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繚乱〜参

「話を、出来ないか」
「私の回し部屋を用意して下さい」
「間を空けて外へ」
三言。
真一郎と東雲に聞こえない様に交わした二人の言葉。
その後、少しの逢瀬を過ごし、真一郎達が床入りで部屋を出た後には、着物を乱さない様に、紅葉が起きない様にと意識しながらでも気持ちのままに抱き合った。
真一郎達が夜明け前に部屋に戻った時、そんな事があったと気付かれなかったのは、近藤と朧月の努力だったのかも知れなかった。
「お前は朧月ほどの太夫だってのに酒ばっかり…さ、帰ろうか」
真一郎が呆れながらもそう言い、部屋を出ようとした近藤を目に、座っていた座布団から立ち上がろうとした朧月を、近藤の声が止める。
「お前は、紅葉を見ていてやってくれ。見送りは良い」
朧月は「近藤様がそう仰るなら」と座敷で頭を下げる。
程なく見送りを終えた東雲が座敷に戻り、そのままの場所でいる朧月に笑う。
「近藤様はお優しかったかい?」
「え?」
きょとんとする朧月の隣に座り込みながら東雲は続ける。
「あたしには手も触れなかった、でもあんたは違うだろう?…ねえ朧月、もしかしたらって思うんだけど」
あんたを笑わせてくれたお客は 、近藤様じゃないのかい?
「姐さ…」
ほんの少し朧月の表情が変わる。
それは近藤を東雲も気に入っていると知っているからこそ。
だが東雲はそんな朧月に尚も続けて言う。
「やっぱりね、あんた、一度だけ近藤様の隣で表情を変えたろう?その時に、そうじゃないかって思ったんだ」
「私…その」
「勘違いしないでおくれよ?あたしは確かに近藤様を気に入ってるけど、独り占めしようとは思ってないんだ…それにね」
東雲はすいと立ち上がり、座敷の窓を開く。
冷えた朝の空気が部屋に入る。
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