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繚乱〜肆

「わたくし、あなたにそういうお人が現れたらどうしたら良いかしらってずっと考えていましたの…そうしたら、椿が良い物を持ち帰ってくれたものだから」
「熊野…神社」
御札の朱印から朧月は神社の名前を呟く。
「わたくし達の様な陰間には…必要のない事、なのだけれど」
桜花はそう前置きしてから話し始める。
いつの間にか部屋に来た椿が静かに桜花と朧月の前に茶を据えて、朧月ににっこりと微笑んで部屋を出る。
桜花はそんな椿を目で追いながら口を開く。
「女郎屋では、良くある事なの…ほら、わたくし達の様な商売をしていると、人の情が分からなくなるでしょう?女郎達はそんな時、熊野神社の御札を頂いて、その裏に旦那への起請文を記すの…年季が明けたら、必ずあなたと共に参りますって」
「起請文、ですか」
「女郎屋は年季があるからそれも約束になるのだけれど、桜花は年季などないものね」
わたくしが決めてしまった事をわたくしが言うのも何なのだけれど。
桜花はそう言って茶を手に取る。
朧月は御札を手にしたまま桜花に言う。
「その様に使われる御札を、なぜ私に?」
「太夫皆に渡すつもりなのだけど、まずあなたにね」
あなたは旦那を取らないって心に決めてしまっているから。
桜花はそう言って華やかに、だが優しい笑顔を作る。
「無理に旦那と決めなくて良いの…あなたが側にいたいお人に、あなたが心底好いたお人に、一筆お渡しなさい」
「花魁…でも」
「惚れた腫れたは御法度。わたくしはそう言い続けてきたけれど…そう言われたからと言って誰も好きにならない訳がないでしょう?それは至極当たり前な事よ」
ただ、それを口にしてはいけないの。
口にすれば、全てが…心も、体も、何もかもの歯止めがきかなくなって、止まらなくなってしまうわ…それこそ最悪の事も考えておかなくてはならない位に。
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