このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜東雲

次に桂が見たのは薄明かりの中にある見慣れた天井だった。
横になっていた体を何とか起こし、布団の上で周りを見回すとそこが自分の部屋だと理解できる。
神社からどうやって帰ってきたのか分からないが、外は既に闇の中。
出かけていた時とは違い、きちんと寝間着を着ているという事は、自力で着替えたのかはたまた誰かが着せてくれたのか定かではない。
思い出そうとすると浮かぶのは神社での草太との会話と草太の表情。
桂は半ば無理矢理に思い出そうとする行為を止め、頭から布団に潜り込んだ。

それから数日、桂は部屋から出なかった。
具合が悪いと両親や兄には伝えたが、実の所は違う。
意識がはっきりする度に浮かぶ草太の言葉と表情が、桂に今まで何とも思わなかった「着飾る」事に対する抵抗を与えていたのだ。
自分は男なのに。
桂がそう思う度に桂の手から今までの自分が離れて行く。
もしかしたら今までの自分は間違いだったのかもしれない。でも、綺麗な着物を着る事や、髪を綺麗に飾る事は大好きだったのに。
桂が何やら釈然としないまま、珍しく無地の着物を着て、髪も結わずに下ろしたままで部屋を出たのは、神社での事があってから五日目の朝だった。
その朝は、もはや桂の知っている穏やかな朝ではなかった。
いつもなら明るい筈の店がまだ戸を閉めたまま、外からの光で薄暗い中に両親と兄の影。いつもなら賑やかに聞こえる店子の声もない。
「…どうしてこんなに暗いの…父様」
不意を突いた桂の声に、慌てて両親が「何か」を隠す。
が、桂の目には既に「それ」がはっきりと見えていた。
白い紙に「化け物」「出て行け」「色子」他にもあらゆる悪態が記されている。
桂は「それ」が自分の事だと、なぜだろう、即座に悟っていた。
9/15ページ
スキ