子の行き先は名高いオルゴール職人を多く輩出している場所だったし、刹那の行き先も腕の良い靴職人が多い場所だ。
「自分の持つ鍵の由来を知る事は魔法を使う上で技術の次に大事な事であると儂は考えておる。じゃから、その為の手助けとしてこの研修を企画しておる」
「学園長先生、ひとつ聞いても良い?」
あっさりと敬語を無視する柚子に学園長以外の目が一斉に向けられるが、当の本人達は何一つ気にする事はなく。
「柚子も刹那ちゃんも、どのくらいそこにいれば良いの?これには何も書いてないよ?」
「ほう、感心感心。ちゃんと資料を見ておったのじゃな、良い質問じゃ」
少しばかり嬉しそうに長い髭を撫でると、老人は一言「儂が帰って来いと言うまで、じゃ」と笑う。
「何かしら一定の成果を上げるまで、と解釈してよろしいですか?学園長」
「うむ、そう思ってくれて構わんよ?ただし、それだけを理由に呼び戻しはしないがの?」
「…分かりました、出発日も記載がありませんが」
すっかりいつもの調子を取り戻した刹那が資料にペンを走らせながら言う。
柚子も珍しく真面目な表情で話に耳を傾けている。
「いつ出発してくれても構わんよ?向こうにはもう話がついておるし、行けば案内をしてくれる手筈も整っておるから」
そうですか、では、と刹那はペンと資料を持ち直して学園長に向き背を正す。
「資料は今夜中に目を通します。一両日にはこちらを出ると、あちらにお伝え願えますか」
「刹那ちゃん!?」
急な言葉に驚いたのだろう柚子の声。
「早く行く日を決めないと、ずるずる日を延ばしてしまうから…私が何もかもをちゃんと決めないと動けないの、知ってるでしょ、柚子」
「じ、じゃあ柚子も!柚子も、刹那ちゃんが行く時に一緒に行く!」
珍しく真剣な柚子の口から出たのは、そこにいた全員が「勢いに任せた」と思う位、柚子にしては思い切った台詞。
が、柚子が刹那の手から資料を取り、行き先の書かれた箇所を並べた瞬間、それが勢いではなかったのだと全員が理解した。
「行き先、近いもん。ここなら移動は列車でしょ?途中まで一緒に行くのは大丈夫なんだよね、学園長先生?」
「一向に構わんよ」
「じゃあ、刹那ちゃん、一緒に、途中まで行こう?」
学園長、刹那と柚子の大きな目が順番に動く。
「…分かったわ。じゃあ柚子の準備もあるから週末はどう?正門で待ち合わせて、一緒に途中まで行きましょうか」
一生懸命な柚子に負けた刹那がそう提案すると、柚子は資料を刹那に手渡しながら満面の笑みで頷く。
「話は決まったみたいニャね。各々の担当にはこちらから連絡しておくニャ。ふたりとも、くれぐれも気を付けて行くニャよ」
コットが目をぱちぱちさせながらそう言った、次の瞬間。
柚子と刹那は中庭の真ん中にいた。
「…コットね」
「すごいねぇ、物体移動術。柚子にも出来ればあっちこっち行きたい所に行けるのになぁ」
「柚子には柚子だけの魔法があるのよ」
それに、物体移動術は柚子の魔法とは方向性が違うもの、と刹那が言うと、2人はとりあえず帰宅前に待ち合わせ時間をきっちり決めてしまおうとベンチに座り込んだ。
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