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繚乱〜参

それから半月、近藤も真一郎も互いに忙しく、また桜花から遠退く。
近藤にすれば、一日たりとも朧月の事を考えない日はないのだが、九重屋の商売が右肩上がりに上手く運ぶのと、裏の仕事もちらほら入るのとが邪魔をして、普段から余りある近藤の体力を見事に奪っていた。
桜花でも同様で、相変わらず引く手数多の朧月と東雲は廓の中を右往左往する日々。
新しく新造に上がった色子も増え、教える側でもある二人は、そうでなくても取れない自分の時間を午睡やぼんやりするだけに費やしていた。
「姐さん方、瓦版です」
朧月と東雲が並んで休んでいると、皐月と紅葉がそう言って茶と茶菓子を手にやってくる。
「何かあったのかねえ」
「吉原にまで来るなんて、大事でしょうか」
普段の小さな事件や話題なら瓦版屋も街で商売すれば良いのだが、大きな事件があった時にはこれが売上時と吉原にも瓦版屋が訪れる。
朧月が茶に手を伸ばしながら何気なく瓦版に目をやると、そこには「辻斬り」と言う文字が見える。
「物騒ですね」
「ああ…殺された方も札付きらしいからお上もどうしようもないみたいだけど…辻斬りなんて穏やかじゃないね」
「本当に…」
東雲の手から瓦版を受け取りながら朧月は記事に目を通す。
辻斬りの下手人は挙がらず、目撃した者もなし。
仏を見付けたのは、その夜偶然道を変えて移動していた蕎麦屋らしい。
仏は先頃から江戸にいた小悪人で、番屋も必死に行方を探していた矢先の事。
「…一太刀」
「らしいね。結構な腕の辻斬りだ」
「捕まるんでしょうか」
「お上がどうするかも決まってないなら、今見付かっても捕まらないだろうね…怖い話だよ」
「そうですね」
朧月はそう言って瓦版を置く。
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