オリジナル2
「コウちゃん、どこ行くの?」
後ろからの柚子の声に、コウは子供の様な笑顔を作って振り返ると、左手にボール大のカプセルを作り出す。
「あたしの魔法は、日々の積み重ねが大事なの、よっ!」
かきん、と小さな音を立てて高く打ち上げられたカプセルは柚子の手に吸い寄せられる様に落下して、ぱちんと弾ける。
瞬間、柚子の周りに小さな色とりどりの花が舞い踊る。
「コウちゃん、すごい!」
「力加減とヒットするポイントで落下点が変わるのよ。理屈は分かってるけどまだまだ練習しなきゃだから、特別棟行ってくるわ」
そう言うとコウは予告ホームランよろしく柚子にバットを向ける。
「あんたはちゃんと忘れずに学園長の所に行くのよ?」
柚子が頷くのを確認すると、コウは手を振ってから早足で歩き去る。
柚子はその背にぱたぱたと手を振り返しながらふと思う。
改めて思い出してみれば、同級生や先輩達が何ヶ月か顔を見ない時期があった気がする。
それがコウの言う「研修に行っていた」という事なのだろう。
柚子は手渡された紙に目をやってから勢い良く立ち上がると、まっすぐ前を見る。
とにかく今やらねばならない事を片付けて、それから刹那と学園長を訪ねる。
頭の中を整頓すると、柚子はまたすたすたと歩き出した。
夕方を迎える頃、柚子はようやく自由に動ける様になり、帰宅前に図書館に入り浸る刹那を捕まえてコウに言われた通り学園長室を訪ねていた。
三階建ての最上階、柚子は重厚なドアをノックする。が一向に返事がない。
「失礼しまぁす」
柚子がそう言ってドアを開き、2人は思い返せば初めての学園長室に足を踏み入れる。
そこは当たり前に教室よりも狭かったが、天井が高いからか広々としている様に思える。
くすんだ赤の絨毯とカーテンは学園の歴史を表す様だが、部屋の中には比較的新しい大きな机とソファのセット、幾つかの書類棚、学園長の業務用デスクとコットの物だろう丸いクッションがあるだけだ。
「…殺風景ね」
「刹那ちゃん、それ言っちゃダメなやつだと思う」
「入ってくるなり失礼な事を言うニャね」
「だよねぇ、確かに何だかがらーんとしてて物足りないけど」
「儂としてはもう少し物を置きたい所なんじゃが、何を置くかがのぅ」
「じゃあせめて魔法書を並べる本棚くらいは設えるべきだと思うわ。学園長の部屋、なんだもの」
そこまでを口にしてから、会話が成立している事実にキョトンとして柚子と刹那が声がした後方を見やると、そこにはいつもの様に優しい笑顔を浮かべた老人と黒猫の姿。
「が、学園長!申し訳ありません、失礼な事を」
焦って刹那が頭を下げると、老人は何も言わずに刹那の頭を撫でる。
続いて黒猫がぽん、と頭を踏み台にしてソファに跳ぶと、刹那は顔を真っ赤にして頭を上げる。
「刹那ちゃん、大丈夫?」
覗き込む柚子の顔を見て落ち着いたのか、刹那はこほん、と咳払いをしてからいつもの顔で学園長に向き直る。
「突然申し訳ありません、研修についての詳細をお訊ねしたく参りました」
「告知が今日じゃったからのぅ、そうじゃろうと思って用意しておったよ?」
後ろからの柚子の声に、コウは子供の様な笑顔を作って振り返ると、左手にボール大のカプセルを作り出す。
「あたしの魔法は、日々の積み重ねが大事なの、よっ!」
かきん、と小さな音を立てて高く打ち上げられたカプセルは柚子の手に吸い寄せられる様に落下して、ぱちんと弾ける。
瞬間、柚子の周りに小さな色とりどりの花が舞い踊る。
「コウちゃん、すごい!」
「力加減とヒットするポイントで落下点が変わるのよ。理屈は分かってるけどまだまだ練習しなきゃだから、特別棟行ってくるわ」
そう言うとコウは予告ホームランよろしく柚子にバットを向ける。
「あんたはちゃんと忘れずに学園長の所に行くのよ?」
柚子が頷くのを確認すると、コウは手を振ってから早足で歩き去る。
柚子はその背にぱたぱたと手を振り返しながらふと思う。
改めて思い出してみれば、同級生や先輩達が何ヶ月か顔を見ない時期があった気がする。
それがコウの言う「研修に行っていた」という事なのだろう。
柚子は手渡された紙に目をやってから勢い良く立ち上がると、まっすぐ前を見る。
とにかく今やらねばならない事を片付けて、それから刹那と学園長を訪ねる。
頭の中を整頓すると、柚子はまたすたすたと歩き出した。
夕方を迎える頃、柚子はようやく自由に動ける様になり、帰宅前に図書館に入り浸る刹那を捕まえてコウに言われた通り学園長室を訪ねていた。
三階建ての最上階、柚子は重厚なドアをノックする。が一向に返事がない。
「失礼しまぁす」
柚子がそう言ってドアを開き、2人は思い返せば初めての学園長室に足を踏み入れる。
そこは当たり前に教室よりも狭かったが、天井が高いからか広々としている様に思える。
くすんだ赤の絨毯とカーテンは学園の歴史を表す様だが、部屋の中には比較的新しい大きな机とソファのセット、幾つかの書類棚、学園長の業務用デスクとコットの物だろう丸いクッションがあるだけだ。
「…殺風景ね」
「刹那ちゃん、それ言っちゃダメなやつだと思う」
「入ってくるなり失礼な事を言うニャね」
「だよねぇ、確かに何だかがらーんとしてて物足りないけど」
「儂としてはもう少し物を置きたい所なんじゃが、何を置くかがのぅ」
「じゃあせめて魔法書を並べる本棚くらいは設えるべきだと思うわ。学園長の部屋、なんだもの」
そこまでを口にしてから、会話が成立している事実にキョトンとして柚子と刹那が声がした後方を見やると、そこにはいつもの様に優しい笑顔を浮かべた老人と黒猫の姿。
「が、学園長!申し訳ありません、失礼な事を」
焦って刹那が頭を下げると、老人は何も言わずに刹那の頭を撫でる。
続いて黒猫がぽん、と頭を踏み台にしてソファに跳ぶと、刹那は顔を真っ赤にして頭を上げる。
「刹那ちゃん、大丈夫?」
覗き込む柚子の顔を見て落ち着いたのか、刹那はこほん、と咳払いをしてからいつもの顔で学園長に向き直る。
「突然申し訳ありません、研修についての詳細をお訊ねしたく参りました」
「告知が今日じゃったからのぅ、そうじゃろうと思って用意しておったよ?」