繚乱〜参
「あのお人と何度も話して…そのうち思ったんだよ。あんたを、もしかしたら近藤様なら変えられるんじゃないかって」
「姐さん…」
「答えておくれ朧月。あんたは、近藤様をどう思ってるんだい?」
入る風に背を向けた東雲の薄い色の髪がまるで絹糸の様に光る。
朧月はそんな東雲にはっきりと答えた。
私は、近藤様に、執着しています。
「こんな事は初めてです…一も二もない、ただあの人に抱かれて、あの人に触れて、側にいたい…」
東雲は朧月の答えに納得したのか、それから何も言わずにただ、座り込む朧月の肩を抱き締める。
「私は…このまま近藤様を待って良いのでしょうか…」
不安そうに言う朧月に言葉を返さずに東雲は次の言葉を待つ。
それが朧月にとって話しやすいやり方だと長い付き合いの東雲は分かっている。
「あの人は、私の大事な客で良いと言ってくれた…それは、私を色子としか見ていないのかも知れないから、言えた言葉なのかも、と」
朧月は手を握り締めながら言葉を続ける。
「あの頃なら、それは何とも思わなかった…あの人がした事も諦めが付いた…私は」
また誰かを信じて、裏切られるのが怖いんです。
絞り出す様な朧月の声に、東雲は静かに言う。
「それが怖いのはあんただけじゃない…あたしだって怖いよ」
「姐さん…」
「あたしが旦那を取らないのはね、その旦那に捨てられるのが怖いからさ。客なら、離れてもまた戻る隙がある…あたしは、二度と一人に縛られたくない」
昔の話だけどね。
東雲はそう言って朧月と額を合わせると、さて、と一息「片付けるよ」と座布団やら膳やらを動かし始めた。
朧月は「はい」と東雲に笑うと座り込んでいた座布団を東雲が積んだ座布団の上にぽんと置いた。
外から入る風には、先刻より少しだけ、夏の香りがしていた。
「姐さん…」
「答えておくれ朧月。あんたは、近藤様をどう思ってるんだい?」
入る風に背を向けた東雲の薄い色の髪がまるで絹糸の様に光る。
朧月はそんな東雲にはっきりと答えた。
私は、近藤様に、執着しています。
「こんな事は初めてです…一も二もない、ただあの人に抱かれて、あの人に触れて、側にいたい…」
東雲は朧月の答えに納得したのか、それから何も言わずにただ、座り込む朧月の肩を抱き締める。
「私は…このまま近藤様を待って良いのでしょうか…」
不安そうに言う朧月に言葉を返さずに東雲は次の言葉を待つ。
それが朧月にとって話しやすいやり方だと長い付き合いの東雲は分かっている。
「あの人は、私の大事な客で良いと言ってくれた…それは、私を色子としか見ていないのかも知れないから、言えた言葉なのかも、と」
朧月は手を握り締めながら言葉を続ける。
「あの頃なら、それは何とも思わなかった…あの人がした事も諦めが付いた…私は」
また誰かを信じて、裏切られるのが怖いんです。
絞り出す様な朧月の声に、東雲は静かに言う。
「それが怖いのはあんただけじゃない…あたしだって怖いよ」
「姐さん…」
「あたしが旦那を取らないのはね、その旦那に捨てられるのが怖いからさ。客なら、離れてもまた戻る隙がある…あたしは、二度と一人に縛られたくない」
昔の話だけどね。
東雲はそう言って朧月と額を合わせると、さて、と一息「片付けるよ」と座布団やら膳やらを動かし始めた。
朧月は「はい」と東雲に笑うと座り込んでいた座布団を東雲が積んだ座布団の上にぽんと置いた。
外から入る風には、先刻より少しだけ、夏の香りがしていた。