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繚乱〜参

いつもの様に座敷へ入り、朧月は近藤の隣へ、東雲は「ご無沙汰」と一言、真一郎の隣へ座り込む。
「久しいね東雲とは」
「本当に。若旦那はずっと朧月にご執心でしたからねえ」
にこやかに東雲は真一郎に酒を勧めるが、反する様に朧月の表情は固い。
紅葉にはその理由が分かっていたが、禿の自分にはどうする事も出来ないと知っているからか、少し心配そうに朧月を見守っている。
それに気付いたのは近藤だった。
「紅葉、こっちへおいで」
「は、はい」
おずおずと紅葉が近藤に近付くと、近藤は袂から小さな紙包みを二つ取り出して紅葉に持たせる。
「真一郎がお前と皐月にと。乾菓子だがな」
「ただの乾菓子じゃないんだよ?うちのお得意先なんだから」
「ありがとうございます」
紅葉は肩の力が抜けた様に笑顔でそう言うと、襖の近くにいた皐月に紙包みを手渡した。
「皐月にまで…ありがとうございます、若旦那」
「太夫二人には、また秋向きの反物でも届けるよ」
真一郎は杯を傾けながら言う。
近藤はそれを横目に、固くなっている朧月に小さく呟く。
朧月の耳に声が入ったのだろう、少し考えてから朧月は紅葉を呼び、何やら耳打ちした。
「分かりました」
紅葉がそう言って部屋を出、その後、東雲に別の客が入り、座敷の中がばたばたし始めた頃。
「朧月姐さん」
部屋の外から紅葉が声をかける。
朧月は近藤にしか聞こえない様に小さく一言呟くと「ちょっと失礼します」と部屋を出る。
そうすると必然的に、座敷には太夫が二人共いなくなってしまう。
「珍しく太夫は二人共忙しいみたいだね…ま、私達二人で呑もうか」
「そうだな」
東雲と朧月が桜花で引く手数多の太夫である事は真一郎も近藤も知っている。
こんな日は逗留する自分達に余裕が無くては太夫が辛いのだという事も。
東雲が戻る頃、真一郎と近藤の前には数本の銚子が空になって立っていた。
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