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繚乱〜肆

「その方に関しましては東雲の言がございまして…どうやら九重という呉服屋の客人の様でございます。再三、若旦那様とご一緒に来られたと」
桜花の真後ろから声が答える。
それを不思議にも思わず桜花は言葉を続ける。
「九重…ここにも反物を買い付けている御店ですわね…そこの若旦那の連れてきた人なら…変に疑わずとも良いでしょう」
かしこまりました、と声と気配が消えると、桜花は「廓の主」の顔から「花魁」の顔に戻り「床入りの刻限を知らせて頂戴」と皆に知らせを出した。



閨に入るとひとしきり熱に浮かされていた朧月と近藤は、布団の中でゆるゆると睦み合いながら話をする。
当たり前に体を交わす他に、二人はこんな微睡む時間も好きだった。
「お怪我は痛まれませんか?」
「ああ、大丈夫だ。お前を抱いていればすぐ治る」
「そんな事…あ」
朧月の指が近藤の左腕に触れる。
指に分かるのは先刻よりも緩んだ布の感触。
朧月は体を起こし、乱れた襦袢を手早く整える。
「布が緩んでおりますね…巻き直しましょう」
「済まないな」
声と共に近藤も体を起こす。
鍛えられてはいないが無駄のない体に朧月の胸が高鳴る。
それが頬の熱になるのを隠さず、朧月は差し出された近藤の腕に手を伸ばす。
布を取り払って見えるのは薬を塗っているのだろう油紙。
「油紙を、押さえて頂けますか?私が傷に触れては痛みましょうから」
近藤は「ああ」と一言、程なく朧月の巻き直した布はきつくも緩くもない、丁度良い強さだった。
「上手いものだな」
「廓でも怪我はあります…特に新造達は。手当てをするのも私達先達の務めですから」
薄い灯りに朧月の穏やかな笑顔が浮かぶ。
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