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繚乱〜肆

一方、部屋に戻ったはずの朧月は、部屋に入らず襖の前で立ち止まっていた。
どうやって、あくまでも自然な形で怪我をしていないかを聞けば良いんだろう。
上手に聞けたとしても、もしかしたら次の言葉次第では近藤が気を悪くするかもしれない。
いや、違う。
そうではない。
この襖が開けない、その原因は「不安」だ。
もしも。
もしも近藤がどこにも怪我をしてなかったら。
あの真新しく見える染みが、実は近藤の怪我で出来た染みではなかったら。
朧月は不安を払拭する様に頭を左右に振ると、深呼吸を一つ、ゆっくりと襖に手をかけた。
「お帰りなさいませ」
開く襖にいち早く気付いた紅葉が声をかけると、それに続いて近藤の目が朧月に向く。
「どうした朧月…顔色が優れない様に見えるが」
「いえ、何でも…ちょっと番頭さん達が」
顔に、声に、態度に。
どうしても頭の中から消えない不安が表れない様に、と朧月は全てに細心の注意を払いながら近藤の隣へ座る。
「番頭達がどうかしたのか?何か困った事でもあったのか」
「大した事では…あの、近藤様、つまらない事をお聞きしても…?」
「ああ、構わんが…何だ?そんな風にお前が言い出すのは珍しいな」
柔らかく笑う近藤の右手が朧月の頬を撫でる。
その手に自分の手を重ねて、朧月は意を決して口を開く。
「もしかしたら…どこか、お怪我をされてはおられませんか…その…」
「怪我?」
近藤の声はいつもと変わらない。
朧月は刀の柄に染みがあった事を素直に話した。
近藤はそれを聞くと、少し申し訳なさそうに話す朧月に軽く口付けて、表情を和らげたまま言った。
「ああ…それなら」
朧月の頬から手が離れ、その手はもう片方の、左の袖を引き上げる。
そこに見えたのは腕の、肘と手首の間辺りに長く巻かれた白い布。
朧月の声に焦りが浮かぶ。
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