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繚乱〜肆

「こ、近藤様」
朧月に相反する様な落ち着いた声で近藤は言う。
「今日の昼間にな、庭木が伸びたのを切っていたら、枝に引っかかってしまって」
「お切りに、なったんですか?」
「ああ、ちょっと派手にな。すぐ部屋に入って止血したんだが…その時に落ちたかも知れんな…薬箱の真下に置いていたから」
朧月の顔から焦りが消え、入れ替わりに心配が浮かぶ。
そっと布に手を触れると朧月は、消えそうな声で言う。
「気を…付けて頂かなくては困ります…こんな…」
「済まない…昨今の騒ぎもあるし、多分、お前には色々気を遣わせたんだろうな」
「いいえ、私の事は良いんです…傷は、痛くないのですか?」
「お前が触れてくれたからな」
朧月は安心した様に近藤の胸に頬を寄せる。
近藤も袖を直して、紅葉の差し出す酒を受ける。
紅葉も空気が元に戻って安心しているのだろう、いつもと変わりなくにこにことしている。
近藤の暖かい胸の中、朧月の中にあった不安はすっかり無くなり、後に残るのは近藤と共にいるという幸福な想いだった。



「そう…ご自分のお怪我でしたのね…なら良かったわ」
床入りの前、朧月は近藤に聞いた話を桜花の元へ届ける為、座敷から離れていた。
桜花も安心した表情で朧月を見る。
「そんなお怪我をなさっているのにあなたに会いに来て下さるなんて、あなたは余程大事に想われているのね」
「私は、あの方にとってはただの色子でございます…」
「ただの色子に会う為に…そうだとしても、その方に気に入られている事に嘘はないでしょう?さ、お戻りなさい。すぐ床入りの時刻ですわよ」
「はい花魁。失礼致します」
朧月の背を見送ってから、桜花は独り言の様に口を開く。
「…身元は…確かな方?」
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