このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜肆

「桜花、姐さん」
驚く朧月は言葉を詰まらせながらも桜花に頭を下げる。
「ごめんなさいね、朧月。あなたが来なくては話が始まらなかったものだから」
意味の分からない朧月に艶やかに微笑んでから、花魁はすいと体を壁へ寄せ、朧月の視界にお客達から預かった品を並べてある棚を入れる。
そこには見慣れた近藤の刀も並んでいる。
「それで、私に何か」
「太夫、この刀なんですが…この、柄の所に何やら…」
番頭が指差したのは近藤の大刀。
桜花に気を遣いつつ朧月が刀に近付いて、番頭の差した場所を良く見ると、そこには以前は無かったはずの染みが見える。
「…ただの染み…ではないんですか?」
「それが」
番頭がもう一人、陰にいる者を呼ぶ。
それは朧月にも分かる、近藤の刀を預かった下男。
男はおずおずと朧月と桜花に見える様に手を広げる。
そこにあるのは赤い色。
「…っ」
朧月の声が詰まると、桜花は静かに口を開く。
「皆がこの刀はあなたのお客様の物だと言うの…その方、お怪我を?」
「いえ…どこも…でも、もしかしたらどこか…」
「無理にとは言わないわ。でももしお聞き出来るのなら、お怪我をなさっていないかどうか…聞いて頂戴な」
「は、い」
朧月は下男の手から目を離さない。
少しだが顔色も悪く表情も優れない様に見える。
見つめる朧月の目の奧が、なぜだろう、じんと痛む。
薄い色だがこの赤には絶対に見覚えがある。
だれしも一度は必ず目にする、身に馴染んだ赤い色。
「決してあなたのお客がどうとか思っている訳ではありませんわ。ただ、この頃少し騒がしいでしょう?」
「仰りたい事…皆の不安も分かっています、姐さん…ただ少し、驚いてしまって」
「そうですわよね。理由もないのに皆が騒ぐので、わたくしも気になってしまっただけですの…さ、戻りましょう」
その後、それでもどこか釈然としない番頭達に桜花は「なら調べれば宜しいのよ」と提案、朧月が部屋へ戻る背中を見送ってから「お医者様ならこれが何か、すぐお分かりになるでしょう」と刀の染みを移した布を番頭に手渡したのだった。
3/27ページ
スキ