オリジナル2
森を出た柚子達は、すぐそこに見える赤い看板の食堂を目指す。
流石に営業中の札が目に入ると表からは入りづらく、3人は裏口に回ると勝手口のドアを、軽くノックする。
しばらくの後、開いたドアの向こうには3人を合わせても足りない位に恰幅の良い女性がいた。
「あの、この子を連れて来ました」
柚子がそう言って籠を差し出すと、女性はにっこりと、遠目にもはっきり分かる笑顔を浮かべた。
「おやまあ、あんた達が…さ、お入り」
女性に勧められるままに中に入ると、そこは台所。
注文があるのだろう料理が温かい湯気を立てている。
が、なぜだろう、店にあるお品書きに幾つか「売り切れ」の札が貼られ、台所の奥にあるかまどの火の前で火吹き棒を片手に必死になっている人がいる。
「ああ、ウチの旦那だよ。その子がいなくなって、種火の管理や火加減を自分でやらなきゃいけなくなって、挙句、手が回らなくてあ料理の数を減らさなきゃいけなくなってね…まあ、よくよく考えりゃ至極当たり前の事なんだよ、自分達で火加減やら何やらやらなきゃいけない、なんて。でも、あたし達はその子にすっかり頼って、いつの間にか感謝も有り難さも、何も感じなくなってた…それが、いなくなって分かるなんて皮肉なもんだよ」
柚子はそう話す女性の前で、籠を後ろ手にして声をかける。
「この子が帰って来たら…ちゃんと、優しくしてくれますか?」
柚子の言葉の中にある意味が分かるのは魔法少女達。
次にこの精霊に何かあれば、今度は今回の様に収まるかどうかは分からない。
精霊との戦いや駆け引きとはそう言う不安定なものなのだ。
女性、おかみさんだろう人は柚子に笑いかけるとはっきりと言う。
「勿論。ウチの店も、あたし達も、その子がいるからやっていけるんだから」
もう二度とこんな騒ぎは起こさないよ。
柚子はおかみさんの言葉を聞いてから後ろにいる更紗と刹那に目を合わせると、かまどの前にゆっくり足を進める。
籠の扉に指をかけ、静かに開くと柚子は小さな声で中にいる炎に言う。
「また、頑張る?」
炎はしばらくふわふわしていたが、扉が開いたのが分かったのか、籠の真ん中から扉に向かってぽんぽんと跳ねる。
声はないが、それが答えだと感じた柚子は開いた扉をかまどの入口に近付ける。
炎はそのまま籠からかまどへと跳ね、瞬く間にそれまであったかまどの火と同化する。
「…おかえり」
見守っていた食堂の主はそう優しく呟くと、両手を上げて背伸びをする。
「さて、これで俺は料理に専念出来るな!」
にこやかに火吹き棒をかまどのふちに置くと、主はお品書きに貼られた札を剥がしにかかる。
「帰って来てくれて…ありがとうね」
おかみさんは静かにかまどに向かって言うと、次の瞬間、にこやかに柚子達に向き直る。
「さて、あんた達にお礼をしなきゃ。何か食べておいきな」
「いえ、まだ授業中なので」
「後日改めて」
危うく頷きそうだった柚子の前に更紗と刹那が素早く立ち塞がり、そのまま柚子を引きずって勝手口を出る。
「ねえねえ、ちょっとぐらい何かご馳走になっても良かったんじゃない?更紗ちゃん、刹那ちゃん」
「授業中だと言わなきゃ自分の状況が分からないのかニャ?柚子」
不意を付いた足元からの声に柚子は丸い目をますます丸くする。
「はあい、先生」
「帰ったら今回の授業についてレポートを提出するニャ」
白猫はそう言いながら3人の後ろをちょこちょこと歩いていた。
心なしか満足そうに。
流石に営業中の札が目に入ると表からは入りづらく、3人は裏口に回ると勝手口のドアを、軽くノックする。
しばらくの後、開いたドアの向こうには3人を合わせても足りない位に恰幅の良い女性がいた。
「あの、この子を連れて来ました」
柚子がそう言って籠を差し出すと、女性はにっこりと、遠目にもはっきり分かる笑顔を浮かべた。
「おやまあ、あんた達が…さ、お入り」
女性に勧められるままに中に入ると、そこは台所。
注文があるのだろう料理が温かい湯気を立てている。
が、なぜだろう、店にあるお品書きに幾つか「売り切れ」の札が貼られ、台所の奥にあるかまどの火の前で火吹き棒を片手に必死になっている人がいる。
「ああ、ウチの旦那だよ。その子がいなくなって、種火の管理や火加減を自分でやらなきゃいけなくなって、挙句、手が回らなくてあ料理の数を減らさなきゃいけなくなってね…まあ、よくよく考えりゃ至極当たり前の事なんだよ、自分達で火加減やら何やらやらなきゃいけない、なんて。でも、あたし達はその子にすっかり頼って、いつの間にか感謝も有り難さも、何も感じなくなってた…それが、いなくなって分かるなんて皮肉なもんだよ」
柚子はそう話す女性の前で、籠を後ろ手にして声をかける。
「この子が帰って来たら…ちゃんと、優しくしてくれますか?」
柚子の言葉の中にある意味が分かるのは魔法少女達。
次にこの精霊に何かあれば、今度は今回の様に収まるかどうかは分からない。
精霊との戦いや駆け引きとはそう言う不安定なものなのだ。
女性、おかみさんだろう人は柚子に笑いかけるとはっきりと言う。
「勿論。ウチの店も、あたし達も、その子がいるからやっていけるんだから」
もう二度とこんな騒ぎは起こさないよ。
柚子はおかみさんの言葉を聞いてから後ろにいる更紗と刹那に目を合わせると、かまどの前にゆっくり足を進める。
籠の扉に指をかけ、静かに開くと柚子は小さな声で中にいる炎に言う。
「また、頑張る?」
炎はしばらくふわふわしていたが、扉が開いたのが分かったのか、籠の真ん中から扉に向かってぽんぽんと跳ねる。
声はないが、それが答えだと感じた柚子は開いた扉をかまどの入口に近付ける。
炎はそのまま籠からかまどへと跳ね、瞬く間にそれまであったかまどの火と同化する。
「…おかえり」
見守っていた食堂の主はそう優しく呟くと、両手を上げて背伸びをする。
「さて、これで俺は料理に専念出来るな!」
にこやかに火吹き棒をかまどのふちに置くと、主はお品書きに貼られた札を剥がしにかかる。
「帰って来てくれて…ありがとうね」
おかみさんは静かにかまどに向かって言うと、次の瞬間、にこやかに柚子達に向き直る。
「さて、あんた達にお礼をしなきゃ。何か食べておいきな」
「いえ、まだ授業中なので」
「後日改めて」
危うく頷きそうだった柚子の前に更紗と刹那が素早く立ち塞がり、そのまま柚子を引きずって勝手口を出る。
「ねえねえ、ちょっとぐらい何かご馳走になっても良かったんじゃない?更紗ちゃん、刹那ちゃん」
「授業中だと言わなきゃ自分の状況が分からないのかニャ?柚子」
不意を付いた足元からの声に柚子は丸い目をますます丸くする。
「はあい、先生」
「帰ったら今回の授業についてレポートを提出するニャ」
白猫はそう言いながら3人の後ろをちょこちょこと歩いていた。
心なしか満足そうに。