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繚乱〜参

朧月との僅かな逢瀬の後、近藤は真一郎のいる部屋へと戻る。
「遅い。厠にどれだけ時間がかかるんだい」
「まあまあ若旦那、近藤の旦那ほどの男前、大方、通りがかりの格子の色子に捕まってたんですよ」
「さぞかし可愛い色子だろうね」
座布団に座る近藤にそう言いながら真一郎は銚子を差し出す。
近藤はそれを受けながら「ああ、可愛い奴だった」と答える。
まさか相手が朧月とは言えないが、可愛いのは本当の事だから構わないだろう。
そんな風に思いながら数本の酒を干した頃。
「お待たせを致しました」
すいと襖が開いて朧月が座敷に戻る。
静かに隣に座る朧月の、長い髪が簪に引っかかっているのを見た近藤は自然な所作でその髪を下ろす。
「あ、有り難うございます」
そう言う朧月の顔を見て、東雲がふと笑う。
あの子、あんな風に照れるなんて珍しい。
そんな事を声に出さず思うだけに留めて、相変わらず真一郎に構う辺りは、流石といった所だろうか。
実際は小さな表情の変化だったから、気付いたのは真一郎を除く二人だけだろうが。
結局それ以降、朧月の表情が変わる事はなく、夜も更け、床入りの知らせが廓に響く。
「さ、若旦那、参りましょうか」
「近藤、お前朧月が相手でも閨には行かないつもりかい?」
東雲の手を取りながら真一郎が言うと、近藤は無言で頷く。
「旦那は頑なな方ですからね…朧月、お付き合いして差し上げておくれね」
東雲の一言に朧月も小さく頷く。
結果、座敷に残るのは近藤と朧月と、紅葉。
外から東雲達の、他の色子達の気配が無くなったのを感じたか、朧月は近藤の手に自分の手をそっと重ねる。
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