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繚乱〜肆

「本当に、気を付けて下さいませ…お怪我などされていては次に来られるまで心配で」
そう言って今度は少しだけ、悲しい顔をする朧月を近藤は布を巻いていない腕で引き寄せる。
愛しい。
声にならず近藤の腕はそう言わんばかりの強さで朧月を抱き締める。
朧月はそれを苦しいとも言わず受け入れる。
寧ろ強く抱き締められるのが嬉しいと、こちらも声にせず、ただ近藤の腕の中で目を閉じる。
これで良い。
多くを望めば、それが叶わない苦しさを味わう。
今のまま、寧ろ今が良い。
言葉には出来ない想い。
それすらも伝えないままで。
同じ事を胸に抱いているとは知らず、二人はただ時間だけを消費していた。


明け方。
日の出前に近藤は桜花を後にする。
「またのお上りを」
刀を近藤に手渡しながら朧月が小さく言うと、近藤は「ああ、近い内に」と答え、刀を腰に差す。
そのまま体を返し、暖簾を潜ると外はまだ薄暗い。
す、と空へ目をやってから近藤は大門へ向かって歩を進めた。
その背を見送っていた朧月は「桜花が呼んでいる」と言付けを受け、部屋で身支度を整えてから桜花の部屋を訪ねていた。
「呼びつけてしまってごめんなさいね、朧月」
「いえ、何か急なご用でしょうか」
朝早いと言うのに目の前の花魁はいつもと変わらない。
朧月はそんな桜花の姿勢に「私はまだまだだ」と思わされる。
「大した事ではないの…これをね、お渡ししたかったの」
そう言って桜花がつと差し出したのは一枚の御札。
「あなたが旦那を取らないのは分かっているわ。でもあなただって、この方しかいない、と思うお人が出来るかもしれないでしょう?」
朧月は御札を手に取ってよくよく眺めている。
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